第3話「異端の村」

文字数 791文字

 拓海は里から離れた辺鄙な村の娘と、めぐり合わせのように夏祭りの日に出逢った。その夜、拓海とお千代は一夜を共にする。
 村の娘を好きになってしまった拓海は、その村に単身で出向き、お千代が両親と一緒に暮らす屋敷まで挨拶に行った。けれども、その村には、余所者には知られたくない或る秘密があった。人里離れた小さな村の住人は、みんな左手の指が六本もあったのだ。もちろん拓海は世間一般の、ごく当たりまえに五本指だった。
 ……じつは、お千代も村人と同じく左手が六本指だったのだが、好きになった拓海のまえでは上手く隠していたのだ。
 その夜は娘の家に泊めてもらうことになった拓海だが、客間で寝ていると真夜中に頭が痛くて目を覚ました。すると、かれの頭は血だらけになっていた。まわりを見ると、割れて血のついた陶器の置物が粉々になって、枕もとに転がっていた。
 そういえば晩御飯に出してくれた味噌鍋の味が、妙に苦かったことを思いだす。怖くなった拓海は身の危険を感じ、恐ろしさのあまり村から逃げることにした。朦朧とする意識のなか、かれが屋敷を出ると外には村人たちが大勢で待ち構えていて、あっけなく捕まえられた。そして、かれは拷問を受けて左手を押さえつけられ指を潰される。
 拓海の左指は無惨にも潰され、何本あったか分からなくなった。すると、娘があらわれて拓海のまえで左手の六本指を見せて、これで一緒になることができますと喜んだ。
 けれども、村人たちは拓海のことを、それでも執念深く異端だと見做して、お千代との結婚を許さなかった。

 数日後、拓海は覚悟を決めて娘を屋敷から連れだし、その村から命からがら逃げのびて里に帰った。すると皮肉なことに、今度は里の者たちが、余所者である六本指の娘を異端と見做して恐れ慄いた。
 その末に、里のものたちはふたりを捕まえるや、拓海の見ているまえで無惨にも、お千代を処刑してしまった。

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