01 エッセイ

文字数 2,295文字

 思い立ったが吉日、という言葉がある。僕にとっては今日がまさにその日だろう。ふと「エッセイを書いてみよう」と思った。大したきっかけはないが、そう思ったのなら書いてみるしかない。書きたいことはいろいろあるけれど、まずはその大したことのないきっかけについて書いてみよう。

 僕は本が好きなこどもだった。(高校生なんてまだこどもじゃないかというツッコミは聞こえないことにする)字が読めるようになる前からひとりで絵本を見つめては、絵から想像して勝手に物語をつくっていたと母から聞いたことがある。
 物心がつくと、「にじいろえほんばこ」という地域の交流会のような場所に行き、本や漫画を借りて読んでいた。小説を読むようになったのもここがきっかけだ。当時の少年Yくんは「文字だけの本読んでる人ってかっこよくね?」という単純な動機で、本棚に並んでいる小説の中から適当に一冊取り出し、それを借りていった。
 その本は「ゲド戦記1 影との戦い」だった。これはアーシュラ・K・ル=グウィン氏により書かれたファンタジー小説である。魔法の才能を認められ、魔法学院に入った少年ゲドは、得意になって禁じられた呪文を唱えてしまう。それによって呼び出された自身の「影」との果てしない戦いを描く。そんな物語。
 小学生のYくんはその内容を理解出来なかったが、本のなかに彼なりのおもしろさを見つけ出したのだろう。彼はそれから毎回のように小説を借りるようになっていた。それからもいろいろな本を読み、今日も美しく描かれた小説の世界のおもしろさに浸っている最中である。

 そんななかでひとつ、フィクションの世界の物語とは違った魅力を感じるジャンルがあった。それが「エッセイ」。日記と呼ぶには文学的すぎるようにに感じるし、自伝と呼ぶには大袈裟すぎる気がする。そんな噛み合わないパズルのピースを心地よく埋めてくれるのがエッセイだ。
 もちろんエッセイには現実世界、ノンフィクションのことしか書かれない。書き手の感じたことがそのまま読者に伝わる。僅かな時間だけ、感覚を共有しているように感じる。これが僕は好きだった。著名な方々のエッセイを読んでいると、その方たちの生活の一部を体験したかのような気持ちになって少し嬉しくなると同時に、特有の価値観や考え方に感動する。人によって見える世界はこんなにも違うのか。誰かのエッセイを読んだあとの世界は、淡いフィルターがかかったような別の世界に見えた。
 こんな文章を書けるようになりたい。自分の感じたことを誰かに伝えたい。と思うようになるのは時間の問題だっただろう。当然そこには承認欲求も混ざってくるが、むしろ僕はそれでいいと考えている。人に読んでもらう前提で書いている文章に承認欲求が混ざらないことの方が不思議だ。でも、ただそれに振り回されていては心に残る文章は書けない。どうやったら自分の感じたことをそのまま文章で表せるのか。どう表したら読み手にスッキリ伝わるのか。僕にはまだわからない。文章力も、人生経験も、若者の端くれの僕には足りなすぎる。
 でも、いやだからこそ、今僕はエッセイを書こうと思ったのだ。何もかも足りていない未熟な僕でないと書けない、未熟な文章というのもおもしろいかもしれないじゃないか。これを評価してくれる人がいるなら嬉しい限りだが、仮に誰の目にもとまらなかったとしても、将来これを見返して酒の肴にすることくらいはできるだろう。まあ、僕が酒を好きになるかはまだわからないけれど。

 といった感じだ。なんだ、以外と書けるじゃないか。文章の巧さは別としてとりあえず書きたいことを言葉で表すことはできた。ここまでほとんど手が止まらずにスイスイと書くことができた。第一歩としては上出来だ。文章力なんて、これからこれを書く過程で身につけていけばいい。
 文字を書くことや読むことは生活を彩り、知的好奇心をくすぐってくれる。しかし残念なことに、読者が好きな友人はあまりいない。気の合う後輩たちと本を勧めあうことがあるくらいである。あるくらいと言ってもそれはすごく楽しいし現状に不満があるわけではないから特に問題ではない。それでも僕は、一人でも多くの人にこの喜びを知ってほしい。ただの文字から広い世界を想像して、笑ったり涙したりするこの喜びを。といっても、今これを読んでくれているあなたはわざわざ小説サイトにアクセスし、こんな駆け出しの若者のエッセイを読んでいるくらいだからその喜びについて説くのは愚問だろう。

 ともかく、僕はその喜びを追求するため、僕なりの書き方で続けてみようと思う。今日もこれを書いているなかで、伝えたいことをまとめることの難しさや論点を揃える、あるいは逸らしてから戻ってくることの難しさを改めて体感した。気づけばもうすぐ二千文字。このくらいが丁度いいだろう。毎回これくらいの文量にするかは次回以降の僕が決めてくれるはずだ。

 明日も平日。朝からまた世界に揉まれて過ごさなければならない。僕は携帯のアラームを六時半と六時四十五分と七時との三回分セットして、携帯を枕元に置いた。寝落ち用のYouTubeの動画を小さめの音量で再生し、電気を消して目を閉じる。動画のなかの話し声と、時計が時を刻む音だけが暗闇の部屋に響く。次に目を開ける頃にはまた騒がしい生活が始まる。
 こう感じたのは昨日の夜のことだ。これから僕は同じ手順で同じような感覚の中、昨日とは少し違うことを考えながら同じような時間を過ごすのだろう。

 さて、そろそろ寝よう。

 僕は毎回同じようで少し違う不思議なルーティンを始めることにした。
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