みっこのトマト

文字数 1,800文字

「みっこ、トマトきらい!」
テーブルに並べられたお皿には、たくさんのトマトが並んでいます。けれども、みっこはひとつも食べようとはしません。見かねた母が言いました。
「おばあちゃんが育ててくれたトマト、おいしいよ。ひとつでもいいから食べてごらん」
食卓に並んだトマトは、みっこの祖母が作ったものです。
「まぁまぁさとこさん、きっといつかみっちゃんも食べてくれる日がくるよ。おばあは、もっと美味しいトマトを作れるよう、がんばっからね」

その夜、みっこは不思議な夢を見ました。雨上がりの庭で、水たまりをのぞくみっこ。水たまりがつらなってできた小川は、日の光をあびてきらきらと輝いています。水が透きとおっていて、底にたまった小石まではっきりと見ることができます。そこへ小さなカエルがやってきました。そして、水たまりのふちにすわり、じっとみっこを見つめています。しばらくすると、カエルはどこかへと行ってしまいました。みっこはカエルの後を追いました。カエルを追いかけているうちに、みっこは自分が小さなカエルになっていることに気づきました。するとまた、さきほどのカエルが現れて「こっちこっち」と手まねきをしました。カエルについて行くと、そこはなんと、おばあのトマト畑でした。

「あっおばあだ!おばあーみっこはここだよー」みっこがいくら叫んでも、おばあには聞こえないようです。それもそのはず、みっこはカエルになってしまったのですから。おばあは、暑い日差しのなか、汗水流しながら、一生懸命トマトの世話をしていました。すると、何かにつまずいたのか、ドスン。と大きな音を立て、おばあは尻もちをついてたおれてしまいました。「あいたたた」「おばあー大丈夫⁉︎」みっこは、声をふりしぼり叫んでみましたが、やはりおばあには聞こえません。するとそこへ、みっこの母親がやって来ました。「おばあちゃん大丈夫ですか?」おばあはみっこの母親に連れられ、家へと帰って行きました。「よかった、、」みっこはほっと肩をなで下ろしました。

カエルになってしまったみっこの体を、強い日差しがじりじりと照らしつけます。反射する光がとても眩しく、みっこは思わず目をつぶりました。すると、遠くの方から声が聞こえてきました。「みっこ!みっこ!」誰かがみっこを呼んでいます。その声はだんだん大きくなっていきました。「みっこ、朝よ!起きて」みっこが目を開けると、みっこの母親が顔をのぞきこんでいました。「何度も起こしたのよ。さっ、朝ご飯食べよう」そうして、みっこが起きてきた頃には、おばあはとっくに、畑へと行ってしまっていました。

朝ご飯を食べ終わると、みっこはおばあのトマト畑に行きました。「おばあ!」「あらぁ、みっちゃんどうしたの?」「おばあの手伝いに来た!」「まぁ、そりゃあ助かるね。おばあとってもうれしいよ」みっこはおばあにかけよりました。「おばあ、無理しちゃだめだよ!みっこいっぱいお手伝いするからね!」みっこがそう言うと、おばあは「ありがとう」と優しくほほえみました。

その日、晩ご飯で食卓にならんだトマトに、一番最初に手を伸ばしたのは、みっこでした。真っ赤に熟したトマトをひと口ほおばると、「おっいしー!」みっこは何度もトマトをおかわりしました。なぜ今までトマトを食べなかったのだろう、みっこは後悔しました。おばあがみんなのために、一生懸命作ってくれた美味しいトマトを食べて、みっこも一から自分でトマトを作ってみたいと思うようになりました。

次の日、みっこは母親と一緒に、ミニトマトの苗を買いに行きました。おばあに教えてもらいながら、みっこは初めてのトマト作りを始めました。毎日の水やり、そして草取り、みっこは美味しいトマトをつくるため、一生懸命頑張りました。緑色だったトマトがだんだん赤く熟し、みっこのトマトは食べ頃をむかえました。そして、初めての収穫です。もちろんみっこは、最初にみっこのトマトを食べてもらうのは、おばあだと決めていました。「おばあ、みっこのトマト食べてみて!」「みっちゃん、ありがとう。とっても美味しいよ」自分で作ったトマトを、美味しいと笑顔で食べてもらえて、みっこはとってもうれしくなりました。「ゲロゲロッ」「あっおばあの肩にカエルがいるよ!」みっこはあの夢を思い出しました。「ゲロゲロッ」何だかカエルも喜んでくれている。そんな気がしたのでした。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み