「マナー講師を嘲笑して楽しめるのは今の内だぞ」から始まる闇黒新国家

文字数 1,063文字

「すいません、こう云う者です。末松信夫さんですね?」
 俺の職場にやって来た2人は……身分証を示したはいいが……えっと……何、これ?
 文科省の一部局らしいけど……「違法教育取り締まり隊」?
 それに……。
「逮捕令状はこちらです。お子さんに対して、教育基本法に反する反道徳教育を行なおうとした容疑で逮捕します」
「へっ?」
「知らないとは言わせませんよ。お子さんから通報が有りました」

「これは、貴方が、昨日、SNSにやった書き込みですよね?」
「え……ええ……」
 取調べ室で見せられたのは……社内教育として受けさせられた「最新のビジネス・マナー」とやらに関する悪口だった。
『おいおい、取引先や会社の上司に挨拶する時は、挨拶の言葉を言った後にお辞儀しろ、ってどう云う事だ?』
『挨拶の言葉とお辞儀に順番なんて有るわけねえだろwwwwww』
「SNS上で笑いを表現するのに『w』とは……三十代にしては、また古いセンスですな」
「い……いや……それが……何か……えっと……?」
「その古いセンスのせいで、5年前の教育基本法の根本改正に頭が追い付いていらっしゃらないようだ。子供を持つ親として、どうなんですか、それ?」
「だ……だから……何でしょうか?」
「挨拶の言葉とお辞儀には順番が有り、それを守る必要が有ります。足し算や掛け算に順番が有り、それを守らないと不正解になるのと同じ事です。貴方がお子さんに事実と違う事を教えて反日非国民に洗脳してしまう前に、貴方のお子さんが、貴方がSNSにやった書き込みに気付いて、本当に良かった」
「だから……何を……」
「貴方は逮捕された時点で親権を剥奪されています。親権を取り戻せるのは裁判で無罪になった時点です。ただ、私見ですが、無罪になる可能性は、ほぼ0と思って下さい。」
「だ……だから……判るように説明して下さい」
「本当に御存知無いのですか? 貴方は、子を持つ親でありながら、子供の教育に何の関心も抱いていなかったのですね。ああ、早めに発見出来て、本当に良かった。それに対して、貴方のお子さんは、国が定めた道徳に反しているなら親でも告発すると云う、忠良なる日本臣民の鏡として表彰される事でしょう」
 そう言って……俺を逮捕した捜査官は……小学校1年生の道徳の教科書の最初のページを開いて、俺に見せた。
 そこには、こう書かれていた。
「めうえのひとへのただしいあいさつのやりかたはどれでしょう?
 ①おじぎのあとにあいさつのことばをいう。
 ②あいさつのことばのあとにおじぎをする。
 ③あいさつのことばとおじぎをどうじにやる」
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