選択トンネル

文字数 1,970文字

目の前に3つのトンネルが並んでいる。
通行人は続々とトンネルに入っていく。
自分がなぜ、こんなところにいるのかまったく分からないのだが、とりあえず、多くの人が入っていくトンネルに自分も入ってみた。

トンネルは薄暗く、先が見えない。
しばらく歩いていくと、明るい光が見え始めた。
おそらく、出口であろう。

トンネルを出た。
辺りは小さく開けた空間であり、周囲は山壁に囲まれており、登山道具でもない限りは壁を登っていくことはできないだろう。

前方の山壁には、なんと、またもや3つのトンネルが口を開いている。
通行人たちは、やはり、そのトンネルの中に続々と入っていく。
というか、その3つのトンネルしか行くところがないのだ。

一番多くの人が入っていくトンネルを選び、中に入ってみる。
やはり、先は見えない。
後ろからも人が来るので、とりあえずは進むしかない。

トンネルを抜けると、そこは……

さっきと似たような感じの空間であった。
そして……
これまた先ほどと同じように、山壁に3つのトンネルが口を開いている。

無限ループ?

怖くなってきたので、来た道を戻ることにした。

あれ?

トンネルに入れない。
人は続々と出てくるのに、自分が入ろうとすると見えない壁に遮られてしまい、戻ることは叶わなかった。
つまりは一方通行ということか。
この訳の分からない世界で、自分はひたすらトンネルを進み続けるしかないのか。

3つのトンネルから、一番多くの人が入っていく方を選んで入る。
その方がいくぶん安心できるから。

果たして、トンネルを抜けてみると……

やはり、同じような空間に出てしまう。
通行人に聞いてみた。

「ここはどこですか? トンネルの先に何があるんですか?」

通行人は誰一人、耳を貸そうとしない。
見えていないのだろうか、完全に無視されてしまう。

仕方ない。
自分で何とかするか。

ほとんどの通行人は、今回は左のトンネルに入っていく。
こんなやつらと同じトンネルに入るから、いつまでも抜け出せないんだ。
そう考え、右のトンネルを選んで入ることにした。

そうして、トンネルを抜けてみると……

やはり、同じような空間に出てしまった。
通行人の数は減ったが、相変わらず、みんな黙ってトンネルを選択して入っていく。

通行人を観察してみると、あえて人が少ない方のトンネルを選んで入っている人もいることが分かった。
また、迷っているが、結局は多くの人が入るトンネルを選んで入る人もいた。

いろいろ試してみた。
多くの人が入る方を選んでみたり、人気がない方を選んでみたり……

いずれにせよ、トンネルの先にはまたトンネルがあるだけだった。

人の行動を見てから自分の行動を決めていることにだんだん嫌気が差してきた。
なので、自分で選択して入ることにした。
幾分、気持ちが楽になった。
自分の行動は自分で決めた方がよい。
同じような空間に出てしまうのだが、自分で選択した結果なので、人のせいにはできない。
自分の人生を自分で歩んでいるような気持ちになれた。

こうして、3つのトンネルから1つを選ぶというループを繰り返していると、空間にある変化が表れた。
右のトンネルに、父親が立っているのだ。

「父さん! ここはどこ? 父さんは何やってるの? ここではどうすればいいの?」

「右のトンネルに行け!」

「先には何があるの?」

「……」

父は貝のように口を閉ざし、もう、何も答えてくれなかった。

しかし、とりあえずはヒントをもらえた。
右のトンネルに入ってみる。

……

結局は、似たような空間に出てしまった。
父親の言う通りにしたのに……

あれ?

あそこにいるのは……

「母さん! こんなところで何やってるの? ここはどっちに入ればいいの?」

「真ん中のトンネルに入りなさい! あなたのためを思って言っているのよ!」

「さっき、父さんにも会ったんだよ! ここはいったい、どこなの?」

母はもはや、何も話してはくれなかった。

「母さん、一緒に来てよ!」

引っ張ってみたが、どうやら、その場から動けないらしい。
なんという世界だ……

進まないことにはどうしようもない。

母の言う通り、真ん中のトンネルに……

待てよ……

今までのパターンでいくと、どのトンネルに入っても、結局はまた、別のトンネルを選ぶことになるだろう。
父さんの言う通り、そして、母さんの言う通りに進んで、果たしてそれでいいのだろうか。

この無限に続くトンネル選択の世界を歩き続け、自分はある考えに至っていた。

入るトンネルを自分で決めたかどうか。
自分で決めたトンネルを歩いたときと、人が決めたトンネルを歩いたときとでは、前に進む感じがまったく違っていることに気がついていた。

思考のトンネルはすでに出口を見つけていたのだ。
自分が進む道は自分で決める。

「母さん、悪いけどこっちのトンネルに入るよ」

トンネルの選択はその後も続いたけど、歩く度に心は軽くなっていった。

<了>
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