第1話

文字数 1,101文字

  選択
  
  どちらかを選んでいいよ
  僕にとってこの言葉は苦痛でしかなかった。自分で選択するのが嫌だからだ。もしAの方を選び、Bの方が良かったと後から後悔することの方が、とても損をした気分になる。それだったら予め選択肢が決まっていた方が楽だ。与えられたレールの上を走ることは目標もはっきりしており、毎日どう生きていくべきか計画が立てやすい。その点、選択肢が増えてしまうと、どれも中途半端にかじって曖昧な結果で終わることがほとんどだ。自分の意志はないのか?とよく言われるが、意志はもちろんあるさ。ただ自分の行動に自信がないからレールがほしいんだ。
  ピンポンと家のチャイムが鳴った。まだ朝の4時というのにこんな時間に誰が来たんだ。6時に起床して犬のマロンと散歩するという決まりが崩れたではないか。変質者ではないかと目を細めて疑いながらドアの窓から覗いた。ドアの向こう側には1人の男性が立っていた。ぱっと見、普通の人だと判断し、恐る恐るドアを開けた。
  男性は挨拶もせず、二つの荷物を差し出して来た。一つはサッカーボールくらいの大きさの段ボールで、もう一つは指輪を入れるくらいの小さな紙袋だ。なんとも気味が悪い。不審者だと思い慌ててドアを閉めようとしたが、体が思うように動かなかった。頭では危険だと分かっているのに体に信号が行き渡らず硬直してしまった。だが、とくにその男は何もするわけではなく差し出したままの体制である。小鳥が鳴いているのを聞きながら僕たち2人は静かに時間を過ごしていた。体感では三十分くらい経ってしまったと思っていたが実際は一分も満たなかった。男は口を動かした。
  どちらかをお選びください。
  
  選ぶことは嫌なんです。帰ってください。
  
  やっと僕の脳は動き出し、口を動かすことができた。だが、体は相変わらず動かすことができずドアを閉めることができなかった。まるで男から何かを待っているように。
  
  
  
  
  選ぶことは自分の可能性を広げます。もちろんレールの上を走ることも大事です。ですが何でも自由に行動してしまったらせっかくのこの素晴らしい日本が壊れてしまいます。選ぶという行動をとることで一歩前進し、自分の励みになるのです。あなたにとって今がスタートする合図になりますように。
  
  男はそう言って
  僕は静かに一つの荷物を取った。


そう本当は自分でも分かっていた
自分で決めたい
でも怖い 自信がない
ならみんなが行く道にそのまま行けばいい
受験や就活でも違う道に行く人を僕はどう見ていたんだろう

羨ましいという気持ちに気づかないようにしていた

ただきっかけが欲しかっただけだった
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