日々是転生
文字数 1,968文字
僕は毎晩、夢を見る。小さい頃から一度だって、その夢を見なかった日はない。
「あんたはいいわよね、毎日そんな能天気そうな顔してて」
朝の通学途中、幼馴染で同じ高校に通う舞 は、顔を合わせるなり僕にそう言って来た。これは毎朝繰り返される挨拶のようなもので、「おはよう」の代わりだ。
「そうかな?」
今日の舞は真紅の髪に赤い瞳か……。
舞は毎日いつも、その姿形が違う。日によって黒髪だったり、金髪だったり。目の色だって、黒、茶、青、赤と毎日違う。緑やピンク色の髪なんて日もある。
いや、そもそも顔自体が違う。毎日別人みたいなものだ。
でも本人はそのことに、全く気づいていない。毎日毎日、同じ自分だと思っている。
まぁ、でもそれは舞に限ったことじゃない。
「なによ、あんた。また夕べも女神の夢を見た訳?」
「まぁね」
「それでまた生まれ変わったとか思ってるの?」
「まぁね」
「それでなんか知らないけど、そんなすっきりしている訳?」
「まぁね」
「いいわよねぇ、毎日いい夢見られて、それで幸せなんだから、あんたは」
「高校三年生にもなって、そんなんで毎朝幸せとか、本当に羨ましいわよ」
「……あんた、よく考えるとやばい奴よね。まぁ、小さい時からそんなだったし、あたしは慣れてるけど」
そんな恨み言も毎朝のことさ。
高校に着いて、僕はいつもの教室に入る。
「おはよう」
そこにはやはり、毎日違う姿形をしたクラスメイトが座っている。
そう、毎日見た目が違うのは舞だけじゃない。僕自身も含めて、みんな外見が毎日違う。
だって、僕達は毎日生まれ変わっているのだから。
どうしてこの世界の人間達は気づいていないのだろう……。正確には、気づいていないというより、覚えていないと言うべきなのか。
この世界の人間達は、毎日毎日、同じ生がずっと続いていると思っている。
肉体の死が本当の死だと思っている……。
でも、それは間違いなんだ。僕は、いや、この世界のすべての人間達には、毎晩死が訪れている。
魂が安息につく瞬間、つまり眠りこそが本当の死。
僕は毎晩、眠りにつくと、夢の中で女神に会う。真っ白な空間に神々しく光り輝く美しい女神。
「人の子よ、あなたの今日の寿命はもう尽きました。あなたは限りある生をちゃんと全う出来ましたか?」
女神は毎晩同じ質問をして来る。
「今日までのあなたは、もう死んだのです。あなたは、明日のあなたに転生しなくてはなりません。」
いや質問だけではなく、言葉のすべてが毎晩同じだ。実は僕はもう、このセリフをすっかり暗記してしまっている。
「この世界の人間の寿命は、本当は一日しかないのです。それを、毎晩転生させることによって、連続性のある生命だと思わせているに過ぎません。」
そう女神に言われて僕は、次の転生へと繋がる扉を開く。
それが僕の毎晩見る夢。
みんなの姿形が変わってしまっているのに、僕が毎日混乱することなく、日常生活を送れているのは、僕が魂を感じることが出来るからに他ならない。舞の魂は、肉体的外見が毎日変わってしまっても、舞だと分かるし、クラスメイトのみんなもそう。
僕は外見で他人を認識しているのではなく、魂で誰なのかを判断している。
でも、クラスで一人だけ、魂が感じられない女子が居る。教室の一番後ろ端で、ずっと一人ぼっちでいる彼女。なんでも前のクラスでは、酷いイジメにあっていたとか。
彼女だけは、いつも魂を感じることが出来ない。その代わり、見た目は毎日いつも同じ姿形をしている。
どういうことなんだろう?
彼女には魂がない? 肉体だけが生きている?
それじゃあ、まるでゾンビ? アンデッドみたいじゃあないか。
僕はそんな風に思ったけれど、それ以上深く考えることはしなかった、その時は……。
だけど、魂が感じられなくなった生徒の数は次第に増えて行きはじめる。
高校三年で部活の最後の大会が終わったとか、高校卒業後の進路が決まったとか、大学受験が近づいて来たとか、そんなタイミングに合わせて、毎日同じ容姿をした魂を感じられない生徒が増えて行く。
ゾンビ映画みたいに、アンデッドが感染しているのだろうか?
そしてついには、舞までもが毎日同じ見た目のアンデッドになってしまった……。
それから毎日ずっと、舞は黒髪で黒い瞳のままだ。どんな舞に出会えるのか、僕は毎朝楽しみにしていたのに。
「あんたはいいわよね、毎日そんな能天気そうな顔してて」
毎朝の挨拶は何も変わらない。でも僕にはその舞の言葉が胸に刺さる。これまでとは言葉の重みが違う。悲しくて胸が張り裂けそうだ。
そうか、みんな魂を失って、生ける屍となってしまったんだね……。
僕も、女神に会って転生する夢を見なくなったりするのだろうか?
いつか僕も、アンデッドになってしまう日が来るのだろうか……。
「あんたはいいわよね、毎日そんな能天気そうな顔してて」
朝の通学途中、幼馴染で同じ高校に通う
「そうかな?」
今日の舞は真紅の髪に赤い瞳か……。
舞は毎日いつも、その姿形が違う。日によって黒髪だったり、金髪だったり。目の色だって、黒、茶、青、赤と毎日違う。緑やピンク色の髪なんて日もある。
いや、そもそも顔自体が違う。毎日別人みたいなものだ。
でも本人はそのことに、全く気づいていない。毎日毎日、同じ自分だと思っている。
まぁ、でもそれは舞に限ったことじゃない。
「なによ、あんた。また夕べも女神の夢を見た訳?」
「まぁね」
「それでまた生まれ変わったとか思ってるの?」
「まぁね」
「それでなんか知らないけど、そんなすっきりしている訳?」
「まぁね」
「いいわよねぇ、毎日いい夢見られて、それで幸せなんだから、あんたは」
「高校三年生にもなって、そんなんで毎朝幸せとか、本当に羨ましいわよ」
「……あんた、よく考えるとやばい奴よね。まぁ、小さい時からそんなだったし、あたしは慣れてるけど」
そんな恨み言も毎朝のことさ。
高校に着いて、僕はいつもの教室に入る。
「おはよう」
そこにはやはり、毎日違う姿形をしたクラスメイトが座っている。
そう、毎日見た目が違うのは舞だけじゃない。僕自身も含めて、みんな外見が毎日違う。
だって、僕達は毎日生まれ変わっているのだから。
どうしてこの世界の人間達は気づいていないのだろう……。正確には、気づいていないというより、覚えていないと言うべきなのか。
この世界の人間達は、毎日毎日、同じ生がずっと続いていると思っている。
肉体の死が本当の死だと思っている……。
でも、それは間違いなんだ。僕は、いや、この世界のすべての人間達には、毎晩死が訪れている。
魂が安息につく瞬間、つまり眠りこそが本当の死。
僕は毎晩、眠りにつくと、夢の中で女神に会う。真っ白な空間に神々しく光り輝く美しい女神。
「人の子よ、あなたの今日の寿命はもう尽きました。あなたは限りある生をちゃんと全う出来ましたか?」
女神は毎晩同じ質問をして来る。
「今日までのあなたは、もう死んだのです。あなたは、明日のあなたに転生しなくてはなりません。」
いや質問だけではなく、言葉のすべてが毎晩同じだ。実は僕はもう、このセリフをすっかり暗記してしまっている。
「この世界の人間の寿命は、本当は一日しかないのです。それを、毎晩転生させることによって、連続性のある生命だと思わせているに過ぎません。」
そう女神に言われて僕は、次の転生へと繋がる扉を開く。
それが僕の毎晩見る夢。
みんなの姿形が変わってしまっているのに、僕が毎日混乱することなく、日常生活を送れているのは、僕が魂を感じることが出来るからに他ならない。舞の魂は、肉体的外見が毎日変わってしまっても、舞だと分かるし、クラスメイトのみんなもそう。
僕は外見で他人を認識しているのではなく、魂で誰なのかを判断している。
でも、クラスで一人だけ、魂が感じられない女子が居る。教室の一番後ろ端で、ずっと一人ぼっちでいる彼女。なんでも前のクラスでは、酷いイジメにあっていたとか。
彼女だけは、いつも魂を感じることが出来ない。その代わり、見た目は毎日いつも同じ姿形をしている。
どういうことなんだろう?
彼女には魂がない? 肉体だけが生きている?
それじゃあ、まるでゾンビ? アンデッドみたいじゃあないか。
僕はそんな風に思ったけれど、それ以上深く考えることはしなかった、その時は……。
だけど、魂が感じられなくなった生徒の数は次第に増えて行きはじめる。
高校三年で部活の最後の大会が終わったとか、高校卒業後の進路が決まったとか、大学受験が近づいて来たとか、そんなタイミングに合わせて、毎日同じ容姿をした魂を感じられない生徒が増えて行く。
ゾンビ映画みたいに、アンデッドが感染しているのだろうか?
そしてついには、舞までもが毎日同じ見た目のアンデッドになってしまった……。
それから毎日ずっと、舞は黒髪で黒い瞳のままだ。どんな舞に出会えるのか、僕は毎朝楽しみにしていたのに。
「あんたはいいわよね、毎日そんな能天気そうな顔してて」
毎朝の挨拶は何も変わらない。でも僕にはその舞の言葉が胸に刺さる。これまでとは言葉の重みが違う。悲しくて胸が張り裂けそうだ。
そうか、みんな魂を失って、生ける屍となってしまったんだね……。
僕も、女神に会って転生する夢を見なくなったりするのだろうか?
いつか僕も、アンデッドになってしまう日が来るのだろうか……。