第1話

文字数 890文字

 スマートフォンの画面が光る。
『おはよう。こちらは晴れ。そっちはどうだった?』
 こちらも晴れ、と打ちながらカーテンをめくる。ビルの間に星がちらりと瞬いていた。
『今も晴れてて、星がきれいだよ。今日もいつもの毎日だった』
 朝6時に起きて、葉桜を横目に散歩して、オンライン授業を受けて、冷凍ごはんをチンして、ラジオをつけて起きている。
 彼からは、素っ気なく『そっか』と返信が来た。毎日連絡を取り合おうと言ったのは私だ。名付けて、生存確認定例連絡。彼は最初しぶったが、なんやかんや1年間続いている。
『これから学校行くの?』
『いや、もう学校にいるよ。今休み時間中。そっちは課題やってんの?』
 こっちとか、そっちとか、その言葉の距離がすこしさみしい。
『課題は終わったよ』
『じゃあもう寝る?』
 そう聞かれて、あっ、と固まった。そうだ。いつも課題がたくさん出てるから起きてるって言ってたんだった。後悔しながら『まだ寝ない』と返信をする。
『なんで?』
 なんでって。
 そんなの答えはひとつだけど、自分からは言いたくないから、『眠くないだけ』と答える。
『でも、そっちもう午前1時に近いじゃん。寝なよ』
 唇を噛む。私は、この時間のために、仮眠をとって、目覚ましをかけて、コーヒーを飲んでいるというのに。まだ13時間前の昨日にいるあなたと話がしたくて。
『わかった。もう寝るね』
 このわからずやめ。やけになって矢継ぎ早におやすみのスタンプを送る。どんなに離れていても、連絡を取り合っていれば大丈夫だと思ってたのに、時間だけはどうしても縮まらなくてもどかしい。
 乱暴に机に置いたスマートフォンから、またポロンと音が鳴った。投げ捨てた手ですぐスマートフォンをつかむ。
『おやすみ。今日の日本時間正午くらいに俺から電話するよ』
『え、いいよ。いつも課題とか予習とかで忙しいじゃん』
『うん、でも、声聞きたいし』
 ラジオから流れるロマンチックなメロディに包まれる。冷静を装い『わかった』と可愛らしいスタンプを送って、ベッドにダイブした。壁に飾ってある大きな世界地図。アメリカの東海岸に刺した赤いピンに、こっそりキスをした。
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