第2話 キャリーヌの場合

文字数 992文字

 ミネットが戻ってくると店主が小さく笑って声をかける。

「なんだい、待ち人が来たっていうのに愛想のない。ちゃんとおもてなしをしておいで」

 ミネットは何でもないふりをしながら素気なく答える。

「いいの、邪魔しちゃいけないから」
 
 そんなやりとりを隣でじっと見つめていたもう一人の娘がさっさと歩き出してサタンの元へ向かう。ミネットよりもだいぶ幼い少女だ。タタタ、と小走りにサタンのソファまで駆け寄ると、サタンを見上げて話しかけた。

「ねえねえ、あなたローストビーフとスモークチキンどっちが好き?」

 突然現れて無邪気に笑いかける少女にサタンが驚いていると、店主がやってきて少女の頭を優しく撫でながら嗜めた。

「こらキャリーヌ」

 キャリーヌと呼ばれた少女は店主の脚に隠れるようにしてサタンの様子を伺った。サタンはそんな少女を眺めながら店主に尋ねる。

「新しい子かな? まだ小さいな」

「そうなんです。まだうちへ来て二週間ほどなんですがこの通り人懐っこい子で」

「初めまして、キャリーヌ」

サタンがそう言って手を伸ばすとキャリーヌは再びサタンの元へ駆け寄って、ちゃっかりサタンの膝の上に座ってしまった。

「ねえ、ローストビーフのサンドイッチがおすすめよ。とっても美味しいの。頼むといいわ。余ったら私が貰ってあげるから」

 キャリーヌはサタンの膝の上であれこれとお喋りを始めた。サタンは、うんうんそうか、と頷きながら少女の頭を撫でてやった。

「すみませんね、お邪魔でしょうに」

 店主が申し訳なさそうに詫びたが、サタンは微笑んで答える。

「いや構わないさ。ずいぶん体が冷えてしまったし少し腹が減っていたんだ。まずはコーヒーと何か軽食をもらおうかな」

「ではコーヒーには少しブランデーを垂らして、ローストビーフのサンドイッチでもお持ちしましょうか」

「ああ、それで頼むよ」


 結局キャリーヌはコーヒーとサンドイッチが運ばれてからもサタンの膝に居座り、サンドイッチを口に運ぶ度に、丸い瞳を更に大きくしてサタンを見つめるので、サタンは店主に注文してスパイス抜きのローストビーフを一切れキャリーヌに食べさせてやった。

 好奇心と腹が満たされたキャリーヌは、店主に買ってもらった新しいおもちゃのことを思い出し、サタンの膝から飛び降りると店の奥へ走って行った。

 その後ろ姿を眺めてサタンはコーヒーを一口飲み、今日の一冊をどうしようか思案した。
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