第1話

文字数 1,145文字

俺は後藤大樹28歳、5年前に柔道整複師の国家試験に見事合格し、去年、接骨院を開業した。
柔道整複師は骨折、脱臼、打撲、挫傷、捻挫を見ることができる運動学のスペシャルリストだ。
しかし、近年、不正保険請求増加、実費治療などの患者のことを考えていないお金儲けを優先する開業院が多く存在し、柔道整複師の信頼がなくなってきてしまった。
俺は柔道整複師として患者に笑顔になってもらいたい。そう願って柔道整複師になった。
『先生・・・肩があがらなくなっちゃった』
彼は広木君16歳、肩があがらなくなったと訴えてきた。
『わかった、先生に見せてごらん』
まずはしっかり見て、触り、体の状況を把握する。
『三角筋の膨らみが消失、上腕骨頭が鎖骨付近にある』
これは間違いなく、肩関節前方脱臼だ。すぐに整複してあげないと。
プルル、プルル、カチャ
『はい、伊藤整形外科です。どうされましたか?』
伊藤整形外科の先生とは古くから仲良くさせて頂いている。
『後藤です。脱臼の整複に入りたいのですが伊藤先生の同意がほしいのですが』
脱臼、骨折の整複には医師の同意がいる。同意は電話でもいい。
『わかりました。そのかわり、必ず後日、見せに来るように伝えてください』
整複の同意は電話でもよいが必ず、その後、医師の診察が必要だ。そのため、医師との連携をとれるようにしていることが大切だ。
『今から整複にはいるね。リラックスしてね』
脱臼は筋肉が緊張すると整複が困難になる。そのため、患者との信頼関係、リラックスさせることが重要になる。さらにいえば脱臼整複はできる限り、早く整複しなければならない。筋肉が固くなり、手技での整複が難しくなる。
整複方にはコッヘル法、スチムソン法、ヒポクラテス法など多くあるが今回は負担が少ないゼロポディション法を使う。
肩を上に伸ばした状態で整複する方法だ。このやり方なら無理な手技がいらない。
コツン
『よし、はまったぞ』
脱臼は骨折と違い、自然矯正されないから確実におこなわなければならない。
自然矯正とは骨折などで自然にもとにもどす力のことだ。そのため、あえて自然矯正を計算してずらすことがある。
『肩が動く、ありがとう、先生』
この笑顔を見るとこの仕事しててよかったと思えるよ。
『こらこら、まだ包帯固定してないから無理に動かしたらだめだよ』
最後に包帯で固定して終わりだ。
『よし、これで大丈夫だ。あと念のため、伊藤整形外科でみてもらうんだぞ』
外傷はあとが怖いから医師に見てもらう必要がある。ささいな怪我が重篤なことに繋がる可能性があるからだ。
『わかった。ありがとう。それじゃあね、先生』
広木君は嬉しそうに帰っていった。
患者の笑顔を見ると頑張らないといけないと思わされる。
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