第1話

文字数 1,905文字

公園、街路樹。春の桜が落ちてくるのを風情だという輩が日本には多いのだが、少なくともそれを良しとしないのは私、小枝早苗だけだろう。私の足元にはたくさんの桜が落ちている、それで濡れて滑ってしまったら下のタイルに頭をぶつけてしまうなと思っている。いや、私はそんな自信はない。少なくとも、先輩は転びそうなので不安なのである。市には掃除を要請したことがけど、そんなことを横目に行われている再開発計画でこの公園も潰されてなくなってしまうようだ。潰すなら田んぼくらいにしておけばいいのに、そう思うのは田舎者の感性だろうか。
 そんなことを考えながら、私はここを歩いている。
「あ、早苗。おはよう」
「おはようございます。先輩」
 先輩のことを、お迎えに来るためはここを通らなければ行けないのである。

 私と先輩は数年の付き合いである。
 昔、ここの近くで一人でいたときに倒れていたところを介抱した事がある。家が近くにあり、そこに助けを求めたら親がでてきた。
 まさか、近くで転んだの?
 そう思った予想は当たっていて、考え事をしているときにふと足を滑らせてころんだらしい。親も呆れ顔で家の中に引きずり込んでいった。
 その後、またそこに行ったときに公園のベンチに座ってる人に見覚えがあって。あの先輩がここにいるんだ、そう思って立ち去ろうとした。また面倒事につきあわされるのが嫌だったからである。
 しかし、先輩は私の顔を見て大声で叫んだ。
「あ!この間の子だ!」
 近くで歩いていたおじさんが振り返むいていたので、なんか恥ずかしくなって。
「なんですか?急に」
 と、声の温度を下げて言うと
「ねぇ、僕のことを助けてくれたでしょ。君は、神様みたいだ」
 そう言われて、顔が熱くなる感じがした。 

 そこから数年か。私とこの先輩の関係は続いている。2人の間に交わされている条約はただ一つ「僕の名前を聞いちゃダメ」ということだけ。なんでだろうと思ったが、これを破らなければ優しくしてくれるとのことだ。なので、それに縋って今日まで一緒にいる。
 先輩といると、二人の気分になる。当たり前の事だと思うが、一人が好きな私にとって、他の人との関わりが苦痛で仕方がない私でも、居たいなと思えてしまう。
 ふと、空を見ると飛行機が飛んでいた。何を運んでいるんだろう、空想ことが好きな私。先輩といるとそれすらも会話になる。
「あれ何?」
 聞かれて私は驚いてしまう
「え、飛行機知らないんですか!?」
「うん。知ったこと、ないもん」
 知ったことがないとはどういうことなのか、まあそれはともかく。目を見ると本当に知らなさそうなので、教える。物とか人とかを何処かに運ぶのが仕事なんだよっていうことを言う。
「そっか」
 その返事さえも、なんか不思議と愛おしい。
「こういうのは神が作ったときに出た忘れ物で、僕はそれを失くすために残って働いている。つまるところ……残業」
「え?」
「いや、なんでもない」
 先輩は話を変える。
「僕はペンギンが好きなんだ」
 あ、飛行機は知らないのにペンギンは知ってるんですね。
「なんでですか?」
「それはね、先に行くとね、みんなが来るからだよ」
「なるほど……」
 というか、残業って。何?


 その意味は、1日後に知ることになる。
 朝、ヨーグルトを食べながらテレビを見ていたら、臨時ニュースが流れてきた。空に天使の輪の形をした物が、現れた。その下の影になってしまった物が消失するいう。それを、知ってニュースでは「どこかの政府機関の陰謀」や「宇宙人侵略説」を唱えていた。そういった類いの何かを道で小耳に挟みながら、私は、先輩の家まで走った。私は確信を持って言える、絶対これ先輩が昨日言ってた滅ぼすがナンタラカンタラだ。
 公園についた、近くの家まで走っていくと先輩が空を見上げていた。その空には、もちろん輪が浮かんでいて。
「やっぱり、始まったんだね」
 そう言って、私の方を見た先輩の顔は、人形みたいに無表情で。
「あ、あれ、なんですか?」
「早苗は、知る必要ないよ。そんなことよりさ、残しておいて欲しいものをさ、見てみてよ」
 そう言われて、私は先輩の方を見たかったけれど。ふと、まだ落ち続けていた桜が私の頬をかすめた。
「そっか、それが」
 と言い残して、先輩は手から念力を放ち、空に浮かび上がって、どこかに消えてしまった。
 それと同時に、私の視界は白くなって……。


 私は、居なくなった先輩を探している。
 でも、そんな人いないって家に行ったら言われた。だから、あれは神の使いかなんかだと思ってる。天使の輪の打撃を受け、開発中止の看板が立てられた公園を見ながら、今年も桜が散っているのに気付いた。
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