第1話
文字数 1,856文字
僕は宇宙飛行士。人類の願いを託され、単身、宇宙船に乗り込んだ。何としてもウチュウジンに会って、地球へ連れて帰るぞ!
しばらく乗っていると、右手奥に惑星が見えてきた。着陸してみよう。
フッシューーーーーッ。
宇宙船から降り立つ。太陽から離れているせいか、肌寒い。
しばらく岩場を歩いていると、奥に人影が見えた。ウチュウジンかもしれない!話しかけてみよう。
「こんにちは。君はウチュウジンかな?」
『いえいえ。私は地底人だよ』
「は?」
『ふだんは地面の下で暮らしているんだけれど、今日はなんだか太陽が見たくて、こうして地上に出てきているんだよ。眩しいねえ』
「はあ……」
『君は、別の惑星から来たんだろ? なんか用かい?』
「あ、はい。ウチュウジンを探してまして……」
『ふむふむ。でもね、宇宙で宇宙人に会うより、宇宙で地底人に会う方がレアだよ。喜びたまえ』
確かに……。そう思ったが、なんだか面倒臭そうなので黙っておいた。
『君は、どこの惑星から来たんだい?』
「地球です」
『懐かしいなあ、地球かぁ……』
「え?」
『私のふるさとさ。私はもともと地球の地底人なんだよ。日本という国の地下に住んでいたのさ。しかし数年前に、私の家を地下鉄が貫通してね、この星に引っ越したんだよ。君は知ってるかな? 東京メトロ副都心線』
「え、ええ……。そんな浅いところに住んでいたんですか?」
『ああ、地底人は意外と浅瀬にいるよ。うじゃうじゃとね』
全く知らなかった……。“汝自身を知れ”、そんな言葉を思い出した。
『そうだ! 君に会ったことを、ブログに書いてもいいかい?』
「へ?」
『僕は“ドン底から這い上がろう”ってタイトルのブログを運営しているんだ。地底人がよく読んでるんだよ』
彼はそう言うと、右手をこちらへ向けた。その瞬間、指の先からまばゆい光線が出て僕の体を突き抜けた。
『あはあは、白目になってるよ』
写真を撮っていたのか……。
宇宙で地底人と会い、写真を撮られ、写りが悪いと注意されている。頭が混乱しそうだ。
そこに別の男がやってきた。
『やあやあ』
『どもども』
『何してるんだい?』
『ちょっと太陽が見たくてね』
『それはいい。それよりスペースゴボウが天井から顔を出したんだ。どうかね?』
『もうそんな季節か。ありがとう。いただくよ』
『じゃあ地底に戻ったら、家に持っていくよ』
どうやら彼も地底人らしい。初めて地底人どうしの近所づきあいを見たけれど、地球のそれと変わらないようだ。
『こちらの彼は?』
『地球人さ。ほら私のふるさとの』
『ああ。どもども』
僕は差し出された右手を握った。体温が高かった。
『私はね、この星の地底人だよ。君からしたら宇宙人かもしれないがね。はっはっは』
確かに。彼がこの星の地表人だろうが、地底人だろうが、僕から見たら宇宙人だ。
しかし、私が会いたいウチュウジンは、彼ではない。
『この星の地底人と地球の地底人は、以前戦争をしていたんだよ。でも今は和解が成立して、仲直りさ。なあ?』
『ああ。私はすでに地球から引っ越していて、戦時中もここで暮らしていたから、肩身が狭かったよ』
『気にするこたあない。しかしね、この戦争は地底戦争、宇宙戦争、どっちだと思う?』
『わはは。それは実に哲学的な問いだねえ』
『地底人と地底人の争いだけれど、宇宙を超えて戦ってるわけだからね』
『地底で作った武器やミサイルを使っての、宇宙空間でのバトルだもんなあ』
『難しいねえ……』
『実に……』
『でもね、いちおうその星を代表しているのは、地表人だろう?』
『もちろんそうさ。彼らが代表だ』
『理屈で言うと、いくら地底人どうしが揉めているとはいえ、その責任は地表人にあるとは考えられないか?』
『私も同じことを思っていたんだよ。でも、まだ彼らはお互いの存在を認めていないらしい。認識しているはずなのになあ……』
彼らは僕をそっちのけにして話し始めた。僕は気がつかれないよう、そおっと視界から消えた。
こんなことをしに、宇宙に来たんじゃない。僕には与えられたミッションがある。
さらにしばらく歩くと、別の男を発見した。双眼鏡で見ると、デニムを履いてネルシャツを着ていた。
むむむ? いかにも地球人っぽい!
僕は駆け寄り、話しかけた。
「おーい! 君はだれだい?」
『你好! マイネームイズ、“ウ・チュウジン”。アイムフロム・シャンハイ』
やっとウチュウジンに会えた! これで連れて帰れる!
任務完了だ!
ふう……。今回もなんとか、政府依頼の極秘ミッションをコンプリートすることができた。
しばらく乗っていると、右手奥に惑星が見えてきた。着陸してみよう。
フッシューーーーーッ。
宇宙船から降り立つ。太陽から離れているせいか、肌寒い。
しばらく岩場を歩いていると、奥に人影が見えた。ウチュウジンかもしれない!話しかけてみよう。
「こんにちは。君はウチュウジンかな?」
『いえいえ。私は地底人だよ』
「は?」
『ふだんは地面の下で暮らしているんだけれど、今日はなんだか太陽が見たくて、こうして地上に出てきているんだよ。眩しいねえ』
「はあ……」
『君は、別の惑星から来たんだろ? なんか用かい?』
「あ、はい。ウチュウジンを探してまして……」
『ふむふむ。でもね、宇宙で宇宙人に会うより、宇宙で地底人に会う方がレアだよ。喜びたまえ』
確かに……。そう思ったが、なんだか面倒臭そうなので黙っておいた。
『君は、どこの惑星から来たんだい?』
「地球です」
『懐かしいなあ、地球かぁ……』
「え?」
『私のふるさとさ。私はもともと地球の地底人なんだよ。日本という国の地下に住んでいたのさ。しかし数年前に、私の家を地下鉄が貫通してね、この星に引っ越したんだよ。君は知ってるかな? 東京メトロ副都心線』
「え、ええ……。そんな浅いところに住んでいたんですか?」
『ああ、地底人は意外と浅瀬にいるよ。うじゃうじゃとね』
全く知らなかった……。“汝自身を知れ”、そんな言葉を思い出した。
『そうだ! 君に会ったことを、ブログに書いてもいいかい?』
「へ?」
『僕は“ドン底から這い上がろう”ってタイトルのブログを運営しているんだ。地底人がよく読んでるんだよ』
彼はそう言うと、右手をこちらへ向けた。その瞬間、指の先からまばゆい光線が出て僕の体を突き抜けた。
『あはあは、白目になってるよ』
写真を撮っていたのか……。
宇宙で地底人と会い、写真を撮られ、写りが悪いと注意されている。頭が混乱しそうだ。
そこに別の男がやってきた。
『やあやあ』
『どもども』
『何してるんだい?』
『ちょっと太陽が見たくてね』
『それはいい。それよりスペースゴボウが天井から顔を出したんだ。どうかね?』
『もうそんな季節か。ありがとう。いただくよ』
『じゃあ地底に戻ったら、家に持っていくよ』
どうやら彼も地底人らしい。初めて地底人どうしの近所づきあいを見たけれど、地球のそれと変わらないようだ。
『こちらの彼は?』
『地球人さ。ほら私のふるさとの』
『ああ。どもども』
僕は差し出された右手を握った。体温が高かった。
『私はね、この星の地底人だよ。君からしたら宇宙人かもしれないがね。はっはっは』
確かに。彼がこの星の地表人だろうが、地底人だろうが、僕から見たら宇宙人だ。
しかし、私が会いたいウチュウジンは、彼ではない。
『この星の地底人と地球の地底人は、以前戦争をしていたんだよ。でも今は和解が成立して、仲直りさ。なあ?』
『ああ。私はすでに地球から引っ越していて、戦時中もここで暮らしていたから、肩身が狭かったよ』
『気にするこたあない。しかしね、この戦争は地底戦争、宇宙戦争、どっちだと思う?』
『わはは。それは実に哲学的な問いだねえ』
『地底人と地底人の争いだけれど、宇宙を超えて戦ってるわけだからね』
『地底で作った武器やミサイルを使っての、宇宙空間でのバトルだもんなあ』
『難しいねえ……』
『実に……』
『でもね、いちおうその星を代表しているのは、地表人だろう?』
『もちろんそうさ。彼らが代表だ』
『理屈で言うと、いくら地底人どうしが揉めているとはいえ、その責任は地表人にあるとは考えられないか?』
『私も同じことを思っていたんだよ。でも、まだ彼らはお互いの存在を認めていないらしい。認識しているはずなのになあ……』
彼らは僕をそっちのけにして話し始めた。僕は気がつかれないよう、そおっと視界から消えた。
こんなことをしに、宇宙に来たんじゃない。僕には与えられたミッションがある。
さらにしばらく歩くと、別の男を発見した。双眼鏡で見ると、デニムを履いてネルシャツを着ていた。
むむむ? いかにも地球人っぽい!
僕は駆け寄り、話しかけた。
「おーい! 君はだれだい?」
『你好! マイネームイズ、“ウ・チュウジン”。アイムフロム・シャンハイ』
やっとウチュウジンに会えた! これで連れて帰れる!
任務完了だ!
ふう……。今回もなんとか、政府依頼の極秘ミッションをコンプリートすることができた。