第1話

文字数 1,723文字

 「自分の好きな仕事をしよう」と言われるようになって久しい。どのビジネス書にもだいたい書いてあるし、時には偉大な作家先生がおっしゃっていたりもする。ぼくも、最近就活を始めるようになって、その辺りのことをよく考えるのだけど、どうしても好きな仕事をしようという風には思えない。というか、好きな仕事などできないとはなから諦めているところがある。
 でも、多くの人は、好きな仕事をしたいと思うものらしい。先日、社会人一年目の先輩に話を伺ったのだが、先輩は自分の好きな仕事ができないということで悩んでおられた。先輩は、システム開発などのエンジニアリング関係の仕事を目指し、そういう会社に就職したのだが、希望した部署と違うところに回され、いわゆるレビューや管理といったものばかりやらされているらしい。先輩は、「俺、パワーポイントを作るために会社に入ったんじゃないんだけどなあ……」と落ち込んでおられた。
でも、正直ぼくは、「そういうのって、ままあることじゃないの?」と思ってしまった。会社というシステムの中に飛び込んでいくのだから、望まない仕事をやらされたり、望まない支社に飛ばされたりする事は往々にしてあるだろう。そういうことにいちいち「嫌だなあ」などと言っていたらとてももたないと思うのだが。
 しかし、その反面、なんだか先輩が羨ましいような気もした。会社というものの中でもみくちゃにされながらも、「自分は何がしたいのか」「自分はどういう人生を送りたいのか」ということを絶えず考えているというのは、なんというか、尊い行為のようにも思われた。ぼくのように、妙にシケた態度をとっている奴の方が、側から見ればダサいのかもしれない。
 ぼくがどうして好きな仕事をしようと思えないかというと、主に三つ理由がある。
 まず一つ目は、さっきも言ったように、会社というシステムの中で、自分の意思が反映されないことなどままあるわけだから、期待するだけ損だと思うからである。
 二つ目は、あまり仕事に没頭しすぎるのが怖いからである。仕事しかしないような人生になってしまえば、いざ景気が悪くなって、リストラでもされた時に、世を儚んで自殺してしまいかねない。会社とか、経済って、それくらい脆いものだと思うし、寄りかかれるほどの強度があるか甚だ疑わしい。だから、仕事をしながらも、できるだけ距離を置いておきたいのである。
 三つ目は、自分のやりたいことは会社ではできないことだからである。ぼくのやりたいことは小さい頃から変わっていなくて、主に創作だ。音楽でも、小説でも、エッセイでも、できるものはなんでも作ってきた。それで飯を食いたいと思ったこともあったけれど、腐る程応募してコテンパンにやられたので、もう食って行こうとは思わない。でも、いまだに創作は行っている。ぼくは、会社でバリバリ働くよりも、会社で働いて考えたことを創作として出すという方に興味がある。だから、そんなに会社で活躍しようと思えない。
 以上の理由から、好きな仕事をしようと思えないのだが、これが正しいのかどうか、よくわからない。例えば、会社でだらだらと仕事をしているやつの創作が果たして面白いのだろうか? 又吉直樹さんの『火花』などを読んでいると、どれほど又吉さんがお笑いに懸けていたのかというのがひしひしと伝わってくるし、それが小説全体の魅力になっている。好きなものに一生懸命取り組むということが、どれほど自分を成長させるかを痛感させられる。そして思う。ぼくはこんな風に舐めた態度で仕事に向かっていて、果たして成長できるのだろうか? これからのぼくはどんどん衰退していく一方なのではないか?
 でも、しょうがないじゃん、とも思う。ぼくは自分のやりたいこと(創作)をやって、それで芽が出なかったから、諦めて就職しようとしてるんだよ。それでひきこもりになるような人だってたくさんいると思うけど、ぼくはなんとか就職してお金を稼がなきゃと思ってるんだよ。そりゃ、仕事には本気では取り組めないかもしれないけど、そこは褒めてくれてもいいんじゃないかと思うんだよ。ぼくは周りに迷惑をかけないために、頑張って働くつもりなんだよ。
 うーん……。
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