第11話

文字数 1,196文字

……特に明確な答えを見つけたわけじゃないけれど……。


僕はもう一度ヒカリに演技をみてもらうことにした。


……正直、自分だけでは完全に行き詰っている感じがしたからだ。


うーん……。


まあ、へたじゃないんだよな……。


でも……合格点……以上でも以下でもないっつーか……


他に代わりがいるような演技なんだよな


え……

とにかく無難に落ち着かないで、間違ってもいいから、

思いっきり”自分の演技”をやればいいんじゃないかな……。

お前にしかできない……さ

僕にしかできない……?


ああ……

それはどうしたら……


……そればっかは自分でつかむしかねーな

……そっか……そうだよね……





それから数時間後……。

よし、これをお前にやろう




突然ニコニコと得意げに、ヒカリは何か書かれた紙を渡そうとしてきた。


え……なにこれ……


何ってみればわかるだろ?楽譜だよ

あ、いや、楽譜は分かるんだけどさ

俺が作曲したオリジナル曲だ!バーン!!

え、どういうこと……?

まあまあいいから、一度歌ってみてくれよ。な?


お前のイメージで作ってみたんだ


え、う、うん……




僕はヒカリが作曲したという歌を歌ってみることにした。


……ところが……。

(あれ……なんか歌いにくいな……


なんでだろ……


いつもどうやって歌ってたっけ……)




ヒカリの方に目を向けると、

ヒカリはニヤニヤとこちらの方をみていた。


……とにかく練習してみるよ


ああっとそれとな、もう一つ


お前、歌詞も書いてみろ

え、作詞なんてやったことな……

別にプロ並なんて期待してねえから、ほら、気楽に

……え、う、うん……





何度か歌ってはみたものの、やっぱりうまくノリきれない。


僕は一旦歌うのをやめ、どうして歌いづらいのか考えてみることにした。

(……)

(……)

(もしかして……?


今まで僕……ただの物真似だったんじゃ……)



もう一度歌ってみる僕。

(……やっぱり……そうかも……)





……そうだ。いままでの僕の歌い方は


ただ、歌っている人の真似をしているだけだったんだ。



……何かを……自分の言葉で伝えたいというこころもないのに、


ただメロディーに合わせて声を出しているだけだった……。



自分の中から出てきたものじゃない


外側だけを借りてきた歌い手のコピー……



そう、僕は”自分の歌”というものを……考えたこともなかったんだ。


だから……歌いづらい……。


ううん……歌い方が分からなかったんだ……。



自分らしさのかけらもない……ただの物まね。


それじゃだめだ……。


そう、僕は僕の歌を……。


自分だけの歌い方を……考えなきゃ……。



(……もしかして……。


ヒカリが伝えようとしてたことは、このことなのかも……)





……つたないながらも一生懸命書いた詞。

そして僕の中から生まれたもの……。



僕は何度も何度も試行錯誤しながら、

時間を忘れて歌の練習をした。



そう、僕は、僕だけの歌を完成させるために……。


へえ。


いい感じで歌えるようになってきたじゃん




……そんなヒカリの声が、聞こえたような気がした。



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