第1話

文字数 874文字

 ぼくは本を買いすぎる。買っても買っても本がほしくなる。ある本を買うと別の本に興味がでて、とどまることなく際限がない。
 この膨張をつづける蔵書に読書が追いつくはずはなく、ツンデレならぬツンドク道場となっている。
 それで最近になって、近所の図書館を利用するようになった。
 どうしても自室に架蔵したいものと、図書館では入手できないレアなものと、洋書だけは購入する。そのようにした。

 過日、図書館にでかけて、予約しておいた本を引き上げた際、ぶらぶら歩きながら棚に並ぶ本の背に目をさらしていたときに、村上龍「ユーチューバー」が棚にささっていたので驚いた。驚いたというよりは、ああやっぱりな、という感想が軽く胸を納得させるようだった。
 もはや村上龍の読者でなくなったぼくは、Amazonで「街とその不確かな壁」を予約注文したとき、たまたま「ユーチューバー」の刊行を知り、そして素通りしていた。

 村上龍は創作意欲も激減退しているようだし、「オールド・テロリスト」を端緒に、低セールスの作家となった。
 彼からは不思議なくらい水が引いた印象がある。

 「ユーチューバー」は今年3月の刊本だから、4ヶ月経っているとはいえ本としては新しいといってよい。「街とその不確かな壁」がその2週間後の出版である。

 「トパーズ」でわかるように、かつて村上龍は短篇集もよく売れる作家だった。
 人気作家の新刊は、図書館では予約待ちになるものである。棚になにか平然とした面持ちでささっているなどということはない。
 棚の間に立ったまま、スマホで検索してみる。
「街とその不確かな壁」は、ぼくの利用するこのM図書館に14冊の所蔵があり、貸出数14冊で、予約数259件である。(こんな借りられるのがいつになるかわからないもの、よく予約するなあと感心する)
 「ユーチューバー」は所蔵数3冊、貸出数2冊、予約数0件という検索結果であった。

 村上龍は昔馴染んだ我が青春の作家である。たまたま目の前にその新刊がある。手を伸ばして自動貸出機で手続きすれば早速に自室で快適に読めるのである。さあ、どうする――
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