酷暑日は目前に
文字数 1,999文字
「昔は32℃で驚いてたんだぜ」
「課長、それ3回くらい聞きました」
誰もが滝のような汗をかいている。山間の建築現場の視察を終え、一行は車に乗り込んだ。
藤田は制汗シートで首筋を拭って一息ついた。
「クーラーボックスに入れてきて正解でしたね」
ハンカチで額を抑えて山下はうなずいた。
「ああ。少しは涼をとってもらえたらいいが、暑くてかなわんな」
運転する岸が言う。
「北海道さえ猛暑ですよ。高地しか涼しくないなんてやばいですね」
そこで藤田はチラリとスマホを確認した。
山下の視線を感じてドキッとする藤田。
「なんすか?」
「……お前、ゲームはやるか?」
「え? まあ、それなりに」
「息子がスマホゲームをやりたいと言い出してな。あれだろ? 最初は無料で、なんだかんだすごい額を使うんだろ?」
「モノによりますよ」
山下は眉間に皺を寄せた。
「スマホを持たせたらすぐこれだ」
「射幸心を煽るタイプのガチャじゃなきゃ平気ですよ」
「バトルゲームで強くなるためには有料のなにがしかがいるんじゃないのか?」
「そういうのもありますけどね。たとえばフォートナイトっていうオンラインゲームは、ファッション部分だけはお金で色々購入できるですけど、武器とか能力は買えないんです。勝負は完全に実力と運です」
「闘うゲームか?」
「100人で銃火器を使ってバトルロイヤルをするゲームです」
「殺し合いか」
「血とかは出ないですし。残虐性はないですよ。あれがダメならドッジボールだって暴力ですよ。アニメや映画とのコラボもあって楽しいですよ。車で乗りつけた孫悟空にライトセーバーで倒されたり」
「何だって?」
「スパイダーバース・ウェブシューターでスイングするスーパーサイヤ人と立体起動を操る悟空ブラックが戦ってたりするんですよ!」
「思ったよりファンタジーだな。それより、ドラゴンボールとしかコラボしないのか?」
「いえ、さっき言ったようにスターウォーズやスパイダーマンや進撃の巨人ともコラボしてます。まぁ、有料のアバター や動き を手に入れるのもせいぜい数百円から数千円ですし。短期間に大金を注ぎ込むような構造はしてませんよ。ゲーム自体は無料ですからね」
「うーん。いろんなゲームがあるんだな」
腕を組む山下に藤田は言った。
「課長、よく言うじゃないですか。まず自分で確かめろって。Switchでもできるんで、課長が試してみるべきですよ。息子さんはまだやったことがないんです。そんな状態でプレゼンなんてできませんて。家族で遊んでみて下さい。この炎天下で外遊びなんてできませんしね」
親指にたこがある岸も同調する。
「インフラは理想に対する現実なんですよね? 環境に良い手段は結局は我慢ですから、弱い立場の人ほど苦しい思いをする。この先も殺人的な暑さが続くのは間違いない。だから電線の地下化に合わせて輸送用レーンも備えた共同溝を拡充させる。同じようにスマホで様々なことを行う流れはますます加速しますよ。いまから一緒に学んでおいた方がいいんじゃないですか?」
藤田が囃し立てた。
「課長は家でも上司してた方が息子さんもまっすぐ育つと思います!」
「それは褒めてるのか?」
「課金が悪い意味になるのは寂しいっす。俺たち土建の人間は炎天下を前にしても逃げないじゃないですか。理想と現実の橋渡しをするのが課長ですよ。課長の金はつまり課金! 使えばいいじゃないですか!」
「意味不明だぞ!」
岸は笑った。
「子どもたちにはゲームで遊んで待っていてもらいましょう。炎天下に負けない仕組みができるまで」
山下は遠くを見つめた。
「ヒロトが大人になる方が先だろうな」
山下は建築 機能を気に入った。
「シルバーより上にいけん。どうすればいい?」
ダイヤモンドIIの藤田は得意気だ。
「ビルドが上手ければそれなりに生き残れるんですけどね? 課長、射撃が下手なんすよ。まずはランク戦じゃない方で練習しましょ!」
「やってるよ。どうすれば1位になれるんだ」
「時間帯によっては猛者が少ないし、シーズンごとに武器も変わるんで、初心者もチャンスありです。でもゴールドはマジ実力です。敵を倒せなきゃ無理ですよ」
山下は口を曲げて肩を落とした。
「む。課金で強くなれる方が存外優しいのかもしれないな。ーーそうだ、コンボイのスキンはないのか?」
「オプティマスプライマルですか?」
「ん? トランスフォーマーとコラボしているだろ? 懐かしくてな」
そこへ岸が顔を出す。
「使ってないコントローラーあるんで試してみます?」
山下の目が輝いた。
「頼む」
エアコンを28℃設定にしてクールビスという次元では無くなってしまったお昼休み。
保冷剤に守られていたお弁当を食べ終えると、山下たちは会社を後にした。
何事もお金は必要だ。
役人を前に山下は力説する。
「未来も暑いでしょう。でも、暑さのために死ぬ人はいない。そんな社会をつくりましょう!」
「課長、それ3回くらい聞きました」
誰もが滝のような汗をかいている。山間の建築現場の視察を終え、一行は車に乗り込んだ。
藤田は制汗シートで首筋を拭って一息ついた。
「クーラーボックスに入れてきて正解でしたね」
ハンカチで額を抑えて山下はうなずいた。
「ああ。少しは涼をとってもらえたらいいが、暑くてかなわんな」
運転する岸が言う。
「北海道さえ猛暑ですよ。高地しか涼しくないなんてやばいですね」
そこで藤田はチラリとスマホを確認した。
山下の視線を感じてドキッとする藤田。
「なんすか?」
「……お前、ゲームはやるか?」
「え? まあ、それなりに」
「息子がスマホゲームをやりたいと言い出してな。あれだろ? 最初は無料で、なんだかんだすごい額を使うんだろ?」
「モノによりますよ」
山下は眉間に皺を寄せた。
「スマホを持たせたらすぐこれだ」
「射幸心を煽るタイプのガチャじゃなきゃ平気ですよ」
「バトルゲームで強くなるためには有料のなにがしかがいるんじゃないのか?」
「そういうのもありますけどね。たとえばフォートナイトっていうオンラインゲームは、ファッション部分だけはお金で色々購入できるですけど、武器とか能力は買えないんです。勝負は完全に実力と運です」
「闘うゲームか?」
「100人で銃火器を使ってバトルロイヤルをするゲームです」
「殺し合いか」
「血とかは出ないですし。残虐性はないですよ。あれがダメならドッジボールだって暴力ですよ。アニメや映画とのコラボもあって楽しいですよ。車で乗りつけた孫悟空にライトセーバーで倒されたり」
「何だって?」
「スパイダーバース・ウェブシューターでスイングするスーパーサイヤ人と立体起動を操る悟空ブラックが戦ってたりするんですよ!」
「思ったよりファンタジーだな。それより、ドラゴンボールとしかコラボしないのか?」
「いえ、さっき言ったようにスターウォーズやスパイダーマンや進撃の巨人ともコラボしてます。まぁ、有料の
「うーん。いろんなゲームがあるんだな」
腕を組む山下に藤田は言った。
「課長、よく言うじゃないですか。まず自分で確かめろって。Switchでもできるんで、課長が試してみるべきですよ。息子さんはまだやったことがないんです。そんな状態でプレゼンなんてできませんて。家族で遊んでみて下さい。この炎天下で外遊びなんてできませんしね」
親指にたこがある岸も同調する。
「インフラは理想に対する現実なんですよね? 環境に良い手段は結局は我慢ですから、弱い立場の人ほど苦しい思いをする。この先も殺人的な暑さが続くのは間違いない。だから電線の地下化に合わせて輸送用レーンも備えた共同溝を拡充させる。同じようにスマホで様々なことを行う流れはますます加速しますよ。いまから一緒に学んでおいた方がいいんじゃないですか?」
藤田が囃し立てた。
「課長は家でも上司してた方が息子さんもまっすぐ育つと思います!」
「それは褒めてるのか?」
「課金が悪い意味になるのは寂しいっす。俺たち土建の人間は炎天下を前にしても逃げないじゃないですか。理想と現実の橋渡しをするのが課長ですよ。課長の金はつまり課金! 使えばいいじゃないですか!」
「意味不明だぞ!」
岸は笑った。
「子どもたちにはゲームで遊んで待っていてもらいましょう。炎天下に負けない仕組みができるまで」
山下は遠くを見つめた。
「ヒロトが大人になる方が先だろうな」
山下は
「シルバーより上にいけん。どうすればいい?」
ダイヤモンドIIの藤田は得意気だ。
「ビルドが上手ければそれなりに生き残れるんですけどね? 課長、射撃が下手なんすよ。まずはランク戦じゃない方で練習しましょ!」
「やってるよ。どうすれば1位になれるんだ」
「時間帯によっては猛者が少ないし、シーズンごとに武器も変わるんで、初心者もチャンスありです。でもゴールドはマジ実力です。敵を倒せなきゃ無理ですよ」
山下は口を曲げて肩を落とした。
「む。課金で強くなれる方が存外優しいのかもしれないな。ーーそうだ、コンボイのスキンはないのか?」
「オプティマスプライマルですか?」
「ん? トランスフォーマーとコラボしているだろ? 懐かしくてな」
そこへ岸が顔を出す。
「使ってないコントローラーあるんで試してみます?」
山下の目が輝いた。
「頼む」
エアコンを28℃設定にしてクールビスという次元では無くなってしまったお昼休み。
保冷剤に守られていたお弁当を食べ終えると、山下たちは会社を後にした。
何事もお金は必要だ。
役人を前に山下は力説する。
「未来も暑いでしょう。でも、暑さのために死ぬ人はいない。そんな社会をつくりましょう!」