2、法廷小説のためのロジック

文字数 666文字

 過去は変えられない。
 起きてしまったことはどうしようもないし、殺人犯が無罪判決を得たとしても、その手は血にまみれたままだ。殺人という事実が変わることは決してない。
 裁判所はただ、過去に起きてしまったことを客観的に認定し、罪があるとされた者にふさわしい罰を与えるだけ。しかしその権利は強力であるため、その認定には正当な手順が必要とされる。
 ――それは本格ミステリの手続きそのものだ。

 手続き的正義。
 この作品はその魅力に溢れている。
 証拠を積み上げ、相手の主張を崩して事件の新しい側面を見せる。そして少しずつ、少しずつ、真相へと近づいていく。そのたびに新鮮な驚きを読者に与えつつ、だ。
 それは第1部の「無辜ゲーム」を描く過程でも意識的に行われているが、特に終盤の法廷シーンでは情報を出す順番が実に練られている。
 読者の驚きと、検事側の驚きを重ね合わせ、効果を最大限発揮するべく提出された証拠、引き出した証言が奇跡的な――それでいて、決して揺るがないバランスで組み上がっている。
 それは謎解きに関する流れに限らない。
 物語としても、この出来事が積み上がってこうなる、だからそうなって、こういう情報が手に入る、という流れが実によく組み立てられているのだ。そこに、作者の趣味らしき、無駄な脱線はない。
 実に見事なロジック建築である。

 弁護士は胸に向日葵のバッジを掲げ、依頼人と向かい合う。
 そして依頼人が太陽であるかのよう、弁護にベストを尽くす。
 そのような手続きをすることでしか、真実は姿を現さないのだ。
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