第1話
文字数 2,008文字
俺と妻の美咲は、子供達が悪党共に連れ去られるのを、ビール片手に、ちょっぴり心配しながら見送った所だった。
「ラッキー。俺たちの子供達が攫われるなんてなぁ」
「何言ってるのよ。根回ししたんじゃない。お主も悪よのぉ、って話よ」
「子供らも生きて返れれば一生の記念だ」俺はウィンクした。
「きっと、あなたの番が回ってくるわよ」
昨夜温泉旅行先のホテルマンの柳田という男と立ち話になって、同郷の誼みでカメンライダーショーで、子供達を優先的に攫わせてもらっていいですよね、と予約してくれていたのだ。
子供達は会場内のステージでショッカー達にプレゼントを貰った。泣いてる子。笑顔の子。様々だ。うちの六歳になる次郎は緊張し、九歳の詩菜は平気な顔だ。
「お母さんは綺麗ですか?」柳田がマイクを次郎に向けた。
「あんまり綺麗じゃないです」泣きそうな声でぼそっと言った。
「そんなことないでしょう」
ショッカーを困らせちゃ駄目だぞ。
「お化粧厳張ってます」泣きながら言った。
会場がどっと沸いた。
「ちょっとぉ、恥ずかしいじゃない」妻が口を尖らせる。
次の詩菜は痛烈だぞ。
「お父さんの仕事は何かな?」
「ニートです」
「なにかやってるんじゃないですか?」
「ラーメン食べてます。ラーメンで食べていくそうです。会社辞めて」
「お父さんは嫌いですか?」
それ訊いちゃう? うちは今繊細な空気が漂ってるんだな。
「私はラーメンが嫌いです」
全否定ってやつだな。会場は水を打ったように静かになった。
柳田は、焦って他の子にマイクを向けた。
ショーは終わった。続々と子供達が戻ってくる時に、声が挙がった。
「本物の誘拐だぞぉ!」
えっ!? 次郎と詩菜は?
ショッカーの肩に担がれた儘の二人が横を擦り抜けていった。
「美咲! 追うぞ! 付いて来い!」
俺達はショッカーを追跡して倉庫のような所に潜入した。闇に包まれる。
カッ! 音がして電気が点いた。なんだこの光景は?
――倉庫の奥に子供達がいてスポットライトが浴びせられている。俺の前にはマイクスタンド。離れた淡い光の中で美咲が戦っている。それが滅法強い。
――なんだこれは!?
「小宮大悟さん。今、あなたの愛が試されています」柳田の声だ。
「どういうことだ?」
「あなたの気持ちが子供達に届けば、奥さんの力となり、悪を倒すでしょう。届かなければ、あなた達一家は破滅です。それでは大悟さんのラーメンの夢を語って頂きます」
――こ、こんな馬鹿なことあるか? でもこれはある意味チャンス到来だ。
観念してスタンドに厳かに向かった。
「次郎、そして詩菜よく聞いてください。お父さんが大好きなラーメンは、今日、日本人が愛してやまない、素晴らしい料理です。美味しいラーメンを作るには、それだけの期待に答える厳しい道を歩まねばならないのです。麺、スープ、出し、具、どれをとっても一朝一夕に極めることなどとても出来ないです。今のお父さんは脱サラ三十二歳のしがないラーメン好きかも知れません。でも何時か日本一のラーメンを作る為の足掛かりを作るのにまず三年ください。次郎! 夢っていうのはな、叶える為に厳張らない人には決して降りてこない物なんだ。そして詩菜、何時かお前が食べて、美味しいって言って貰えるラーメンを作る。だからお父さんを信じて欲しい。もし、お前が不味いって言うラーメンしか作れなかったら、俺はきっぱりそこで夢を降りて構わないと思っている。さっきも言ったが、三年ください。今まで一流企業で働いて来たんだ。それまで暮らせる貯え位はある。これがお父さんの人生を賭けた夢です。どうか、こんなお父さんに付いて来て下さい。お願いします」俺はマイクをそっと降ろした。
「大悟さん有難うございました。ではジャッジです。子供達どうぞ」柳田が促した。
「ぼくもラーメンが好きです。夢ってぼくにはまだ無いけどお父さんは厳張って下さい。次郎」
「あたしは、正直ラーメン屋の娘より、一流企業のお父さんの娘でいたかった。でもお父さんがもし日本一のラーメン屋になるんだったらそれも悪くないかな。最後に、我儘ばかりの私に決定権を与えてくれて有難う。そこまで言ってくれるのなら、お父さんの作ったラーメン是非食べたいです。お父さん厳張って下さい。詩菜」
二人が答を出すと、劣勢だった美咲の手元が強烈に光って、――いや、この構えは……。
「かーめーはーめぇーーっ!?」
<おかしい、おかしい、それだけは絶対おかしーよ!!>
「ドッキリ大成功―っ!!」テレビでよく観るしレポーターが現れた。
美咲が応募して、知らないのは俺だけだったと言う。
リハーサルは無く、アドリブの部分も沢山あったらしい。終わり良ければ全て良し。
さて、テレビで舞台裏を観るのが楽しみだ。
美咲の、公言させて退路を断ち怠けさせない作戦が見え隠れするのが気にはなるが。
「ラッキー。俺たちの子供達が攫われるなんてなぁ」
「何言ってるのよ。根回ししたんじゃない。お主も悪よのぉ、って話よ」
「子供らも生きて返れれば一生の記念だ」俺はウィンクした。
「きっと、あなたの番が回ってくるわよ」
昨夜温泉旅行先のホテルマンの柳田という男と立ち話になって、同郷の誼みでカメンライダーショーで、子供達を優先的に攫わせてもらっていいですよね、と予約してくれていたのだ。
子供達は会場内のステージでショッカー達にプレゼントを貰った。泣いてる子。笑顔の子。様々だ。うちの六歳になる次郎は緊張し、九歳の詩菜は平気な顔だ。
「お母さんは綺麗ですか?」柳田がマイクを次郎に向けた。
「あんまり綺麗じゃないです」泣きそうな声でぼそっと言った。
「そんなことないでしょう」
ショッカーを困らせちゃ駄目だぞ。
「お化粧厳張ってます」泣きながら言った。
会場がどっと沸いた。
「ちょっとぉ、恥ずかしいじゃない」妻が口を尖らせる。
次の詩菜は痛烈だぞ。
「お父さんの仕事は何かな?」
「ニートです」
「なにかやってるんじゃないですか?」
「ラーメン食べてます。ラーメンで食べていくそうです。会社辞めて」
「お父さんは嫌いですか?」
それ訊いちゃう? うちは今繊細な空気が漂ってるんだな。
「私はラーメンが嫌いです」
全否定ってやつだな。会場は水を打ったように静かになった。
柳田は、焦って他の子にマイクを向けた。
ショーは終わった。続々と子供達が戻ってくる時に、声が挙がった。
「本物の誘拐だぞぉ!」
えっ!? 次郎と詩菜は?
ショッカーの肩に担がれた儘の二人が横を擦り抜けていった。
「美咲! 追うぞ! 付いて来い!」
俺達はショッカーを追跡して倉庫のような所に潜入した。闇に包まれる。
カッ! 音がして電気が点いた。なんだこの光景は?
――倉庫の奥に子供達がいてスポットライトが浴びせられている。俺の前にはマイクスタンド。離れた淡い光の中で美咲が戦っている。それが滅法強い。
――なんだこれは!?
「小宮大悟さん。今、あなたの愛が試されています」柳田の声だ。
「どういうことだ?」
「あなたの気持ちが子供達に届けば、奥さんの力となり、悪を倒すでしょう。届かなければ、あなた達一家は破滅です。それでは大悟さんのラーメンの夢を語って頂きます」
――こ、こんな馬鹿なことあるか? でもこれはある意味チャンス到来だ。
観念してスタンドに厳かに向かった。
「次郎、そして詩菜よく聞いてください。お父さんが大好きなラーメンは、今日、日本人が愛してやまない、素晴らしい料理です。美味しいラーメンを作るには、それだけの期待に答える厳しい道を歩まねばならないのです。麺、スープ、出し、具、どれをとっても一朝一夕に極めることなどとても出来ないです。今のお父さんは脱サラ三十二歳のしがないラーメン好きかも知れません。でも何時か日本一のラーメンを作る為の足掛かりを作るのにまず三年ください。次郎! 夢っていうのはな、叶える為に厳張らない人には決して降りてこない物なんだ。そして詩菜、何時かお前が食べて、美味しいって言って貰えるラーメンを作る。だからお父さんを信じて欲しい。もし、お前が不味いって言うラーメンしか作れなかったら、俺はきっぱりそこで夢を降りて構わないと思っている。さっきも言ったが、三年ください。今まで一流企業で働いて来たんだ。それまで暮らせる貯え位はある。これがお父さんの人生を賭けた夢です。どうか、こんなお父さんに付いて来て下さい。お願いします」俺はマイクをそっと降ろした。
「大悟さん有難うございました。ではジャッジです。子供達どうぞ」柳田が促した。
「ぼくもラーメンが好きです。夢ってぼくにはまだ無いけどお父さんは厳張って下さい。次郎」
「あたしは、正直ラーメン屋の娘より、一流企業のお父さんの娘でいたかった。でもお父さんがもし日本一のラーメン屋になるんだったらそれも悪くないかな。最後に、我儘ばかりの私に決定権を与えてくれて有難う。そこまで言ってくれるのなら、お父さんの作ったラーメン是非食べたいです。お父さん厳張って下さい。詩菜」
二人が答を出すと、劣勢だった美咲の手元が強烈に光って、――いや、この構えは……。
「かーめーはーめぇーーっ!?」
<おかしい、おかしい、それだけは絶対おかしーよ!!>
「ドッキリ大成功―っ!!」テレビでよく観るしレポーターが現れた。
美咲が応募して、知らないのは俺だけだったと言う。
リハーサルは無く、アドリブの部分も沢山あったらしい。終わり良ければ全て良し。
さて、テレビで舞台裏を観るのが楽しみだ。
美咲の、公言させて退路を断ち怠けさせない作戦が見え隠れするのが気にはなるが。