第1話

文字数 717文字

部屋の中に一匹の蠅がいる。

私はベッドに腰掛けたまま、それをただぼうっと眺めている。


部屋の外からはカラスの鳴き声と、下校中の子供らの騒ぎ声、部屋の中では蠅の羽音、頭の中では地鳴りのような耳鳴りが響いている。


体は生きながら死んでいるかのように重苦しく、蠅をどうこうしようという気も湧いてこない。


蠅は我が物顔で大きな羽音を立てながら、部屋を迂回したり、壁に止まって足をこすり合わせたりして、好き勝手に過ごしている。


蠅にとっては、部屋の主である私ですら、オブジェや家具の一部にすぎないようだ。


ぼんやりとするうちに、あれが私の頭上を飛び交い始めた。


「うるさい!」


思わず壁を殴って叫ぶと、子供らの騒ぎ声はぴたりと止んだ。


やがて陽は沈み、カラスの鳴き声も静かになったが、蠅の羽音と頭の中の地鳴りは止まらない。



日が昇る。カラスの鳴き声、 登校中の子供らの声、羽の羽音、そして地鳴り。


これらは全て、私にとって日常の一部にすぎなかった。


生きながら死んでいるのか、死にながら生きているのか、それすらも分からない。


確かなことは、 これらの音は生きているということ。


私の耳鳴りもきっと生きていることの証なのだろう。


蠅は今日も部屋の中を飛び回っている。


私はそれを、うずくまったまま眺めるだけで一日が終わる。



果たして、私は生きているのだろうか?


何もしないで過ぎていく日々に、焦燥感を感じても、体は動かず、 腐敗していくばかり。


やがて新しい命が生まれ、私の体から飛び立っていっても、ただそれをぼんやりと眺めるだけだった。


一体いつまでこんな日々を続けたらいいのだろう。


この部屋で命を刻んでいるのは、蠅の羽音だけだった。

今日も彼らは、部屋の中を我が物顔で飛び交っている。
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