第10話

文字数 1,247文字

放たれた無慈悲(むじひ)猛火(もうか)は、
()()慈悲(じひ)()(いとま)も与えず、
全てを紅蓮(ぐれん)の猛火の中に飲み込んでいった。

これにより()()のエルフと人間の混合部隊(こんごうぶたい)
約1500は全滅した。

全体から見れば敵の1割に()たない部隊だが、
このとき魔王は最大の驚異(きょうい)排除(はいじょ)していた。

中世の戦闘においてもっとも恐れるべきは、
刀だろうか?

槍だろうか?

火縄銃(ひなわじゅう)だろうか?

いな、弓である。

火縄銃(ひなわじゅう)を銃だと認識する現代人は、
火縄銃が一番強いと思いがちだがそうではない。

火縄銃の威力は、
ダイリーガーが大きな鉄球をぶつけた程度。

弱点はそれだけでは無い。

火縄銃は雨が降れば使えず、
一発打つのに3分(名人でも1分)かかる(ため)
有効的に使うには、
敵を火縄銃の前まで誘導(ゆうどう)しなければならない。

そのうえ照準(しょうじゅん)がバラバラで、
どこに飛ぶか分からない弾丸を当てるには、
敵が密集する地点を狙い打ち、
その中の誰かに当たる(よう)にする。

どうして真っ直ぐ飛ばないかと言えば、
野球のナックルボールと同じである。

無回転のナックルボールは前後左右に揺れ、
どこに飛んで行くか分からない。

空気抵抗による揺れである。

現在の銃は、
銃身に螺旋(らせん)(バネ状)の(みぞ)(ライフリング)を(ほり)り、
飛び出す時に弾丸に回転をかけているために、
()()ぐに飛ぶのである。

そう昔の火縄銃は、最強の武器ではないのだ。

戦国時代の文献(ぶんけん)にこうある。

戦闘で死んだ要因を分析した結果、
弓で死亡した数がもっとも多く、
それは全体の7割に(およ)ぶ。

そう弓の得意なエルフは、
もっとも警戒(けいかい)し恐れるべき、
敵の主力部隊だったのだ。

それが事実上壊滅(かいめつ)したのである。

俺は遠くで上がった炎を(なが)めながら、
ほくそ笑むとつぶやいた。


()(はな)たれた」


目前の敵の前衛(ぜんえい)(すで)瓦解(がかい)し、
敗走(はいそう)を始めていた。

一度敗走を始めた兵ほど(もろ)いものは無い。

もし勝てると思った者がいても、
見方が逃げるなかその場に(とど)まれば、
確実に死ぬ。

逃げ遅れれば死と言う現実が、
兵の逃走に拍車(はくしゃ)をかけていた。

戦場において、
守るものがいなくなったその背ほど、
無防備なものは無い。

一度敗走しだした軍は壊滅的(かいめつてき)な打撃を受ける。

そうならない(ため)には殿(しんがり)といって、
その場に(とど)まり死んで盾となって、
敵を足止(あしど)めする兵がいるが、
勝ち戦だと気の(ゆる)んだ敵に、
それ(ほど)気概(きがい)のある者はいなかった。
 
 
 
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