第1話

文字数 8,429文字

 仕事を終え帰路に就く私。電車を降り、駅に併設されているショッピングモールで買い物をするのが、日々のルーティンになっています。

 36歳で独身、その上自他ともに認める、私は『ダメンズウォーカー』。

 若いうちは楽しいだけの理由でチャラ男とも付き合いましたが、アラサーになり周囲が結婚してゆく状況に焦りを感じて、そろそろ真剣に将来のことを考えようと決めたものの、なぜか、付き合う男性はダメンズばかりでした。



     **********



 27歳の時、結婚を前提に交際を始めたのが、同じ会社の4歳年上の先輩でした。穏やかな話し口調と優しい性格に加え、いつもきちんとした身なりの好青年で、リサーチしたところ交際中の恋人はおらず、この人となら幸せな結婚ができるに違いないと、私から交際を申し込みました。

 初めてのデートで、待ち合わせ場所に現れた彼の隣には、明らかに同じトーンでコーディネートしたお洒落な服装の年配女性がおり、


「まあ~、あなたが彼女さん! 可愛らしい方じゃない、良かったわ、素敵な女性で!」

「え? あの…」

「お母さんが、君にご挨拶したいって、一緒に来たんだ」


 何故このタイミングで母親が現れるのか理解に苦しみますが、結婚を前提とする相手の親である以上、失礼があってはいけないと、ひとまずにこやかにご挨拶した私。


「そうでしたか。初めまして、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくね~」


 そう言うと、彼女は何のためらいもなく息子が運転する車の助手席に乗り込み、そのまま3人でドライブへ出発。後部座席に一人ぽつんと座る私には目もくれず、終始前席の二人にしか分からない会話で盛り上がり、何だかよく分からないまま初めてのデートは終了したのでした。

 次のデートでは、お洒落なレストランを予約したというので楽しみに出かけたところ、またもやそこに母親の姿が。前回と同じく二人の話題で盛り上がり、何度かこちらから話を振っても、その度に適当な相槌を返され、すぐに元の会話に戻されてしまうのです。

 さらには食事中、まるで小さな子供にするように、ナプキンで口の周りを拭ったり、苦手な食べ物をお皿から除けてあげたりと、お世話に余念のない母親と、それを普通に受け入れる息子に、私だけでなく周囲にいた人達もドン引きでした。

 その後も母親同伴のデートは常態化し、自宅に招かれれば、リラックスしている二人を横目に、家の雑用をさせられ、買い物に出掛ければ、二人が買ったものの荷物持ち係、外食時には二人だけお酒を飲み、食後は私の運転で彼宅まで送り届けた後、交通機関で一人帰宅するという、まるでお付きの人扱いです。

 ある日、思い切って彼に『次回は二人きりでデートがしたい』と伝えたところ、


「どうして? お母さんも一緒に出掛けるのを楽しみにしてるんだから、来ないでなんて言ったら傷つくでしょ」

「デートだよ? 普通は恋人同士で出かけるものじゃないの? それに、デート中はあなたとお母さん二人だけで喋ってて、私は会話に入る余地もないし」

「そんな気にしなくても、お母さんには気を遣わなくて大丈夫だよ」

「でも、デート中に会話もないって、おかしくない? 一緒にいると、まるで私がお邪魔虫みたい」

「考えすぎだって。お母さん、君のおかげで楽が出来て嬉しいって、すごく喜んでるんだから」


 うすうす感じてはいましたが、彼の中では自分の母親が一番で、私は彼の親孝行のための道具に過ぎないのだと確信しました。


「結婚して一緒に住み始めたら、もっともっと親孝行して…」

「私、同居するなんて言ったっけ?」


 私の言葉に、思わず目を丸くして言葉を失う彼。そこからは言葉が止まりません。


「だいたい、デートに毎回母親同伴て、どういうこと? それをおかしいとも思わないどころか、断ったら傷つくとか、どんだけマザコンなんだっつーの。こんな調子じゃ、新婚旅行にも普通に同伴しそうだし、同居したら夫婦のベッドで一緒に寝てそうだよね? 『お母さんには気を遣わなくて大丈夫』? そりゃそうでしょ、あなたにとっては実の母親だもん。私とあなたのお母さんとは他人なんだから、それなりに気を遣うって分からないかな? ていうか、同じことを私の父がしても、あなたは平気?」


 呆然としたまま、言葉が出ない彼ににっこり微笑むと、


「親孝行がしたいなら、自分一人でして。悪いけど、結婚の話はなかったことにしましょう」

「そんな! 将来介護が必要になっても、君がいれば安心だって、お母さん喜んでたのに…!」

「嫁を使って、親孝行しようと思ってたんでしょうけど、基本的に、親の介護は実子がするもので、配偶者に義務はないんだよ。逆に、私の親に介護が必要になったら、あなたがしてくれるの?」

「いや、それは…! だって、僕は仕事をしてるから…!」

「私も仕事してるけど?」

「そうだけど…、いや、そうじゃなくて…、お母さんに何て言えば…!」

「まあでも、世の中にはその条件でも結婚してくれる女性も一定数いると思うから、お母さんと一緒に探してみたら? じゃ、さよなら」


 親孝行すること自体は素晴らしいですが、幼いころから母親に溺愛され、最優先すべきは母親であるべきと刷り込まれてきたであろう彼にとって、結婚して母親から独立することなど、思いもしなかったことでしょう。

 考えてみれば、結婚適齢期で見た目も性格もスペックも悪くないにも関わらず、恋人もいないのにはそれなりの理由があるということ。それが極度のマザコンともなれば、致命的です。

 万が一、嫁姑問題が勃発すれば、一億パーセント彼は母親側に付くでしょうし、あの母親が存在する限り、まともな夫婦生活など有り得ないことに、結婚する前に気が付けて、本当に良かったと思います。



     **********



 というわけで、次は精神的に独立した男性を見極めようと思い、お付き合いし始めたのが、友人の結婚式の二次会で知り合った男性でした。

 あちらから声を掛けられ、何度か会ってお話をする中で、一人暮らしであることや、ご両親は他界されていて、ご兄弟は遠方にお住まいだということなどから、少なくともマザコンの類ではないと判断。

 外資系保険会社の営業というだけあり、洗練されたエスコートで、女性の扱いもスマート、とても優しくて、会話も弾み、何より一緒にいて楽しいことから、この人しかいないと思い、結婚を前提としたお付き合いの再スタートを切ったのです。私29歳、彼30歳でした。

 が、女性の扱いが洗練されているというのも善し悪しで、下は十代から上は九十代まで、まあモテること。モテるだけなら構わないのですが、自分の好みのタイプには片っ端から手を出すという、とんでもない浮気者であることが判明。

 本人は軽い遊びのつもりでも、中には本気になってしまう女性も少なくなく、幾度か婚約者である私をも巻き込んでの修羅場に発展し、その度に話し合いを重ねるのですが、彼自身『来るもの拒まず』のタイプで、その場では反省するものの、ほとぼりが冷めるとまた繰り返すという無限ループです。

 こんな状態では私の精神が崩壊しそうで、何度目かの修羅場と化した後の話し合いで、一体どういうつもりなのか、どうしたいと思っているのか、彼の真意を訪ねた私。


「勿論、君と結婚する意志は変わらないよ。たださ、僕からアプローチしたわけじゃないし、大人なんだし、たかが遊びなんだから、そう目くじら立てなくてもさ」

「たかが? だったら、私も他の男性と遊んでも良いってこと?」

「そうしたいなら、すればいいさ。僕は気にしないし、結婚してもお互い自由でいるほうが楽しいでしょ」

「そう。じゃあ、私があなた以外にも不特定多数の男性と関係をもった後に妊娠が判明したとして、結婚後は、遺伝子上の親子関係の有無にかかわらず、戸籍上の夫であるあなたの子供ってことでOKなのね?」

「いや…、それは、ちょっと話が…!」

「っていうか、過去にも『妊娠した』って言ってきた女性いたよね? その後、どうしたの?」

「それは…、だって…、でも…」


 思い掛けない方向に話が展開して、混乱する彼の様子に、言葉が止まりません。


「知らないかな? 性行為って、本来は子供を作るためのもので、お楽しみ目的でするのは人間くらいなの。ついでに言うと、日本の民法では婚姻は一夫一婦制で、既婚者が配偶者以外との肉体関係を伴う行為は不倫、すなわち人の道に外れる『不法行為』として、慰謝料を請求できるんだよ。もちろん、世の中には一定数そういう価値観の人がいることは理解するし、それを否定するつもりはないけど、私は自分のパートナーが不特定多数の異性と性交渉を持つことは許容できないから、あなたは同じ価値観の人と結婚したほうがいいと思う」


 淡々と繰り出される正論に、次の言葉が出てこない彼。


「性交渉の先には『命の誕生』の可能性があって、その『命』に対して無責任な考え方しか出来ない人とは生涯を共にしたくないし、尊敬もできない。結婚してもお互い自由でいるほうが楽しい? 大人なんだから、大目に見る? 大人だったら『自由』には『責任』が伴うんだよ」

「わ、分かったから、もう二度と浮気なんてしないから…」

「聞き飽きた。あなたには絶対無理だから。さよなら」

「ちょっと! 待ってって!」


 私が本気だと理解し、何とか考え直してほしいと懇願する彼を、無視して立ち去る私。話し上手で優しくて、一緒にいて楽しくて、女性の扱いが上手だとしても、それが妻以外にも不特定多数の女性に向けられるのであれば、結婚相手としては致命的です。

 これまで何度も誓いを破っては再構築を繰り返したことで、彼の中では『謝れば許される』という成功体験が出来てしまい、今この無限ループから脱出しなければ、生涯夫の不倫に苛まれ続ける『サレ妻』でいるしかありません。

 貴重な二十代という時間を無駄にしてしまいましたが、私が望むのは『幸せな結婚』であり、焦って不幸な未来しかない結婚に踏み切らずに済んで、本当に良かったと思います。



     **********



 というわけで、次はお互いを尊重しあえる相手が理想と考え、お付き合いを始めたのが、婚活アプリで知り合った男性です。

 彼は私より2歳年下で、実家暮らし。一瞬、マザコンの悪夢が頭を過りましたが、ご両親はかつて嫁姑でご苦労されたそうで、子世帯とは同居したくないとのご希望。特にお母さんに至っては、『ようやく子供から手が離れると思うとホッとする』のだそう。

 何度か会ううちに、お互いの価値観や好みも似ていることが分かり、マザコンや浮気の心配もなさそうで、この人となら上手くやって行けそうだと思い、私32歳、彼30歳で、結婚を前提とした交際を再々スタートしました。

 ところが、いざ交際を始めてみると、彼の仕事が思いのほかハードで、毎日のように残業続き、お休みは週に一日取れれば良いほうで、なかなか外でのデートも儘ならず、それでも『会いたい』と言ってくれる彼。

 そこで、平日の仕事終わりに私の部屋を訪れ、自宅で会うようになったのですが、そもそも訪問時間が遅いため、そのまま泊まっていっては、翌朝私の部屋から出勤することが常態化。徐々に着替えや仕事道具、その他趣味のものなど、さほど広くない2DKの大半を彼の私物が占拠し、気が付けば生活の拠点が移っていました。

 当初は、彼がお惣菜やデザートなどを買ってきてくれて、その代金は二人で折半していましたが、家で作る料理の材料費はすべて私の負担で、しばらくすると『作ったほうが経済的』という理由で、彼が出来合いのものを買ってくることはなくなりました。

 また、彼の帰宅が遅いため、食事の支度はもちろん、後片付けやその他の家事一切、暗黙の了解で私が担当しており、一緒に暮らすようになっても、一向に家賃や食費などの生活費を出す気配がなく、元々そうしたことに疎い人なのかと思い、そのことについて尋ねたところ、


「じつは、会社を辞めて、自分で仕事を始めようと思っているんだ」

「独立するの?」

「うん。今のままじゃ先が見えないからね」


 実際、彼の会社はブラックとまでは行かないにしても、このまま続けるにはメリットも少なく、過去に独立した人も何人かいるようでした。ただし、それには資格が必要で、受験勉強の時間を確保するためにも一旦退職したいというのが彼の希望でした。

 確かに、毎晩午後9時に帰宅している現状では、とても勉強どころではありませんし、独立・転職如何にかかわらず、先々のことを考えれば、それが一番良い選択だろうということで一致しました。

 また、彼の実家には、兄妹が頻繁に子供を連れて遊びに来るため、あまり勉強に適した環境とは言えず、このまま私のマンションで受験に備えたいとのこと。


「必ず合格するよ。そしたら、結婚しよう」

「分かった。私も出来るだけ協力するから、頑張ってね」

「ありがとう」


 無職になったことや、今後独立に掛かる費用などを考えて、一先ず結婚は保留に。これまで通り生活費は私が負担し、当初は彼も勉強の妨げにならない範囲で家事を引き受けていましたが、しばらくすると徐々にしなくなり、気が付けばすべての家事を私がこなす日々。

 さらに退職してまで臨んだ受験も『不合格』という不本意な結果になり、魂が抜けたように落ち込む彼にかける言葉も見つかりません。

 試験は年に一度。諦めて再就職するか、それとももう一度チャレンジするか悩んだ結果、次の試験に再チャレンジしたいという彼の希望を尊重し、もう一年、この生活を継続することにしたのです。が。

 残念ながら二度目のチャレンジも失敗に終わってしまい、こうなれば、これまで費やした時間と労力を無駄にしたくないからと、三度目に向けてトライする中、明らかにこれまでに比べモチベーションが低下していることに気づきました。

 毎朝、私が出勤する時間はベッドの中、昼間自分が使った食器や調理器具もそのままで、洗濯や掃除といった家事をすることなく、私が帰宅してから作る夕食を食べると、自室に籠り明け方近くまで起きているという生活。

 当初は一年の予定でしたが、その後も勉強時間を確保するため働けないという理由で、収入のない彼に代わり彼個人の保険や年金、さらにはお小遣い等も私が支払っていたのですが、ある日届いた彼の携帯料金の請求額が、二十万円を超えていたことに驚いて尋ねると、ソーシャルゲームに嵌り課金を繰り返していたと言うのです。


「受験勉強はどうしたの? あなたが頑張ってるから、私も協力してたのよ?」

「気分転換くらいしたっていいじゃん」

「にしても、二十万の課金って異常でしょ?」

「勉強ばっかで、ストレス溜まってんだよ! こっちは間もなくアラフォーって女と結婚してやるんだから、たかが20万ぽっちでグチグチ言われたんじゃ割に合わないんだよ!」


 逆ギレしてそう吐き捨てると、自宅を飛び出したのです。そのまま数日に渡り帰宅せず、電話にも出ず、既読もつかない状態が続きました。

 そうして一週間ほどしたころ、不意に自宅に戻った彼。気まずそうに何かを言おうとして、室内の状況が変わっていることに気づき、驚いた顔で尋ねたのです。


「僕の荷物は?」

「実家に送り返しておきました」

「はあっ!? 何勝手なことしてんだよ! マジで婚約破棄されたいのか?」

「はい、それで良いです」


 予想もしていなかった私の返答に、目を丸くして立ち竦んでいる彼に、言葉が止まりません。


「だいたいさ、何で今、私がアラフォー目前で独身なのか、あなたが一番わかってるよね? 難関試験に挑むために、全面協力するのは構わないし、息抜きだって必要だと思うけど、はっきり言ってこのところのあなたには、努力している形跡が皆無だったよね? それを何? 結婚してやる? 割に合わない? ヒモ状態の奴に蔑まれる筋合いはないんだけど」

「それは…、言葉のあやというか…」

「ま、あなたもアラフォー女から解放されて良かったね。3度目の試験に無事合格して事業立ち上げたら、若くてかわいい奥さん貰うといいよ」

「待てよ! 婚約破棄するなら、慰謝料請求するからな!」

「どうぞ。どっちが有責かは裁判所に決めて貰えばいいし、こちらも約2年間分の家賃や生活費、あなたの年金や保険料、その他お小遣い諸々、上乗せして請求させて頂きますので、今後は弁護士を通して連絡してくださいね」


 さすがに自分のほうが不利だと悟ったのか、今度は猫なで声ですり寄ってきました。


「分かったよ、僕も言い過ぎたと思うし、機嫌直してよ。また勉強も頑張るからさ、これからも一緒に暮らそう。そうだ、今すぐに籍も入れようよ!」

「それは無理かも」


 その時、インターフォンが鳴り、室内へ入ってきたのは引っ越し業者のスタッフさんたち。すでに纏められた家具や荷物を、手際よく運び出す様子を見て、


「どういうことだよ!?」

「私、引っ越すことにしたから」

「勝手に決めるなよ!」

「何度も連絡したけど、拒否してたのはそっちでしょ? それに、ここは私が家賃を払ってる部屋だし」

「それは…! じ、じゃあ、僕はこれからどこに住めば…!」

「あなたの荷物は実家に送ったから、あとは自由にすれば? ああそれと、これまでに掛かった費用は、私の勉強代として請求しないであげる。でも、これはあなたが自分で払ってね」


 そう言って、彼の足元に放り投げたのは、事の発端となった二十万円超の携帯料金の請求書でした。

 呆然と佇む彼を横目に、すべての荷物を運び終えた運送会社のスタッフが退去したのと入れ替わりに入ってきた不動産会社の社員の方に鍵を渡し、ガランとした部屋を後にした私。


「すみませんが、鍵を閉めますので、お部屋から出て頂けますか?」

「え? あ、ああっ!」


 社員の方にそう言われ、慌てて部屋を飛び出した彼。丁度迎えに来たタクシーに乗り込んだ私を追いかけようとしましたが、


「行って下さい」


 そうドライバーさんにお願いし、住み慣れた部屋を後にしました。

 目標を達成するために、誰かの力を借りたり、貸したりすることは、決して悪いことではありません。

 ですが、それを笠に、相手の時間やお金や労力を詐取する理由にはなりませんし、努力も実力も向上心も生活力もなく、相手を卑下して支配しようとする自己中心的な人間性であるなら、結婚相手としては致命的です。

 あるいは、彼をそうさせてしまった原因は、甘やかした私にもあったかも知れませんが、もともと他力本願な性格に加え、自分が得をするほうへ、楽できるほうへと逃げる癖があったのでしょう。

 私にとって結婚の目的は、お互いに助け合い、成長できるパートナーと人生を共にすること。全幅の信頼をおくことと、全面的に依存することは違います。

 三十代前半の大切な時間を無駄にしたのは痛かったですが、費用が掛かるからという理由で、挙式や披露宴を延期にした際、入籍もしないでおいたことは、本当に良かったと思います。



     **********



 あれから2年。正真正銘アラフォーになった私は、相変わらず独身のままですが、今は新居で新たな恋人と暮らしています。

『マザコン』『浮気者』『ヒモ』と、散々な婚活を経験し、もう男なんて懲り懲りと思っていた矢先、新たな引っ越し先の近くで見つけた貼り紙に、釘付けになった私。早速連絡した先で待っていた『彼』に一目で恋に落ち、すぐさまトライアルを申し込み、そのまま正式譲渡となったのです。

 その彼というのは、公園に遺棄されていたところを保護されたまだ幼い子猫。当初は私が母親代わりとなり、うんと手間暇愛情をかけて育てました。おかげで今では立派なマザコンです。

 こんなに大切に育てたというのに、猫でも人でも女子が大好きで、女の子を見るや、傍に私がいようがお構いなしにアプローチ。でも大丈夫、ちゃんと去勢手術して、完全室内飼いなので、よそ様の大切なお嬢猫(おじょうさま)をご懐妊させる心配もありません。

 毎日、仕事帰りにショッピングモールのペットショップに立ち寄っては、彼が喜びそうな貢物(オヤツやオモチャ)を物色し、新しい商品は必ずチェック。購入累計額によってランクアップするアプリも、気が付けばプラチナ会員です。

 仕事で疲れて帰れば、ごはんを出せ、トイレを掃除しろ、遊べ、マッサージしろ、もっともっと奉仕しろと詰め寄られ、これが人間なら怒りしかありませんが、猫だと癒されまくりで、同じヒモ状態でもこうも違うものかと。

 このままだと、さらに結婚が遠のきそうですが、あんなダメンズを掴むくらいなら、今のままのほうが幸せかもしれないと思う今日この頃。すっかり猫の魅力に憑りつかれた私は、誰に遠慮することなく、思う存分彼を溺愛しています。


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