特別な人間なんていやしない

文字数 2,779文字

この世界には、4つの人類がいる。

ギフト、サーム、ペラ、カムビの4つ。
でも多くの人は、ギフトはもう人類に含まないと考えているけれどね。

俺が幼かった頃、ある奇病が世界に蔓延した。
世界的パンデミックを引き起こし、各国がその治療及び予防法を探し求めた。

やがて、その予防薬が作られた。
ただそれには、月から持ち帰った特殊な成分が使われていた為、予防薬を拒む人も多かった。
まぁ、その奇病の事は今となってはどうでもいい事だ。

問題はその後だ。

予防薬が作られた事もあって、奇病はそれなりの落ち着きを見せた時、新たな病が世界を飲み込んだ。
それはパンデミックを起こした奇病なんか何て事なかったと思わせる勢いで一気に世界に充満した。

人類は一人残らずその病に侵され、のたうち回った。

そして人類は4つに別れた。
生き残った人類に、4つのパターンができたのだ。

ギフト。
これは生き残ったと言っていいのかわからない。
奇病に感染して免疫を持っていた訳でも、予防薬を摂取していた訳でもない人々が、大病にかかってギリギリ死ななかったパターン。
でももう人間としての自我はなく、ただ徘徊して人や動物を襲う。
大昔で言うところのゾンビってやつが近いかもしれない。

サーム。
ギフトになった人達と条件は同じで、免疫もなければ予防薬を摂取した訳でもない人々の中で、大病に対して自己免疫で打ち勝った人々だ。
ギフトと違うのは正常だってことだ。
いや、正常と言っていいのかよくわからない。
サームはそれによって特殊な能力を身に着けているからだ。

ペラ。
奇病に感染して免疫を持っていたか、予防薬を摂取していた人間で生き残った人々だ。
ちなみに奇病の免疫を持っていたり予防薬を摂取していた人間からギフトになるものはなく、生き残るか死ぬかの二択しかなかった。

カムビ。
ペラと同じ条件で生き残った人の中で、サーム同様、特殊な能力を発現させた人達。
何で同じ条件で特殊能力を発現させる人とさせない人が出たのかはよくわかっていない。

と、まぁこんな感じだ。
ちなみに大病の致死率はどの条件でも対して変わらなかった。(ギフトを生存者と見なした場合だけどね)
あの大病で人類の半分は死んだ。
そしてその前の奇病への対応の違いによって、何故か4つのパターンの人類が生まれる事になった。

前の奇病とその後の大病にどんなつながりがあったのかなんて、今はもうわからない。

「サラマ、交代だ。」

「あいよ。」

見張り台にいた俺は、そう言って立ち上がろうとしたが、上手く立てずにひっくり返った。

「何やってんだよ?!」

「うわ~足しびれた~!!ケツ痛てぇ~っ!!」

覗き穴から外を覗いていたので、体がガチガチに固まっていた。
とりあえず場所を代わり、邪魔にならない端で痺れが収まるのを待ち、ストレッチした。

「じゃ、後よろしく~。」

「おう。」

そう言って銃を背負い直して見張り台を離れる。
何事もなく見張りの時間が終わって良かった。
凝った肩を解すように腕を回す。

あれから人類は4つのパターンに別れた。

ギフトはともかく、まともに思考の残っていた、サーム、ペラ、カムビは、当然の事ながら元の生活に戻ろうとした。
しかしギフトの襲撃などもあり、次第に特殊能力を持つサームとカムビが強い立場になっていく。
はじめはそれでも、サームとカムビが、力のないペラを守るという形で社会が構成されて行った。

だがその後どうなるかなんて想像に容易い事だ。

特殊能力を持つものが持たぬものを支配していく。
そして特殊能力を持つサームとカムビが、考え方の違いから対立し、やがて争うようになる。
そうなると、サームとカムビで支配下に置くペラの取り合いが始まる。

ペラからしてみれば大迷惑な話だ。
特殊能力がないからと支配しようとされるわ、権力争いで奪い合われるわ、付き合ってられない。

そんな訳で、ペラ達の多くがサームやカムビの支配下から逃げ出した。
そして集まって隠れ住むようになった。

そう、ここはペラの隠れ集落。

ギフトの徘徊は日常茶飯事だし大した事じゃない。
問題なのは、サームやカムビのペラ狩りだ。
奴らはペラの隠れ集落を見つけると、支配する為に襲ってくる。

奴らの言い分としては、力あるものがないものを守ってやるために保護を行っている慈善活動なのだそうだが、その実態はただ支配してこき使う奴隷の数を増やしたいだけだ。
そして相手より多くのペラを所有して、自分たちの方が優れているから支配下につく人間が多いのだと、だからこの世界の支配者は自分達だと主張する。

そう、本当に怖いのは、力を持った人間の傲慢さだ。

何故、他者を支配してその上に君臨したがるのか?
どうしてその支配を広げようと躍起になるのか?

考えが違うなら、お互い干渉せずに距離を持って生活すればいいだけだ。
同じ考えでその考えに従う者は、力があろうがなかろうがそこについていくのだから。
考えが違うものを無理矢理、力によって従わせたって仕方ないだろうに。

俺はあの時、生き残った。
特殊能力を持たないペラとして。

何故、人類が4つに別れたのかわからない。
その鍵ははじめの奇病であり、その後の大病に隠されている。
その謎を解きたいとは思うけれど、常に他の3パターンの人類から狙われているペラの日々の暮らしには、そんな悠長な事をしている時間はない。

部屋に戻った俺は、簡単に汗と汚れを拭き取ると、寝床に倒れ込んだ。

先日、ギフトの襲撃があった。
とても小規模で被害はなかったが、ここはもう駄目だろう。
ギフトの襲撃があったという事は見つかってしまったと考えた方がいい。
サームやカムビはギフトの動向を遠巻きに観察している。
そうやってペラの隠れ集落を見つけるのだ。

今、先遣隊が次の場所を探しに行っている。
大規模なギフトの襲撃や、サームやカムビの襲撃が起こる前に、皆で次の場所に移れればいいのだが……。

俺はボロい毛布を引き寄せて包まった。
考えたって仕方ない。
寝る時は寝て、いざという時、動けるようにして置かなければならない。

どうして……ペラには特殊能力がないのだろう?

それがあったらサームやカムビと戦えるのに。
こんなふうに、逃げ隠れる生活をしなくて済むのに。
皆が怯えて日々を過ごすことなんてなくなるのに……。

だが、それは無駄な事だと思った。
人類は4つに別れた。
その時、力のあるものとないものに別れた。
そして今がある。
今、また、ペラの中から力のあるものが現れたって、長い目で見れば同じ事だ。

人間の本質は変わらない。

4つに別れた人類が5つに別れた形になるだけだろう。
こうして虐げられているペラの人間だって、力を持ったらサームやカムビと同じになるだろう。

そういった意味では、サームもカムビもペラも別れる前と何も変わっていない。
人類は何も変わっていないのだ。


「特別な人間なんていやしない。」


残念ながらそういう事だと俺は思った。
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