第1話 とんかつ大好き研究会の二人

文字数 1,617文字

「俺は、豚MAN亭やな。初めから切ったカツやなくて自分で切るスタイルの店。トンカツの褒め言葉って、脂が甘いとか肉が柔らかいとか言うやろ、あの店はちょっと違うねん。確かに脂の甘味は感じるけど、やっぱり肉やねん。噛んだ瞬間から味が始まるねん。衣で閉じ込められた肉汁がな歯と肉の弾力でじわぁ・・と染みてくるねん。溢れるんやなくて噛むほどに染みてくる感じ、最初はソースをかけずに味わって、3切れ目くらいに少しだけ垂らすねん。トロッとしたソースじゃなくてウスターに近いねんけど果実が感じられるソースでな、味変じゃなくて肉の味を際立てるソース。旨過ぎて旨さを表現でけへんわ」

「僕は東江食堂ですね。逆に、食堂の王道なトンカツなんですよ。キャベツは山盛り、カットされたトンカツに中濃のソースがかかってます。普通やん!と、簡単に思ったらダメですよ。店主のこだわりと人脈があってこそなんですが、あの、アグー豚を使ってるんですよ。アグー豚って火の通りがいい肉質が特徴で、しゃぶしゃぶで食べたりするのが一般的なんですけど、低温で揚げる事で、トンカツとしての肉の旨みを引き出したんですよ。定番褒め言葉の”脂の甘みと肉の柔らかさ”って言うのは、アグー豚が世に出たからだと思いますよ。ただ、1日限定30食なんですよ、売れる度に赤字の名物メニューのせいで、店が潰れそうになったからなんですって」

「定番トンカツって言うなら、TONVICのトンカツも美味いで。定番いうても見た目だけで、フレンチのシェフが作るからソースが絶品やねん。で、肉は米主体の肥料で育てたブランド豚で臭みのない脂が特徴なんや。なんとかXもいいけど、ココは店のソースとの一体感でこっちやな」

「フレンチといえば、COChonという店もいいですよ。薄切りにした肉を重ねて揚げてるんです。そう、ミルフィーユみたいな感じなんでよ。さっと高温で揚げてから余熱で中に火を通していくんですけど、肉の間にチーズやスパイスを忍ばせてるから、噛むごとに微妙な味変が生まれて、最後の一切れまで新しい美味しさに出会えるんですよ」

「あ、あれどこやったかな?肉にストレスかけるな言うて、絶対に叩かへんのに柔らかいトコ。下味にリンゴと蜂蜜使って、マスター感激!とか言う店」

「西城ハウスですね。あそこも低温調理ですから豚肉でありながら赤みを残してますよね。あそこのフィレは最高ですよね」

「ああ、ヘレやな。最近は美味しい言うても脂はシンドくなってきたわ」

「エビフライとかビフカツも美味しいですけど、僕は、ココ一番って時はトンカツですね。割と頑張った時のご褒美とか、合格とか結婚とか大層な祝いじゃなくて、契約取れたとか単位落とさなかったくらいの」

「そらトンカツやな、ほんで絶対キャベツ大盛り言うな。半分以上、食べ進んだ頃に来る、太った人間特有の罪悪感は、キャベツさえあれば流してくれよる」

「僕もキャベツ大盛り派です。罪悪感はないですけど、キャベツのおかわりできる店は嬉しいですよね」

「ヘレに関して言えば、豚虎一番のヘレカツは旨いわ。しっかり火を通すんやけど、それでも柔らかいねん。歯がいらんとは言わへんけど、大して歯を働かせんと食べれるわ」

「・・・はい?・・」

「おいおい、聞いてないんか。寝るなよ、ヘレの美味い店やがな」

「ああ、フィレに関して言えば、セードンって洋食屋なんですけど、火が通ったかどうかのギリギリで出す店で、出された瞬間はほんのり赤みがかっているのに、数秒たつと赤みが消えるんですよ。トンカツなのに皿には少しも油が付いていないような・・・ああ、もうダメだ」

「アホ! 何言うてんねん。あれ、なんか音なってるで」


 purupurupurupuru・・・・・
           ・・・・・purupuru     
     purupuru・・・!

      gaga 『あ!いました、男性2名です。 遭難者を発見しました』
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