君に会えない日は夜が切ない

文字数 795文字

 君に会えない日は夜が切ない。
 会えないまま一日が終わるなんてとても残念だ。
 丹精を込めて育てた農作物が台風で全滅してしまった農家の人のように悲しい。
 だから僕は魔法を使おう。
 電話という文明が生み出した素晴らしい魔法を。
「もしもし?」
 君はすぐに出てくれた。
 君のやわらかい声が僕の心にしみわたり、幸せという光をもたらしてくれる。
「もしもし。何だか久しぶりに君の声を聴いた気がするよ」
「昨日会ったばかりでしょ」
 君はくすくすと笑う。
 一日会えないだけで、もう十年くらい会えなかったんじゃないかと思ってしまうのだ。
 君の方は余裕があるようだ。
 そんな笑い声もまたとても心地いい。
 このまま時間なんて止まってしまえばいいのにと思うくらい幸せだ。
「君と話せるだけで切なかった夜が、素晴らしいものになるよ」
「なにそれ」
 君はとてもおもしろそうに笑う。
 正直少しだけショックだった。
 自分もだよと返してほしかったわけじゃないけど、何も笑わなくてもいいじゃないか。
「まあ笑ってくれたならいいけどね」
「すねないでよ」
 君は笑いながらそう言う。
 笑いが絶えない素敵な女性だと改めて思った。
 そんな女性を独り占めできる時間が愛おしい。
 もっともっと彼女を独り占めしたい。
 そんな醜い自分を心の鏡で発見してしまう。
 醜いエゴで君を傷つけるなんて耐えられない。
 君と会える幸せという光の鎖で、醜い獣を拘束しよう。
 君と言う宝物を守ろう。
 これからも。
「愛しているという言葉を使わずに、愛を伝えるためにはどうすればいいと思う?」
 僕はそう聞いてみた。
「どうするの?」
 彼女は面白そうな声で聞き返す。
「君がいれば風も美しく、草花も生き生きしていて、雨にさえ喜びを感じられる」
「もう少しがんばりましょうかしら」
 彼女の評価はけっこう手厳しい。
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