もうすでに古いですが
文字数 4,495文字
年甲斐もなく、すでにテンションマックスで始まったのはオタク女子(というには
学生時代は幼馴染三人でお菓子を片手に気ままに話すだけだったのが、だんだん萌え語りになっていった。社会人になってからは、さすがに人目のあるところでのオタトークは控えるようになり、自然と恋愛談義や会社の闇ネタ披露会となった。
それぞれ家族ができてからは、誰かの子どもが小さいうちはおいそれと集まることもできず、ようやく子連れで集まれるようになったと思ったら、コロナ禍になって会うことすらままならなくなってしまった。
それならそれで各家のPCを通して、久しぶりに、外では語りにくい開けっぴろげなオタトークをしようではないか、となったのだ。
そんなわけで、オタク女子三人は開始前から、久しぶりのオタトークに期待でテンションマックスだった。ふだんは口にこそしないが、萌える想いはいつだって、あふれんばかりに詰まっている。
この幼馴染三人のオタトークルールはみっつある。
さえぎらない、否定しない、押しつけない。
みっつのルールを守りつつ、いかに自分の好きなものを布教するかが
もちろん一般的なオタトークにそんなルールはない。
ただ、この三人は幼馴染かつ腐れ縁のため、幼稚園から大学まで学校が一緒で、何度もケンカを繰り返してきた。そのうちの一回に『暗黒の一ヶ月』というくらい三人とも酷い日々を送ったことがあり、各々反省して、たとえただの萌え語りだとしても(往々にしてそれはかなり熱いものだったが)、この三人でのオタトークではルールを守ろう、という誓いが結ばれたのだった。
仲直りして誓いが結ばれたのが近所の公園だったので、『公園の誓い』と呼ばれている。
『どうせだったら海とか山とか、もっと名のある綺麗な場所が良かった~』
『ケンカした状態でそんなとこにわざわざ行って出会えるわけないじゃん!』
『……(そもそも名付けなければ良かったのでは?)』
ルールを決めても会話がとっちらかってしまい、一人が何時間もマシンガントークを繰り広げる中、残り二人はしらけているような状態などにならないよう、ガッツリオタトークをしたいときは、事前にお題を決めるようになったのだ。
「『おしおきよっ』」と、それぞれ作ったアニメ声をそろえて同じ決めポーズをとる姿がPCモニターに並ぶ。昔取った杵柄と言ってもいいのか迷うところだ。
それはともかく、このように相手の語りを直接的には遮らず、いかに自然に話題を自分の語りたいネタに転換するかが、この幼馴染オタトークの醍醐味だ。
しばらくプリキュアのどのOPのどこが好きだの、どのEDのどのダンスが好きだの、今期のプリキュアは誰推しだので盛り上がった。子どもと話を合わせるために見ていると堂々と言いわけできるので、生放送をじっくり見ることができ、みんなすっかり詳しくなっている。
さらには他の女児向けアニメや世界名作劇場にまで話は広がっていった。作品タイトルが歌詞に使われている曲は多い。
「ドラゴンボール!!」と、そのままドラゴンボールのOP『魔訶不思議アドベンチャー~ドラゴンボール~』を声を合わせてテレビサイズで歌う三人。
今度はアーティストつながりだ。
「歌詞をついつい深読みしちゃうよね~」と、しばらく萌え語りで盛り上がる三人。
わかる、自分でも歌ってみたくなるよね、とひとしきり頷き合う三人。
挨拶のあとPCを切った三人の表情は、数時間話し込んだ後とは思えないくらいツヤツヤしていた。
しばし現世を忘れて二次元の世界を飛び回っていた三人は、夢から覚めたようにおもむろに立ち上がって伸びをする。
「よし!」
部屋から出たその口元には懐かしい一曲がハミングされていた。
おしまい