1.彼女たる

文字数 758文字

 彼女は完璧だった。私立丘陵の上中学校において、完璧と言えば彼女だった。全てにおいて一位をわが物にしていた。容姿端麗で文武両道なのだから敵うものなどいるはずがない。井の中でも何でもなく、きっとこの先も、彼女は完璧であり続けるだろう。それほど一種の凄みを持っていた。雰囲気があった。誰もが嫉妬を飛び越えて、尊敬の眼差しを向けていた。
 彼女は部活に入っていない。理由は分からない。聞いてもはぐらかされるそうだ。それは学校八不思議の一つでもあった。古来から伝わる七不思議に加わった新星の不思議だ。抜け目のない彼女に唯一ある違和感。通説として、彼女は遠慮している説がある。きっと、彼女はどの部活に入っても一番の座を奪い取ってしまう。彼女の前の一番が二番になる。だから部活に入らない。
 どんなに無茶苦茶でも、この説が納得されてしまうくらいに彼女には隙がないのだ。
 それが、彼女が完璧たる所以であり、完璧が彼女たる所以である。


「恥ずかしいことを淡々と言わないで。」
 彼女はむっとして、私をにらんでいた。



「今日は(互いを誉めあおう)式の最中なんだから、真面目にやりなさい。私は言ったから次そっちの番。」
 彼女はまだむっとしたままでいる。私のことを、続きの言葉を待つようにじっと見つめている。
「何を戸惑っているのかな、まだまだ始まったばかりじゃないか。そのままずっと口を開かないというのなら、不戦勝のまま二回戦に突入しようか。」
 ぴくりと綺麗な眉をあげたが、それでもなお彼女は沈黙を貫いている。
「ああ」「分かったから。」「悪ふざけが過ぎました。ごめんなさい。」
 彼女は数秒の後に目を細める。満足げに腕を組み始めて、椅子の上でふんぞり返る。よくできました、と言わんばかりの顔だった。
「あなたにしては、よくできました。」
 彼女は言った。


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