箒から輝く
文字数 1,409文字
現代に魔女なんて存在しない。そう思う人も多いかもしれません。
でもそんな現代にも、こっそりひっそり魔女は暮らしているのです。
「ねぇ、ママいいでしょ!」
魔女の家に産まれたゆかりは、箒を片手に母に詰め寄りました。今日は雨の日。普通の人は傘をさすから、空を見上げることもしません。箒で飛ぶ練習をするには、恰好の日です。
飛ぶ練習はそうした人目につかない雨の日か暗い夜に決まっています。晴れた日の夜に夜空を駆けるのもゆかりは好きでしたが、雨に打たれながら飛ぶのも同じくらいゆかりは好きでした。
雨の日は決まって小学校から走って帰って、ゆかりは母に飛行練習をねだるのです。
「もうすぐ雨もあがりそうじゃない。今日は止めておいたら?」
「でも、夜はママと一緒じゃないと許してくれないでしょ。そのくせいっつも忙しいって付き合ってくれないじゃない」
ゆかりの母は薬草の知識を活かして、総合病院で薬剤師をしています。当番制の夜勤もありました。今日は夜勤の日だから、夜に練習に付き合ってもらうことはできないでしょう。昼間ならゆかりひとりでも練習することが許されているので、それが尚更ゆかりの気持ちを急かしていました。
「仕方ないわね。少しだけよ」
ゆかりの熱意に負けたのか、母は降参とでもいうように両手をあげました。ゆかりはぴょんっと跳ねるように喜びを全身で表します。
「ママ、ありがと! 大好き!」
母の胸にぎゅっと抱きついて、すぐに箒を抱えて家のベランダに駆けていきます。
外に出ると確かに雨は弱まって来ていて、グズグズしている時間はなさそうです。透明な雨具を身に着けて、ゆかりは箒に跨りました。周りに人の目がないことを確認して、ゆかりは心のなかで「飛んで、お願い」と箒に言葉をかけます。するとゆかりの足はゆっくりとベランダの床を離れ、箒は重力に逆らって、ゆかりを宙へと誘います。身体がまるで無重力のように軽くなり、雨粒はゆかりの周りできらきらと光って、ゆかりを応援してくれているようでした。
空はゆかりにとって恰好の遊び場です。地上ではできないことでも、空の上ならゆかりには簡単にできました。
例えば宙返り。箒の柄を上に向ければ、くるりっと一回転。
回った拍子に雨具のフードが落ちたて、雨がゆかりの髪を濡らしましたが気にしません。
もっと高く。もっと高く。くるくると回転しながらゆかりは空の頂を目指します。箒はゆかりの言うことをきちんと聞いてくれます。これだから、箒で空を飛ぶことはやめられないのです。
周りの空気が薄くなってきたことを感じて、ゆかりは箒を止めました。いつの間にか雨雲も薄くなり、晴れ間がのぞき始めています。ゆかりは慌てて箒の柄を地上へ向けました。人に見られては、母がもうひとりで飛ぶことを許してくれないでしょう。
次第に頬を打つ雨はなくなり、雨の後の澄んだ空気がゆかりの頬を撫でます。
箒についた雨粒がきらきらと軌跡を描き、ゆかりの後を追います。その軌跡が出てきたお日様の光を浴びて七色に輝いています。
ゆかりは慌てて雨上がりの公園に降り立ちました。空を見上げた空にはゆかりが飛んできた軌跡に沿って大きな虹が掛かっています。
「わぁ、魔法みたい」
自分が魔女であることも忘れて、ゆかりは思わずつぶやきました。
飛行機雲のように、雨上がりに魔女が飛んだ軌跡には虹がかかります。その魔法をゆかりはこの日初めて知ったのでした。
でもそんな現代にも、こっそりひっそり魔女は暮らしているのです。
「ねぇ、ママいいでしょ!」
魔女の家に産まれたゆかりは、箒を片手に母に詰め寄りました。今日は雨の日。普通の人は傘をさすから、空を見上げることもしません。箒で飛ぶ練習をするには、恰好の日です。
飛ぶ練習はそうした人目につかない雨の日か暗い夜に決まっています。晴れた日の夜に夜空を駆けるのもゆかりは好きでしたが、雨に打たれながら飛ぶのも同じくらいゆかりは好きでした。
雨の日は決まって小学校から走って帰って、ゆかりは母に飛行練習をねだるのです。
「もうすぐ雨もあがりそうじゃない。今日は止めておいたら?」
「でも、夜はママと一緒じゃないと許してくれないでしょ。そのくせいっつも忙しいって付き合ってくれないじゃない」
ゆかりの母は薬草の知識を活かして、総合病院で薬剤師をしています。当番制の夜勤もありました。今日は夜勤の日だから、夜に練習に付き合ってもらうことはできないでしょう。昼間ならゆかりひとりでも練習することが許されているので、それが尚更ゆかりの気持ちを急かしていました。
「仕方ないわね。少しだけよ」
ゆかりの熱意に負けたのか、母は降参とでもいうように両手をあげました。ゆかりはぴょんっと跳ねるように喜びを全身で表します。
「ママ、ありがと! 大好き!」
母の胸にぎゅっと抱きついて、すぐに箒を抱えて家のベランダに駆けていきます。
外に出ると確かに雨は弱まって来ていて、グズグズしている時間はなさそうです。透明な雨具を身に着けて、ゆかりは箒に跨りました。周りに人の目がないことを確認して、ゆかりは心のなかで「飛んで、お願い」と箒に言葉をかけます。するとゆかりの足はゆっくりとベランダの床を離れ、箒は重力に逆らって、ゆかりを宙へと誘います。身体がまるで無重力のように軽くなり、雨粒はゆかりの周りできらきらと光って、ゆかりを応援してくれているようでした。
空はゆかりにとって恰好の遊び場です。地上ではできないことでも、空の上ならゆかりには簡単にできました。
例えば宙返り。箒の柄を上に向ければ、くるりっと一回転。
回った拍子に雨具のフードが落ちたて、雨がゆかりの髪を濡らしましたが気にしません。
もっと高く。もっと高く。くるくると回転しながらゆかりは空の頂を目指します。箒はゆかりの言うことをきちんと聞いてくれます。これだから、箒で空を飛ぶことはやめられないのです。
周りの空気が薄くなってきたことを感じて、ゆかりは箒を止めました。いつの間にか雨雲も薄くなり、晴れ間がのぞき始めています。ゆかりは慌てて箒の柄を地上へ向けました。人に見られては、母がもうひとりで飛ぶことを許してくれないでしょう。
次第に頬を打つ雨はなくなり、雨の後の澄んだ空気がゆかりの頬を撫でます。
箒についた雨粒がきらきらと軌跡を描き、ゆかりの後を追います。その軌跡が出てきたお日様の光を浴びて七色に輝いています。
ゆかりは慌てて雨上がりの公園に降り立ちました。空を見上げた空にはゆかりが飛んできた軌跡に沿って大きな虹が掛かっています。
「わぁ、魔法みたい」
自分が魔女であることも忘れて、ゆかりは思わずつぶやきました。
飛行機雲のように、雨上がりに魔女が飛んだ軌跡には虹がかかります。その魔法をゆかりはこの日初めて知ったのでした。