第1話

文字数 1,797文字


「大人になって楽器を始める人って何考えているんだろう。下手くそな音しか出せないし、プロになれるわけでもない。迷惑って気づかないのかな」

数年前、とある場所で見つけた言葉。
だいぶ記憶が曖昧だが、衝撃的な文章だった。

というのも、わたし自身、大人になってから楽器を始めたからだ。


23歳になった年に楽器を始めた。アルトサックスだ。

きっかけは、ただのあこがれだった。

弟や、男友達がギターを弾くのをみて、いいなぁと思ったこと。
ピアノ以外にもうひとつ、楽器ができたら素敵だろうなぁと思ったこと。
そして、好きなロックバンド・UVERworldのサックス奏者・誠果氏が格好よかったこと。
そんな単純なあこがれだった。

サックスといえば、ジャズのイメージも強いだろう。
たしかにジャズで聴く、サックスの音色はめちゃくちゃ格好いい。

わたしが最初にあこがれたのは、ロックの中で聴くサックスの音だった。
それは大人な響きで、ロックという強い音の中に刺さる。それにハマった。


わたしが通っている楽器教室には、いくつもの楽器コースがある。

その中でサックスを選んでよかったと思うことは、自分で演奏しているというのを感じられること。
自分で息を吹き込み、自分の指がキーを押すことで音を奏でる。
体全体を使って吹いている気がするのだ。


大人になって楽器を習うメリットは、いくつもあった。

まずは、できなかったことができるようになること。
これは何でもそうではあるが、苦手を克服できたこと、1曲吹けたこと、など、前に進めたときはやっていてよかったと思う。
そうやってこれからも、成功体験を積み上げていきたい。

その他としては、周りの人に聴いてもらう機会があること。
通っている楽器教室では、アンサンブルが多くある。
特にサックス人口が多いので、サックスだけでの合奏も参加し、発表会にも何度か出た。
大勢でひとつの曲をつくるというのも、青春を感じて、何ともいい。

逆にソロで演奏してみると、緊張しつつも吹き終わったあとの拍手を独り占めできた。
あれも気持ちよかった瞬間だ。

そして何より、友達が増えたこと。
やはり大人になって楽器を始める方は、わたしより年上の方が圧倒的に多い。
そのため、年が離れた友達も多くできた。
一緒に吹きながら学べることは、いっぱいあるのだ。


最初の先生の勧めで、いまの楽器を買ったのはサックスを吹き始めて1年半経った夏だった。
結局、先生と同じ楽器を買ったのだが、金額を見てびっくりした。
ローンを組んで、2年かけて完済した。

いまの楽器を選んだ理由は、先生が高校時代からずっと使っているということだった。
そして良い楽器は自分と共に成長する、とも教えてくれた。

しっかりした楽器はそこそこ値が張る。維持費もかかる。
それでも、ここまでお金をかけてしまったから、続けるしかないとも思う。

大人になると、壁にぶつかってもうまく避けたり、はたまた、その壁にぶつからないように回避したり……と、良い意味でも悪い意味でも器用になってしまう。
だからこそ、未知の出来事と自ら向き合い、壁にぶつかり、立ち向かい、そして乗り越えるという経験は、この先も活きてくるはずだと信じている。
それこそが、サックスを通して学んだことだ。


最初に載せたショッキングな文章を見て、数年が経った。
いまだからこそ言えることは、これはただの自己満足だということ。

音を楽しむと書いて音楽。自己満足で音を楽しんでいるだけ。
誰のためでもなく、自分のために。
楽器は手段でしかない。音楽を楽しむために、楽器を吹いていると、胸を張って言える。


前述のUVERworldのボーカル・TAKUYA∞氏の言葉に、わたしはよく感化される。
彼は、「何かを始めるのに遅すぎることは何もない」とライブで叫ぶ。
ちなみにTAKUYA∞氏は20歳を過ぎて歌を始め、ピアノは24歳から始めたそうだ。

彼は体現する。
年齢で諦めるのではなく、やりたいという気持ちこそが大事なのだと。

また感化され、今年も新しいことを始めたくなり、いまライティングを勉強している。
そして、春からは英会話を勉強するつもりだ。


いまはまだ、楽譜をなぞって演奏することで精一杯ではあるが、ゆくゆくは届けたい人に届けられるよう、一音一音大切に吹けるように精進したい。

この文章がどうか、年齢や才能で何かを諦めかけている人に届きますように。
残った日々の中で、1番若いのは今日なのだ。



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