第1話

文字数 1,489文字

 子どもの頃、ガチャガチャをなかなか買ってもらえなかった。僕の母親がこまごましたものが嫌いだったからだ。今でもそう主張しているけれど 孫たちがガチャガチャを買う時には微笑んでいるくらいなのだから まったくもって息子の立場からすると不公平としか言えない。僕らの子どものころはキン肉マン消しゴム(以下、キン消し と略す)が全盛期だった。同級生の中にはクッキーの缶いっぱいに所有している子もいた。ダブったものなど気前の良い子は譲ってくれたので 僕も幾つか所有していたけれど 今はもう無い。
少し前にコレクタの間では 高額で取引されているという話を知って 何がお宝に化けるかわからないなぁ、と思ったくらいだ。

 ちなみにガチャガチャって年代や地域によってガチャポンやガシャポンなど色々な呼び方があるらしい。似たようなものでガチャピンもいるけれどそれは緑色の恐竜のこどもで違うということを注意喚起したい。

 子どもの頃に あまりガチャガチャを買わせてもらえなかった反動なのか、大人になった今でもたまにガチャガチャを買うことがある。最近買ったのは ノラネコぐんだん と 仕事猫 どちらも愛らしいのだ。買った品はもれなく飾る。飾るために買うのだから当然だ。引きは割と強い方でダブったりすることはあまりない。ダブってもフリマサイトで売ることも無いし、欲しいものが出品してあっても買うこともない。ガチャガチャってその時、その時の出会いだと思っているから、と言えば聞こえがいいけれど単にやりとりが面倒くさいだけ。ダブったものに関しては友達や知り合いの子どもに譲渡している。

 ガチャガチャの森というお店をご存知だろうか? 店内に壁のように高く積み上げられたガチャガチャの本体たち。森というよりはどちらかというと迷宮のようだけれど実際、あの店で迷って出られない人なんて皆無だろう。もしかしたらどれを買うべきか思い悩んで開店から閉店までずっと帰れない人はいるかもしれない、否、多分いない。
姪っ子姉妹はまず悩まない。叔父としてはもっと吟味して本当に欲しいものを選んで欲しいのだけれど このチャンスを逃してはなるものか、という思いがあるのか 何を買うのか決まった、という僕の質問に二つ返事で即答する。姉はウサギとか猫とか小物系のガチャガチャが好きで 妹の方はスズメバチとかダンゴムシなどのリアルな造形のものを選ぶ傾向にある。もちろんそれを否定することはない。決められた予算内であれば何を買っても良いよ、というルールにしているからだ。ただやはりガチャガチャだけあってダブる時はある。この間、妹の方が連続して同じものを引いた。彼女の分の予算はそれで終わった。なんとも言えない表情で僕を見る。もちろん予算内なのでそれ以上は買わない。買うと姉が不公平になる。しかしその表情が愛おし過ぎて 苦肉の策として 僕はガチャガチャ買い取り屋さんになった。ガチャガチャ買い取り屋さんとはその名の通り、ダブってしまったガチャガチャをその値段でその場で買い取る人だ。自分で買い与えたガチャガチャをさらにお金をだして買い取ってあげるという採算度外視、大赤字経営のガチャガチャ買い取り屋さんが現れたおかげで彼女は欲しかったディズニープリンセスをゲットした。まあ良い、この喜んでくれる顔が見られただけでも叔父としては満足だ。ただガチャガチャ買い取り屋さんの杜撰経営は姪っ子姉妹が室内に散らかしたカプセルの数で発覚。家族から甘やかしすぎを糾弾されたことをご報告申し上げます。

あの日、買い取ったプリンセスは猫たちに囲まれて幸せに暮らしました、とさ。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み