第5話 おまけ②「お見合いをしよう」

文字数 2,111文字

ノイモートン
おまけ②「お見合いをしよう」

 おまけ②【お見合いをしよう】



























 鬧影は、年齢不詳である。

 いや、見た目からすると20代後半から30代前半と言ったところだろうが、あまりに落ちついているため、実年齢よりも上に見られてしまうかもしれない。

 そんな鬧影に関して、色々と部下たちは盛り上がっていた。

 「いやいや、絶対独身だって!!」

 「そう見えて、実は既婚者かもしれないだろ!鬧影さん、結構モテるから」

 「けど、結婚指輪とかしてないわよね」

 「確かに。隠してるだけかも」

 そんな楽しそうな噂の中、鬧影のもとに何かが届いた。

 それは何処かのお偉いさんの娘さんの写真のようだが、それを受け取った鬧影は実に困った顔をしていた。

 「あの、これは一体・・・?」

 「鬧影くんもそろそろ結婚かな、と思ってね。いや、良い子なんだよ?君のことを一度見かけたらしくて、気に入ったようでね。会うだけでも会ってみてくれないか?」

 「いえ、ですが・・・」

 鬧影は、既婚者ではない。

 だからといって、特別な恋人がいるわけでもない。

 見せられた写真に写る女性は、確かに綺麗でかわいらしく、それでいて気立ても良さそうだ。

 その写真を他の男たちに見せると、それはもう喰いつくように次々と取り合っていた。

 「仕事もありますし、この話は別の方にとうことでお願い出来ないでしょうか」

 「何を言ってるんだ。相手は君を御所望なんだよ。そんなこと出来るわけないだろう」

 ということで、結局、鬧影はその女性とお見合いをすることになった。

 先に言っておくが、これは鬧影が望んだことではなく、勝手に話しが進んでしまったため、仕方なかったことだ。

 しかも、こういう時に限って、部下たちはトラブルも起こさない。

 良いことなのだが、タイミングが悪い。

 「初めまして」

 「初めまして」

 照れたように小さく笑う女性は、確かに可憐であった。

 しかし、鬧影は心の中でため息を吐いた。

 女性が苦手なわけではなく、もちろん、男性が好きなわけでは決してない。

 だが今は仕事のことで頭が一杯であって、愛だの恋だのといったものに手をつけられる時間など無かった。

 中途半端に付き合うのも申し訳なく、それに好きでもない女性を、その気にさせてしまうのもいけないと思っている。

 鬧影とて、これまで生きてきて、好きになった女性の1人や2人いるだろうが、仕事ばかりしていたせいで、あまり上手くは行かなかったとかなんとか。

 これも噂でしかないため、当時付き合っていたのかは不明だ。

 女性のそういうところも面倒だと思っている鬧影は、とにかくどうすればここから早く逃げられるかを考えていた。

 「・・・さん、鬧影さん?」

 「あ、はい、なんですか?」

 「折角2人になれたのに、鬧影さん、全然私の話聞いてませんね。何か考えごとですか?」

 「いえ、すみません。何のお話でしたか?」

 自分が可愛いと思っている言動。

 両頬を膨らませる仕草でさえ、可愛いと思う男たちも多いだろうが、鬧影はそんなもので騙されない。

 小首を傾げる仕草も、熱くはないお茶を両手で支えながらふーふーと冷ましている仕草も、全部全部演技に見えてしまう。

 いや、実際に演技なのだろうが。

 こんな茶番にいつまで付き合わされるのだろうと思っていると、突然、身につけていた携帯が鳴った。

 どうして持ってきたのかと聞かれても、仕事の関係上仕方ないだろう。

 「すみません」

 軽く謝って2人の空間から抜けだして携帯を出ると、そこから部下の声が聞こえてきた。

 《鬧影さん!すぐ戻ってきてください!》

 「どうした」

 《なんでも、あの冰熬とかいう男が街に下りてきたらしくて、捕まえろと言う命が出ました!》

 「冰熬が?」

 冰熬が街に来ることは珍しく、それをチャンスだと思った上層部の馬鹿な連中が、捕まえられるとでも思って指示を出したのだろう。

 行ったところで、冰熬に敵うはずがないし、逃げられることも分かっているが、これを逃しては、鬧影は今日の災難から逃れることはできそうにない。

 すぐに携帯を切ると、女性のもとに謝りに行く。

 「すみません、急な仕事が入ってしまいまして、戻らないといけません」

 「えー!仕事って・・・」

 「今日お会い出来て光栄でした。しかし、きっと私よりもあなたに見合う男性が現れることでしょう。幸せを願っております」

 良いことだけを並べて、微笑みながら頭を下げると、鬧影は軽やかな気持ちで全速力で走って行った。

 残された女性は、鬧影の誠実さだけを心に刻み、諦めるのだった。

 それから数日後。

 「ま、またお見合いですか」

 「美人だぞー!きっと君も気に入るだろう!」







 「で、なんで俺のところに来たんだ」

 「いや、現実逃避したくなって」

 「お役所仕事も大変だな。祥哉、茶でも出してやれ」

 「お前に労われると、なんか逆にズシンってくるな」

 「なら帰れ」

 「もうちょっとだけいさせてくれ」

 「どいつもこいつも。勝手な野郎どもだ」

 それからというもの、鬧影はお見合いの話がくると、こうして冰熬の古民家に顔を出し、体育座りをして時間を過ごすのだとか。

 「俺の家は立ち寄り所か」



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登場人物紹介

冰熬:浮浪のおっさん。

なぜかめちゃ強い。基本だるそう。


『間違っちゃいねぇが…』

祥哉:冰熬にまとわりつく青年。

だが、その眼にあるのは畏敬。


『黙れ』

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