魔法で少女

文字数 1,310文字

 いっけなぁい遅刻遅刻~

と脳内でお茶目に叫びつつも無言でパンを咀嚼しながら走る俺は高校二年生になったばかりの柏手月。歴とした男子高校生だ。
さて、もうおわかりだと思うが俺は今時間に追われている。遅刻をするかしないかの瀬戸際だ。それというのも全ては朝から魔法少女として一仕事終えてきたからだ。
そう俺は高校二年生の男でありながら魔法少女というやつである。



魔法少女の朝は早い。わけではないが、悪党の朝が早いのでそれに伴い朝から叩き起こされるわけだ。全くいい迷惑だ。早朝から魔法少女が何をしているかといえば、まぁその朝の早い悪党を成敗している。悪党と言っても世界征服を狙う怪人とかそんな巨悪ではなく、日常に潜む万引き犯とかなのだが、これが結構馬鹿にならない。細かい悪事というのはいつでも誰かしらが何かやらかしているものだ。もちろん世界中の全てを相手にしているわけではないが、自分の身近なエリアだけに的を絞っていても結構な頻度で呼び出される。
こうして俺は朝から晩まで変身三昧な生活だ。しかも変身するたびに体は女になるのでいまや自分の真の性別がどちらなのかわからなくなりつつある。



「おはよう。つきくん」
「おはっよぅはぁはぁ、まにあっだぁ~」
教室に転がり込むと前の席の親友兼オアシスである紙垂陽が俺を見つけて声をかけてくる。うん。今日もかわいい。それに対し俺は全力疾走のせいで息が上がってまともに返事ができなかった。今の顔は恐らく最高にブスだ。
「最近滑り込みが多いですね。」
紙垂は手を貸して起こしてくれる。紳士的でかっこいい。
「春は変な人が多いんだよ...」
ようやく整ったところで小さく呟く
「え、つきくん変な人に毎朝襲われてるんですか...?」
「いや、そうじゃなくて...」
どうやら聞こえてしまったらしい。あらぬ勘違いを生んでしまったが、変な人を襲っているのはむしろ俺の方だ。魔法少女の杖という名の鈍器で不審者をこう、後ろからドスッとやっている。ちなみに魔法が必要になったことは今の所一度もない。
「え、じゃあつきくんの遅刻と変な人の出現に何の関係が...?」
「いや、何でもない。独り言だし、気にすんな」
面倒になって話を打ち切った俺に不思議そうな顔で首を傾げている。とてもかわいい。





□□□





俺の学校生活に置いて一番重要な時間というのは勉強でも部活でもなく紙垂と過ごす昼休みだ。しかしこの時間も小悪党どもに侵されつつある。誠に遺憾だ。

「セレーネ!」
セレーネというのは俺の魔法少女としての名だ。その名で俺を呼ぶのはこの世でただ一人。いや一匹だろうか。それはコットンという名の小さな人形のような生き物で、中身は大きな服に包まれていてわからないが、二頭身で頭にはぴんとたった耳と角が生えていることは外からでもわかる。あまり緩くはない見た目の自称マスコット。こいつが俺のことを魔法少女にしたのだ。
「大変だ!学校近くのコンビニで万引きをしようとしている子がいるよ!」
そして、いちいち俺に仕事を持ってくるのもまたこの自称マスコットなのだ。

仕方がない。魔法少女になってしまったからにはそれなりに責任をまっとうしなければなるまい。俺は重い腰を上げて変身する。
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