第1話

文字数 1,280文字

いま私の在る処には、ひどい雨が降っている。夜も遅く、どうしたものかと冷たい光の下で立ち尽くす。傘を持っていったはいいものの、その傘を忘れてきた。また、仕事でも問題をしでかした。人生は往々にして、どうしようもなく運というものの傀儡なのだろう。私はただ、それに従わされている。生まれ持ったもの、環境から得るものの大概は、運によるものだ。私の気質も価値観も私のものではない様に感じる時がある。それは偏に運がそうさせたからだ。私は今日に至るまで精一杯生きてきた。この自負は毎度、社会というものに粉々に打ち砕かれる。私はそれが規定する病を患っている。確かにこれを受けて全てが腑に落ちた。足りなかった一つが見つかった気がした。だが、病があると社会が私に示したところで特に変わることはない。結局私は社会で奇異の目に晒され、それが意識しないうちに除け者にされる。おいてかれないよう社会についていくことも上手に出来ない。ずっとそう生きている間に何かを望むことが出来なくなった。何も得るものはないのだと思わずにはいられない。どこかで夢を見ることができない少女の話を見かけた気がする。夢を見れないことが不幸なのだろうか。それとも、夢を見たところで、何にも触れられないままに、それから醒めるほうが不幸なのだろうか。こんなくだらない思考に行き着くほどに私は追い込まれているのだろう。定期的に鬱屈とした気持ちと不快感でいっぱいになる。しかし、友人と呼べるものにこれを吐き出す気はさらさらない。少しでもそれらに負荷をかけるべきではないと、社会から学んだ教訓が私の中にはある。愛というものが私に十二分にあればこんな陰鬱としたままでいることもないのだろうか。私自身を大切にできるのは私ぐらいであろうというのに、特に心に有効な一手は打てていない。私は私が大切だと、かけがえのないものだと言い聞かせても心根では、それを信じれないのだろう。親は愛をくれたと社会は言うが、私としては「そうだっただろうか。」と、疑問を抱いたままでいる。少なくともあれのするところは、「やってやっている」だの、私の将来の話の際には「私はわからない」とただ一言、心底どうでもよさそうだったと思う。親のせいで私は病を患っているというのに、そう何度も憤慨した。結局あれは変わらなかったし、変わることを信じるほど私も阿呆ではない。でも心根では額面通りに受けていないのだろう。今はもう関係を断ち、何をしているかも知らないのに、未だにこのことが私の疑問としてあり続けている。そして、胸の奥が気持ち悪さでひっくり返りそうになる。私は藻掻こうが、足掻こうが足を取られてどこにも行けない。いっそ楽になろうかとも思うが、それに恐怖を感じて実行には至らないでいる。唯一の救いなのかもしれない。少なくともこの答えを知るのはずっと先になるだろう。鬱屈とした考えが堂々巡りしている間に雨は止んだ。定期的なものなのだから、必ずまた冷たい光のもとに立ち止まる羽目になるだろう。その都度私は言いようのない気持ち悪さを胸の奥に抱えていく。背負って生きていく。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み