ありがとう、さようなら

文字数 391文字

「あなたはあなたであなただから

ぼくがぼくとして生まれてきたのはきっと
透明なガラス瓶の中のような夜空から
露天風呂に浸かって星を眺めている
病的だった自分自身に向けて
「さようなら」
を言うためだった

ふと思い出したんだ

0と1の隙間
父と母の隙間
海と月の隙間

追憶とは儚い間接照明だ
過去は影のように
絵の具で言えば黒色で
流れる匂いは腐敗して
回転で言えば逆回転で

そしてきみと出会った

いつの間にか逆回転が反転して
星の瞬きが見えるようになったり
打ち上げ花火に涙を流したり
若い両親の皴の少ない手を思い出したり
きみと別れそうなほどのケンカをしたり

過去の手紙を深海に埋めて ぼくたちは一緒
に暮らすようになった 街を見下ろす鳥居を
跨いで そのまま空の隙間に挨拶をする そ
うして ぼくは ぼくを殺したんだ

  これは決別の詩だ

露天風呂から星を眺めるように
ぼくはぼく自身に向かって言葉を綴る
 
 ありがとう、さようなら」
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