文字数 1,044文字

 夕日ともに地面に落ちていく君は綺麗だった。全てを諦めたような眼をとじ、掴んでいた手すりを躊躇いもなく離した時、普通は走って助けるべきなんだろう。でも、僕は、綺麗な君に見とれていて動くのが少し遅れた。そしたらもう、綺麗だった君は地面に叩きつけられて綺麗じゃなくなっていた。


 放課後。一緒に帰る友人が居残りになってしまったので、時間を潰すために屋上で寝ようと思ってただけ。落ちた瞬間に屋上に居てしまったが故に容疑者みたいになった。警察の人に話を聞かせて欲しいと言われてしまい、空き教室に誘われた。友人は「何時になるかわかんねーなら帰んね!」と非情にも去っていった。

「落ちた人知ってる?」
「僕がドアを開けてすぐに落ちていったので、顔を見れてないんです。分かりません」
「学年も違うから本当に他人かもしれないな」

 その後、警察から言われた名前は本当に知らない名前だった。彼女は美大をめざしている美術部3年、俺は寝るのが大好きな帰宅部1年。住んでるエリア的に小中も一緒ではない。何も接点はないことを証明することは意外と難しいらしく、親同士が知り合いではないかとか子供の時にやってた習い事で会ってないか確認すると言われてしまった。警察からの質問が終わったら今度は生徒指導の先生から「屋上は立ち入り禁止と書かれてたよな?」とありがたいお話を聞かされた。貴重な睡眠時間を奪われてしまった。早く帰って寝たい。

 学校の敷地から出た時には太陽はもう居なくなっていて、星が沢山見えていた。雲も月も居ない、星が主役の空。普段この時間に出歩くことがないので、いつもの道なはずなのに、よそ者感があって落ち着かない……もしも受験時期に塾に通ったら毎日この中を歩くのか、嫌だな。

 病気なのではないかと思うくらい、毎日ひたすらに眠い。ベッドで寝ていたい気持ちを我慢して、怪我や病気もせず毎日学校に通っているのを褒めてほしい。授業中は寝ずに集中して、昼休みに仮眠し、家に帰ってから風呂に入って夕飯までまた仮眠、夕飯を食べたら宿題や予習を終わらせて寝ている。同世代が好きな音楽やら動画配信者やらはよくわからない。寝るのに良いというクラシックの曲名ならわかる。

 今日は金曜日。確か父親も母親も家にいない。いつも通りなら、夕飯が用意されずにお金だけ机においてあるだろう。申し訳ないが、お金はそのままスルーしよう。いつも以上に人と話して疲れてしまった。シャワーも朝で良い。明日が休みで良かった。すぐにベットへ沈んで眠気に身を委ねたい。
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