第1話

文字数 2,000文字

ぽたり、ぽたり。
一滴、また一滴と、落ちる水滴。
目の前で水滴がぽたぽたと落ちる。

落ちた水滴は塩化ビニールのチューブを通って左腕の静脈へと流れ込み、心臓の鼓動に合わせて私の身体を流れていく。
私は薄暗い病室で、点滴棒につるされた生理食塩水のビニールバックをしょんぼりと眺めていた。
落ちる点滴を眺めながら、始まりの日を思い出していた。

・・・・・・・

最初の兆候は本当に些細なものだった。
頭痛と倦怠感。

「昨日、夜更かし・・、したからかな?」
2017/10月ごろ。
週明けの月曜日に出社した私は、デスクの前で妙な身体の不調を覚えていた。
なんだか、頭がおもい。

「頭痛い。早く帰りたいな・・。」

そのときは、そんなに深刻だとは思ってなかったんです。
ただの寝不足だと思ってました。
昨日の夜は好きな音楽に夢中になって、夜中の2時まで起きてたもんね。

「今日は早く帰って早く寝よう!」
と、意気込んで、なんやかんやで仕事を片付けて、その日は午後7時ぐらいに家に到着しました。
ご飯食べて、風呂入って、9時半にはベットに入った。

「明日の朝、6時半まで9時間は眠れる。」
それで、全部解決すると思ってました。
その時は。

・・・・・・・

翌朝。
目が覚めた。
頭が重い、昨日よりずっと悪い・・。

「なんか変だぞ・・。」

これ、ただの寝不足じゃない。
もう今日は、会社行かない。
病院へ行こう。

「すいません、なんだか体調が悪くて・・。ええ、ええ。病院行ってきます・・。すいません・・。今日は休みます。ええ、ええ。その件は、・・・・。」

上司に気が重い“休みます”の電話をかけて、人心地着いた。この時はまだ、
「ほんとに休むほどの事だったのかな?」
って感じでした。
無理すれば午後から働けそうだな~なんて、あんまり深刻には考えてない。
「まあ、休めばええやろ。」
朝一で地元の総合病院へ、レッツゴー!採血と、問診。
検査の結果が出るのが、三日後ぐらいなのでまた来てください、だってさ。

家に帰ってからは、ベットの上に横になって、天井の模様を眺めながら、音楽を聴いて過ごした。明日には体調、良くなってる。きっと。

・・・・・・・

翌朝。
相変わらず頭が重い。
なんだか不安になってきた。
今日も“お休みします”の電話かけるの、気が重い・・。
とりあえず顔を洗おう。

洗面台で顔をバシャバシャ洗って、顔を上げて・・。あれ?
「なんか、顔変じゃない?なんだか今日の私、ブスだな~」
って思ったんです。もっとシュッとした顔だったはずなのに。

体調悪くて顔がやつれてきたのかな?
結局その日も仕事を休んで、布団にくるまって一日を過ごしました。

・・・・・・・

翌朝。
いや、おかしい!
尋常じゃなく、体調が悪い。

顔を洗おうと思った私は、鏡の前で慄然としました。
めちゃめちゃ顔がデカくなってる!!
もう、ほんとに、顔がむくんでむくんで、二倍近い体積になって、アンパンマンとかお岩さんみたいになってたんです。
まだ検査結果が出る約束の三日目にはなってないけど辛抱たまらず、早朝の営業開始と同時に病院に駆け込みました。

「三日後と言われてたんですけど・・。ええ。凄く体調が悪くて・・。顔もほら!こんなにパンパンになっちゃって!」
「あら~、たしかに!凄く、むくんだね!」

私の顔を覚えていた受付さんが外来を受け付けてくれました。
そこからが、長いこと、長いこと。

内科の問診室の前で待ってるんですけど、なかなか名前呼ばれない。
だんだん身体重くなってきた。もう、椅子にも座ってられない。私は地面にへたり込んだり、床に膝をついて頭を椅子に預けたり、ベンチに横になってみたり。普通の姿勢で座ってられないくらい、体調が悪かったんです。

ようやく名前を呼ばれて、ひとまず血圧測定から・・。そこでびっくり!
「Kaziさん(私)、あなたの血圧、上が70ぐらいしかないですよ!」

血圧が70??
なにそれ、聞いたことないぞ。
血圧が低かったから、体調悪かったのか。
でも、なんで、こんなに低いんだ?

問診室でお医者さんから説明を受けました。目の前を専門用語が乱舞する。頭が混乱していて話がなかなか入ってこない。

「尿たんぱくの値が・・・・。採血の結果・・・・・・。アルブミン・・・。腎臓・・。」

え?
腎臓って言った?

「これは、ネフローゼ症候群という腎臓の病気です!」

ガーン!と頭を殴られたような衝撃。
腎臓!?私、腎臓悪くなっちゃったの??
人前でワケも分から泣いちゃいました。
その頃は、腎臓なんて悪くなったら、人生終わりだと思ってたもんね。
これが私とネフローゼとの出会いです。

「いやいや、大丈夫ですよ!きっと、そんな深刻な状態じゃない。きちんと検査して、治療すれば全く問題ない。大学病院の紹介状書くので、ちょっと待っててください。」

お医者さんと看護婦さんに慰められて、トボトボ家に帰りました。
その日は、目に写る世界が真っ暗に見えた。
世界は残酷で儚かった。
(第2話に続く)
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