第1話
文字数 1,888文字
こんにちは
この世にはいくつもの異世界があります。
そしていろんな種族が生活しています。
これはそんな異世界の、とあるお菓子屋さんの物語です。
《マスター、マスター!》
「な、なんだシロップ大声出して?びっくりしたよ」
私のお店には助手が一人います。
シロップという四本腕の多肢族 の娘でテレパシーを使えます。
今も私の頭の中に直接話しかけてきたのです。
《マスター、味見をお願いします》
たまに自分で作ったお菓子の味見を私に依頼してきます。
ただ、これがちょっと問題でして……
とりあえず調理室に行くと台の上で仰向けになったシロップがいました。
驚くほど豊かな胸にリンゴが一個のっています。
「……一応、念のために聞くけど何やってんの」
私は眉をひそめました。
「あ、マスター。【アップル・パイ】を作ってみました。リンゴと私の胸と両方一度にご賞味頂ける自信作です!」
「いや、それ
「あ。これは私としたことが……」
シロップは頬を赤らめるとリンゴを外しました。
「マスターはリンゴは皮をむいて食べる派でしたね。うっかりしてました。では私の胸だけどうぞ。レシピを【
「いやいや、おかしいだろ!それピーだろ。てか、もはや食べ物じゃなくなってるし」
私はひたすらツッコむしかありませんでした。
そう、いつもこんな調子なのです。
天然なのか、ふざけているのか、助手になって久しいですがいまだに理解不能です。
「今のはジョークです。本物はこっちです」
そう言ってシロップは調理台に蓋付き皿を置きました。
「君のジョークは心臓に悪いから勘弁してくれ」
「ゆるす」
「いやに上からだな。まあとにかく食べてみるか……中身は何?」
「ドドド……ジャーン!」
威勢よく開いたお皿の上に、器に入った黒い物体が乗っていました。
「これは……?」
「チョコムースです」
「すごいな。よく作れたね」
「チョコレートは難しいので市販のものを使いました。あとは手作りです」
シロップの期待に輝く目に押され、私は恐る恐るスプーンを口に運びました。
「ん……甘いのは甘いけど……なんか違和感あるな」
「ダメでしょうか……」
「ちょっと歯応えが強いかな……どうやって作ったの?」
私の問いにシロップは手順を説明し始めました。
「卵を卵黄と卵白に分けてメレンゲを作りました」
「ああ、君泡立ては得意だからね」
多肢族は腕の筋力が発達しているので、混ぜたりこねたりするのはお手のものです。
「左右の手で卵黄を移し替え、もう左右の手で卵白をホイップしました」
「なんかややこしいな。腕が四本だと想像もしにくい」
「五秒でメレンゲが完成です」
「はや」
「手の角度はこれくらいで、スナップきかせて……」
「いや、メレンゲは分かったから次いって」
「チョコレートを湯せんにかけました」
「お、偉いね。レンジは使わなかったんだな」
「【湯せん】と【温泉】て似てますね」
「なんだ突然?」
「どっちも
「いや、今はそういう上手 いのいいから……次は?」
「とけたチョコに卵黄を入れて混ぜました」
「ふむふむ」
「次にメレンゲを入れて混ぜました」
「ふむふむ」
「後は冷蔵庫で冷やして完成デス!」
「ふーん。手順は合ってるんだけどな……」
不味 くはないのですが、口当たりがイマイチです。
「ちなみにメレンゲ加えてからどんな風に混ぜたの?」
「メレンゲと同じです。素早くパパパっと」
その言葉に私はピンときました。
「それだ、原因は」
「何ですか?」
「
不思議そうな顔のシロップに私は説明しました。
「メレンゲを加えて混ぜるときには、できるだけ気泡を潰さないようにしなきゃダメなんだ。生地にたくさん空気が入った方がふんわり仕上がるからね。君の速いシェイクで気泡が全部潰れてしまったんだよ。だから歯応えが強くなった」
見る見るシロップの顔が沈んできました。
このままじゃ可哀想か……
「でも大丈夫!いい方法があるんだ」
一計を案じた私はシロップの作ったチョコムースをそのまま冷凍室に入れました。
「マスター、それは……?」
「ムースがダメなら
私の言葉にシロップの表情がパッと明るくなりました。
「さすがマスター。大好きデス!」
そう言って飛びつくと胸を私の顔に押しつけます。
「うわっ、抱きつくな!あ、当たってるから……」
「一緒に【湯せん】でとろけましょう♪」
「いや意味分からんし!?だから、当たって……」
これが異世界にある小さな小さな私のお店の
小さな小さな日常です。
この世にはいくつもの異世界があります。
そしていろんな種族が生活しています。
これはそんな異世界の、とあるお菓子屋さんの物語です。
《マスター、マスター!》
「な、なんだシロップ大声出して?びっくりしたよ」
私のお店には助手が一人います。
シロップという四本腕の
今も私の頭の中に直接話しかけてきたのです。
《マスター、味見をお願いします》
たまに自分で作ったお菓子の味見を私に依頼してきます。
ただ、これがちょっと問題でして……
とりあえず調理室に行くと台の上で仰向けになったシロップがいました。
驚くほど豊かな胸にリンゴが一個のっています。
「……一応、念のために聞くけど何やってんの」
私は眉をひそめました。
「あ、マスター。【アップル・パイ】を作ってみました。リンゴと私の胸と両方一度にご賞味頂ける自信作です!」
「いや、それ
パイ
の意味違ってるだろ!ただリンゴのってるだけだし」「あ。これは私としたことが……」
シロップは頬を赤らめるとリンゴを外しました。
「マスターはリンゴは皮をむいて食べる派でしたね。うっかりしてました。では私の胸だけどうぞ。レシピを【
○ッパイ
】に変更します」「いやいや、おかしいだろ!それピーだろ。てか、もはや食べ物じゃなくなってるし」
私はひたすらツッコむしかありませんでした。
そう、いつもこんな調子なのです。
天然なのか、ふざけているのか、助手になって久しいですがいまだに理解不能です。
「今のはジョークです。本物はこっちです」
そう言ってシロップは調理台に蓋付き皿を置きました。
「君のジョークは心臓に悪いから勘弁してくれ」
「ゆるす」
「いやに上からだな。まあとにかく食べてみるか……中身は何?」
「ドドド……ジャーン!」
威勢よく開いたお皿の上に、器に入った黒い物体が乗っていました。
「これは……?」
「チョコムースです」
「すごいな。よく作れたね」
「チョコレートは難しいので市販のものを使いました。あとは手作りです」
シロップの期待に輝く目に押され、私は恐る恐るスプーンを口に運びました。
「ん……甘いのは甘いけど……なんか違和感あるな」
「ダメでしょうか……」
「ちょっと歯応えが強いかな……どうやって作ったの?」
私の問いにシロップは手順を説明し始めました。
「卵を卵黄と卵白に分けてメレンゲを作りました」
「ああ、君泡立ては得意だからね」
多肢族は腕の筋力が発達しているので、混ぜたりこねたりするのはお手のものです。
「左右の手で卵黄を移し替え、もう左右の手で卵白をホイップしました」
「なんかややこしいな。腕が四本だと想像もしにくい」
「五秒でメレンゲが完成です」
「はや」
「手の角度はこれくらいで、スナップきかせて……」
「いや、メレンゲは分かったから次いって」
「チョコレートを湯せんにかけました」
「お、偉いね。レンジは使わなかったんだな」
「【湯せん】と【温泉】て似てますね」
「なんだ突然?」
「どっちも
つかるととろけてきます
……なんチって♪」「いや、今はそういう
「とけたチョコに卵黄を入れて混ぜました」
「ふむふむ」
「次にメレンゲを入れて混ぜました」
「ふむふむ」
「後は冷蔵庫で冷やして完成デス!」
「ふーん。手順は合ってるんだけどな……」
「ちなみにメレンゲ加えてからどんな風に混ぜたの?」
「メレンゲと同じです。素早くパパパっと」
その言葉に私はピンときました。
「それだ、原因は」
「何ですか?」
「
気泡
だよ」不思議そうな顔のシロップに私は説明しました。
「メレンゲを加えて混ぜるときには、できるだけ気泡を潰さないようにしなきゃダメなんだ。生地にたくさん空気が入った方がふんわり仕上がるからね。君の速いシェイクで気泡が全部潰れてしまったんだよ。だから歯応えが強くなった」
見る見るシロップの顔が沈んできました。
このままじゃ可哀想か……
「でも大丈夫!いい方法があるんだ」
一計を案じた私はシロップの作ったチョコムースをそのまま冷凍室に入れました。
「マスター、それは……?」
「ムースがダメなら
アイス
にすりゃいい。これなら歯応えも関係ないからね。しばらく経てばチョコムース・アイスの完成だ!」私の言葉にシロップの表情がパッと明るくなりました。
「さすがマスター。大好きデス!」
そう言って飛びつくと胸を私の顔に押しつけます。
「うわっ、抱きつくな!あ、当たってるから……」
「一緒に【湯せん】でとろけましょう♪」
「いや意味分からんし!?だから、当たって……」
これが異世界にある小さな小さな私のお店の
小さな小さな日常です。