進軍だ。私に続け!
文字数 1,997文字
ゴウゴウと燃え上がる炎。
千四百三十一年五月三十日。ルーアンの広場。
私は、燃えて亡くなった。
儚い一生だった。十九才の乙女であった。
魔女と呼ばれ、火あぶりの刑となった。
後悔はしていない。ミカエル様からフランスを救うように言われた。使命感に燃えたが、最終的に燃やされたのは私自身の体だった。
今日は、転生の儀式がある日。神様に転生の許可をもらった。二回目の人生を迎えることになっていた。
「・・・ジャンヌよ。・・・起きろ! ジャンヌ。いつまで寝ているつもりだ」
「・・・ふぁぁ。・・・あっ! ミカエル様、おはようございます」
「おはよう。顔を洗ってこい! 馬鹿者」
「ヒェー、お許しを・・・」
大事な日に寝坊した。
(や、やっちゃったー)
「急げ!」
「は、はい」
ミカエル様に抱えられ、空中に浮いた。
(ヒェー。お、落ちる)
猛スピードで飛んでいた。必死に、しがみつく。何とか儀式場に到着。
「やっと来たか・・・しょうがない奴だ」
神様の冷たい視線が体に突き刺さる。
「申し訳ありません」
私は、一生懸命に謝った。しゃがみこみ、地面に額を擦りつけた。何とか神様に許してもらえた。
「・・・それでは、始めよう」
ミカエル様が術式を詠唱されている間、黙って待っていると私の身体が輝き、透明化していく。
「ジャンヌよ。最後に話すことはあるか?」
「・・・はい。ミカエル様。約五百六十年間、ありがとうございました」
最敬礼をした。
「うむ。お前の行先は、千九百九十年の日本だ。達者でな」
「はい」
身体が消え、光の塊となる。上空に一本の光の筋が見えた。光の道に誘導され、下界へ落とされた。
(キャー)
気がつくと真っ暗だった。
私は、妊婦のお腹の中で大人しくしていた。転生は成功していた。後は元気よく「オギャー」と泣くだけだ。やがて、その時がやって来た。
「オギャー、オギャー」
「・・・私がママよ」
(ふーん、この人がママ・・・)
抱きつく女性が朧気に映る。泣いているように見えた。こうして二回目の人生がスタートした。
― 時は流れ、私は成人となっていた。
スクスクと育ち、平凡な生活を送っていた。二十才から年齢を数えるのを止めた。永遠の二十歳。私が暮らす日本は平和だ。戦いが無い。普通に暮らすには、いい国だ。
一回目の人生は、散々だった。当時は、百年戦争の真っ只中。イギリスと祖国フランスは戦争をしていた。私は、ミカエル様の声が聞けた。その声を信じて戦った。だが、力尽き、イギリス軍に捕らえられ、裁判を受けた。
私は今、夢中になっている物がある。スマートフォンのゲームだ。そのタイトルは、「聖女ジャンヌ」。前世の私が、主役のゲームだ。
私は、全ての物語を知っている者。当然、楽勝だと思っていた。ところが既に、二年経過している。クリア出来ていない。運営会社の罠に引っ掛かり、重課金。年末までには、廃課金者となるだろう。
(さて、今日もガチャを回すか・・・)
・・・ゴクリ。生唾を飲み込んだ。緊張の一瞬。・・・で、出たー。星十個の私。待ちわびたぞ、私のカード。これからは私のターン。早速、全ての能力を上限まで引き上げた。
(それにしてもゲームの私は、美人で胸が豊満だな)
前世の私は、こんな姿では無かった。何だか空しくなった。ベッドの上にスマートフォンを放り投げた。床に寝そべり、天井を眺めた。
(前世の私が主役なのに・・・)
自然と涙が頬を伝った。
私がやりたかったのは、こんなことだったのだろうか? このままでいいのだろうか?
考えていたのだが、いつしか眠っていた。
― 夢の中。
そこには、かつての仲間達がいた。共に死線を潜り抜けた同胞。笑顔で私を迎えてくれた。
(久しぶりだな)
「乙女ジャンヌ。今日も頑張ろうぜ! 負けるんじゃねぇぞ!」
私は、ハッとして目覚めた。
(・・・そうだ。私は負けられない)
彼等の分まで生き抜いてやる。平凡な人生でいい。天寿を全うするまで、頑張って生きるんだ。
(見ていてくれよ。皆)
再び、スマートフォンを持った。
「くそっ!」
思わず声が漏れる。
(イギリス軍め!)
こうなったら意地でも、ねじ伏せてやるぞ!
課金だ!
(待っていろよ)
「ジャンヌちゃん。この後なんだけど・・・」
「ごめんなさい、社長さん。大切な用事があるの。本当にごめんなさい」
決して、ゲームが待っているとは言えない。
課金をするために、夜の街で働いている。
私は、源氏名「ジャンヌ」として人気者だ。
また、この名前を名乗るとは思わなかったが、イギリス軍を倒すためだ。許して欲しい。
(今日も家に帰れば、課金してやるぞ!)
平和な夜が更けていく。
打倒! イギリス軍。前世で出来なかった事を達成してみせる。そして、今日も課金。ガチャを回した。加わった新たな仲間達と進軍を開始した。
千四百三十一年五月三十日。ルーアンの広場。
私は、燃えて亡くなった。
儚い一生だった。十九才の乙女であった。
魔女と呼ばれ、火あぶりの刑となった。
後悔はしていない。ミカエル様からフランスを救うように言われた。使命感に燃えたが、最終的に燃やされたのは私自身の体だった。
今日は、転生の儀式がある日。神様に転生の許可をもらった。二回目の人生を迎えることになっていた。
「・・・ジャンヌよ。・・・起きろ! ジャンヌ。いつまで寝ているつもりだ」
「・・・ふぁぁ。・・・あっ! ミカエル様、おはようございます」
「おはよう。顔を洗ってこい! 馬鹿者」
「ヒェー、お許しを・・・」
大事な日に寝坊した。
(や、やっちゃったー)
「急げ!」
「は、はい」
ミカエル様に抱えられ、空中に浮いた。
(ヒェー。お、落ちる)
猛スピードで飛んでいた。必死に、しがみつく。何とか儀式場に到着。
「やっと来たか・・・しょうがない奴だ」
神様の冷たい視線が体に突き刺さる。
「申し訳ありません」
私は、一生懸命に謝った。しゃがみこみ、地面に額を擦りつけた。何とか神様に許してもらえた。
「・・・それでは、始めよう」
ミカエル様が術式を詠唱されている間、黙って待っていると私の身体が輝き、透明化していく。
「ジャンヌよ。最後に話すことはあるか?」
「・・・はい。ミカエル様。約五百六十年間、ありがとうございました」
最敬礼をした。
「うむ。お前の行先は、千九百九十年の日本だ。達者でな」
「はい」
身体が消え、光の塊となる。上空に一本の光の筋が見えた。光の道に誘導され、下界へ落とされた。
(キャー)
気がつくと真っ暗だった。
私は、妊婦のお腹の中で大人しくしていた。転生は成功していた。後は元気よく「オギャー」と泣くだけだ。やがて、その時がやって来た。
「オギャー、オギャー」
「・・・私がママよ」
(ふーん、この人がママ・・・)
抱きつく女性が朧気に映る。泣いているように見えた。こうして二回目の人生がスタートした。
― 時は流れ、私は成人となっていた。
スクスクと育ち、平凡な生活を送っていた。二十才から年齢を数えるのを止めた。永遠の二十歳。私が暮らす日本は平和だ。戦いが無い。普通に暮らすには、いい国だ。
一回目の人生は、散々だった。当時は、百年戦争の真っ只中。イギリスと祖国フランスは戦争をしていた。私は、ミカエル様の声が聞けた。その声を信じて戦った。だが、力尽き、イギリス軍に捕らえられ、裁判を受けた。
私は今、夢中になっている物がある。スマートフォンのゲームだ。そのタイトルは、「聖女ジャンヌ」。前世の私が、主役のゲームだ。
私は、全ての物語を知っている者。当然、楽勝だと思っていた。ところが既に、二年経過している。クリア出来ていない。運営会社の罠に引っ掛かり、重課金。年末までには、廃課金者となるだろう。
(さて、今日もガチャを回すか・・・)
・・・ゴクリ。生唾を飲み込んだ。緊張の一瞬。・・・で、出たー。星十個の私。待ちわびたぞ、私のカード。これからは私のターン。早速、全ての能力を上限まで引き上げた。
(それにしてもゲームの私は、美人で胸が豊満だな)
前世の私は、こんな姿では無かった。何だか空しくなった。ベッドの上にスマートフォンを放り投げた。床に寝そべり、天井を眺めた。
(前世の私が主役なのに・・・)
自然と涙が頬を伝った。
私がやりたかったのは、こんなことだったのだろうか? このままでいいのだろうか?
考えていたのだが、いつしか眠っていた。
― 夢の中。
そこには、かつての仲間達がいた。共に死線を潜り抜けた同胞。笑顔で私を迎えてくれた。
(久しぶりだな)
「乙女ジャンヌ。今日も頑張ろうぜ! 負けるんじゃねぇぞ!」
私は、ハッとして目覚めた。
(・・・そうだ。私は負けられない)
彼等の分まで生き抜いてやる。平凡な人生でいい。天寿を全うするまで、頑張って生きるんだ。
(見ていてくれよ。皆)
再び、スマートフォンを持った。
「くそっ!」
思わず声が漏れる。
(イギリス軍め!)
こうなったら意地でも、ねじ伏せてやるぞ!
課金だ!
(待っていろよ)
「ジャンヌちゃん。この後なんだけど・・・」
「ごめんなさい、社長さん。大切な用事があるの。本当にごめんなさい」
決して、ゲームが待っているとは言えない。
課金をするために、夜の街で働いている。
私は、源氏名「ジャンヌ」として人気者だ。
また、この名前を名乗るとは思わなかったが、イギリス軍を倒すためだ。許して欲しい。
(今日も家に帰れば、課金してやるぞ!)
平和な夜が更けていく。
打倒! イギリス軍。前世で出来なかった事を達成してみせる。そして、今日も課金。ガチャを回した。加わった新たな仲間達と進軍を開始した。