第一話　狐ノ尻尾荘管理人おこん

鳥のさえずりが聴こえる。彼女の耳がピクリと動き同時に薄く瞼を開ける。障子の向こうから朝を告げる声、そして差し込む淡い光に目を細める。

「朝......ふあ〜」

身体を起こし小さく欠伸を漏らしたら小さく伸びをする。一緒に彼女の狐耳と尻尾もぴーんとなってしまうのは彼女、風音ノおこんの朝のお決まりだ。

彼女は布団を素早く畳み、トテトテと井戸の方へ向かい組んだ水で顔を洗い、身を清め、身なりを整える。

勿論、ご自慢の狐耳と尻尾も忘れない。

「狐火っ」

おこんが呟くと両手から炎が上がる。
彼女の持つ力のひとつだ、これで乾くのが遅い自身の尻尾と耳を素早く乾燥させる。

井戸から縁側に向かう。次はブラッシングだ狐娘たる者尻尾は特に気を遣う。ましてや仕事柄身なりは大事なのだ。
お客様の前に出ても恥じない格好で居なければならない。

「うんしょっと」

尻尾も耳を整え、寝間着から仕事用の着物に着替える。贔屓にしている服屋さんから開店祝いにと贈られた一品だ。小柄な彼女の寸法にしっかりと作られており、淡い桃色と紅色を基調とし要所に花と蝶があしらわれている。自分には勿体ないくらい素晴らしい一着、故に愛着も湧くというものだ大事に使わせてもらおう。

自室の鏡で身なりを確認。

「よしっ！」

と、ひとしきり確認が終わる。バッチリだ。
準備完了、あとはお客さんを待つだけである。

ただ待っているというのも勿体無いので掃除をしながらのんびりと旅人を待つのだ。

それがこの民宿管理人おこんの朝である。