第1話

文字数 826文字

「誰かの1番になりたい」
 不意にそんな言葉が溢れてしまった。いつも通りの帰り道。駅の改札を通り過ぎてしまえば、何も無いに等しいただ街路樹が立ち並んでいるだけの道。言うつもりなんてなかった筈なのに。彼女が余りにも楽しそうに彼氏とのデートを報告してくるものだから、つい心の奥に沈めていたものが出てきてしまった。
「まりな、どーした。病んどるんか?」
「違うよ。なんかちょっと思っただけ」
話を逸らしたいが上手い話題が見つからない。

「でも1番とが順位つけてるみたいで嫌じゃない?」
そういうものでは無いのだ。
小学生の頃の親友は私の他に仲の良い幼馴染がいた。中学生の頃仲の良かった先生のお気に入りは私と別のクラスの子だった。高校生になって彼女と出会ってすぐに仲良くなった。しかし最近は口を開けば塾で知り合った他校の彼氏の話ばかりだ。
 いつからかは分からないけれど、気づけば"1番"への憧れは私の心を蝕んでいた。世間一般ではこれをメンヘラだとか嫉妬だとかと言うのだろう。

「でも全体で順位考えるのはむずいけど、部門で分けたらいけるかも」
思い立ったかのように彼女が話し始める。
「部門?」
「そ、例えばまりなは、私の中でノートまとめるの上手いランキング1番だよ」
「何それ。しょーもなすぎでしょ」
突飛な発想に思わず吹き出してしまった。
「まだあるよ。アイプチ自然につけれるランキング1番だし、定期買うの忘れるランキングも1番でしょ。あ、あと一見真面目そうなのに机の中プリントでくちゃぐちゃランキングも1番だ」
「不名誉なのしかないじゃん」
さっきまで私がもやもやしていたのが馬鹿みたいだ。それくらい彼女は少しの陰りのない顔で笑った。こちらも釣られて口角が上がってしまうくらいの清々しさだった。

「あとは一緒に帰ってて安心するランキングも1番だ」
突然さらっとそういう事を言えるところがずるいのだ。
「それ言えばさっきのが許される訳じゃないからね」
"私の1番"はまた陰りのない笑顔を私に見せた。
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