島魚
文字数 1,209文字
何事も事成るまでの期待にこそ幸せの喜びがあるものである。釣りの道もそのようなもの。この釣れるまでの時間がたまらない。
私は豆アジ。こんにちは。
やあ、さっそくかかったな。朝ごはんになってもらおう。
待った待った。私を生かしてくれれば、次はきっともっと大きな魚がかかりましょう。
それはどういうことだ？
功徳のなせるわざでございます。私を助けてくだすった功徳がさらなる成果を呼ぶのでございます。
そういうものか。では放してやろう。
ありがたき幸せ。ドボーン。
豆アジふぜい、大した腹の足しにもならぬ。放してやったところで惜しくもないわ。おや。
私はアジ。こんにちは。
本当だ、さっきより大きな魚だ。偶然にしても、これはすごい。
先ほどはうちの子がお世話になりました。逃してくれればもっと大きな魚がかかりましょう。
功徳のなせるわざかね。
功徳ですとも。
行くがよい。
ありがたき幸せドボーン。
今のは惜しかったかな。これで大きい魚がかからなかったら、騙されているな。
私は大きなカレイ。こんにちは。
本当に大きい魚がかかった。
すでに承知でしょうが、逃がしていただければ
もっと大きな魚が。
はい。
ドボーン。
ありがたきドボーン。
これはすごい。これから何が来るのか確かめてやろう。
私は高級魚のマダイ。こんにちは。
行くがよい。ドボーン。
長さなら負けないタチウオです。こんにちは。
ドボーン。
ロウニンアジ。ドボーン。
先に言うなドボーン。
アンコウです。クエです。キハダマグロです。トリオでこんにちは。
釣り竿が折れそうだ、早く行け。
お名残り惜しくドボーン。
クジラです。かかってもいいでしょうか。
今度こそ折れてしまう。釣ったことにさせてくれ。
はいはい、ドボーン。
とうとうクジラまで来てしまった。さあ、これより大きい獲物は何が来るだろう。おっ、すごいアタリだ。
はじめまして。
うん、海の中から声がする。
とうとう釣り上げてしまいましたね。
お前はいったい。
私は島魚。文字通り島を背負う魚です。あなたが腰かけている大地は長い年月の間に、私の背中に積もったものだったのです。
なんと。
釣り上げられたからには私はあなたのもの。この島もあなたのもの。
もしもお前を逃がしたら？
あちらの大陸を背負う大陸魚がかかりましょう。
とても手に負えない。お前で我慢しよう。
では私の腹をおさばきになるがよろしい。湯引きにするとおいしいですよ。
ということはお前を殺したら？
この島はなくなります。
それは困る。ひとつ今まで釣った奴を呼び返してくれないか。まずは朝ごはんを何とかしたい。
みんなもうどこかへ行ってしまいました。
むむむ、欲深さは何ももたらさないのだなあ。
ちゃんと私をものにしたではないですか。この島はあなたのものです。
しかしその上に暮らすものは私のものではない。ただお前を釣っただけなのだ。
まあそうです。
しかし、楽しかった。
それはよかった。
次は魚拓をとらせてくれ。
喜んで。
とりあえず帰るよ。
さようなら。
おわり
