創られた記憶は勿論、嘘つきだった
文字数 4,196文字
「この三年間、大庭 らいあさんの心と時間は止まったまま。亡くなったご家族も、それでは、あまりに悲しいと思いますよ」
カウンセラーの片瀬 五月 がゆったりとしたリクライニングシートに腰をかけ、落ち着いた物腰で言った。
五月はロングヘアを輪ゴムで束ね、高級スーツに身を包んではいるが、年齢不詳で、学生からは、大学出たての新人女教師とも、適齢期をとっくに過ぎた嫁 き遅れともささやかれている。
高校二年生でボブのショートヘアにしたらいあは、また始まった、とリクライニングシートに浅く座り、内心舌打ちをしながら、
「わたしには、家族が亡くなった以前の記憶がありません。家族は存在していた、それだけが心のよりどころなんです。
最近の先生はその唯一のよりどころから目をそらせて、わたし自身の将来を考え始めろ、という……わたしの頭の中は、そんなに広くて便利じゃありません」
どこかの夜の繁華街の人混みの中で、何者かに次々と鋭利な刃物で刺され、倒れた両親と妹、大きな血だまり、人々の叫び声、その凄惨でかけらのような思い出だけにらいあはすがって生きていた。
「いえ、思い出は大切にしていていいのだけれど、らいあさんはもう十六歳、将来にも目を向け始めないと……」
らいあは黙り込んだ。もう、こんなカウンセリングは終わりにしたい……そう考えたとき、
「では、今日はここまでにしましょう、何かいいきっかけに恵まれるといいのだけれど」
五月はカウンセリングを打ち切った。
らいあは丸窓を多用された真新しい校舎から校庭に出ると、赤レンガ貼りや重厚な神殿のように円柱がそびえ立つ西洋建築がずらり建ち並ぶ校舎は、横浜の山手に中学・高校の六年間一貫教育の私立校として広いキャンパスをもつ常盤坂女子学園として、開港時代からの歴史をもつ名門校だと感じた。こんなお嬢さま学校に収まっていられるということは、父はよほどのものを遺してくれたのだろう……
渡り廊下を歩いていると、ふと、同じ学校に学ぶ生徒二人が、らいあとすれ違いざま会釈をしていった。グレーの三つ揃いの制服は、近隣は勿論、横浜市内のPTAからも評判がいい。不意に、
「どうだった? 五月先生のカウンセリング?」
同じクラスの桂 双葉 が声をかけてきた。どこか、らいあと同じ雰囲気が漂っている。
「亡くなった家族のことを考え続けていてもいいけれど、そろそろ進路とか将来のことを考え始めろ、ってさ。まあ、高等部の心理カウンセラーなんだからそう言うよね」
「家族が全滅させられたらいあにそれ言うの、かなり酷 だよね。一生かけても出来ない人だって……」
双葉がらいあの心中を慮 って言うと、不意に小柄な中等部の生徒が二人を見上げながら、
「大庭先輩、記憶が少ないのなら、ちょっとだけ増やしてみたらどうですか?」
中等部二年生の橋本 実華 だった。双葉同様に何くれとなくらいあに気遣いをしている。
「ちょっとだけ増やすって?」
らいあが思わず聞き返すと、
「ご家族が亡くなったときの状況を調べるんです。何か、新発見があるかも知れないですよ」
このとき、引田 一香 が三人を見下すように声をかけてきた。
「ちょっと、橋本さん、いい加減なことを言わないで。この学校は全寮制。変な情報に振り回されずに、良妻賢母を育成することを第一義としているからよ。そのために、携帯電話の使用禁止、インターネットの接続制限、情報処理の授業だって監視だらけ。こうした隔離された中で、三年も前のしかも殺人事件なんてどうやって調べるつもり?」
最上級生らしく窘めた。らいあはさすがに押し黙った。そうしたらいあに一香は、
「大庭さん、橋本さんのアイデアはなかなかだけれど、すぐにその年齢・身分不詳のカウンセラーに邪魔されちゃう。万端、わたしに任せておきなさい」
自信満々に言ったとき、五月が離れた場所から、
「あなたたち、何の話をしているの?」
学生たちの思惑を探り始めた。一香は不敵に笑うと、
「ほら、監視されているのよ、わたしたち」
教員たちの監視さえもくぐり抜けられる、と言わんばかりに挑むような目つきでカウンセラーを見た。
二時間目と三時間目の間のわずかな休憩時間、らいあと双葉が廊下で他愛もない話をしていると、不意に一香が不自然にらいあにぶつかってきた。
「何ですか、引田先輩!」
双葉が声を荒げたが 一香は謝りもせずに去っていった。
らいあはベストのポケットにメモを押し込まれていることに気づき、一香の走り書きにに目を遣ると、
放課後 図書室
と、あった。もう、教員たちに気づかれることなく、この閉鎖された校内でらいあの家族が亡くなったいきさつを調べられたのだろうか――らいあは去っていく一香の背を見つめた。
放課後、書架が天井まで届く図書室に訪れると、らいあは一香の姿を探した。一香はテーブルの上に本を二冊広げ、らいあと一瞬、目を見交わし、立ち去った。
らいあがテーブルの上に開かれた本を見ると、横浜市の史跡をまとめた資料で、横浜市の目抜き通りである本町通りに面した臨港天主堂について記されたページだった。
臨港天主堂は中華街に近く、日本が開港して初めて建てられた教会堂だった。この天主堂は火災に遭った後、山手に引っ越し、現在は高層マンションになっている。
もう一冊は、学園物の小説で、男主人公が登校しようとしたときに、玄関先で母親に、「英敏 」
と呼び止められている。
らいあは臨港天主堂の住所と英敏という名を覚えると、インターネットに接続されたパソコンに向かった。
幸い、辺りに教員の目はなく、臨港天主堂の住所と大庭 英敏 と入力し、検索すると、
中華街大通りで一家死傷
見出しとともに、日曜日の夕食時間帯でごった返した繁華な中華街で、らいあの両親と妹が鋭利な刃物で刺され、死亡した記事にいき当たった。
しかし、犯人の名は報道されていない。
犯人が未成年だった場合、少年法で報道されない。SNSなら少年法の治外法権で、誰かがぶちまけている可能性がある。
らいあは慎重に画面をスクロールしていくと、
「俺、見ちまったよ、厨房がワンピ、真っ赤にさせてよ、中華街で一家皆殺しだぜ」
「うわっ、リアルホラー。サスペンスかも」
「厨房、赤羽 翼 って、何度も自己紹介してやんの」
らいあの家族を殺したのは、赤羽翼という、当時中学生だったらしい。らいあが茫然としていると、五月が乱暴にパソコンの電源を切りながら、
「大庭さん、インターネットの閲覧には許可が必要です、基本的な校則ですよ、知っていますよね?」
「自分の家族が殺された事件を調べるのに、誰の許可が必要なんですか!」
らいあが五月を怒鳴りつけると、椅子から立ち上がった。五月は、
「どこへ行くの?」
「中華街です、家族の死亡現場を見るのにも許可が必要なんですか!」
「ここから出たら、あなたはおしまいよ!」
五月は、らいあの停学処分をほのめかしたが、らいあは、
「好きにすれば?」
振り返りもせずに、昂然として図書室を出た。
らいあは、横浜市街が一望できるはずの常盤坂女子学院の正門を出ようとしたとき、ワンピースを返り血で真っ赤に染めた女子中学生とおぼしき者が立っていた。
赤羽翼? らいあが直感したとき、翼は、
「ねえ、まだ解らないの?」
怪訝そうにらいあに言った。
らいあは自分の右手を見た。創作したネタを書き溜めしたノートを持っている。ペンネームとして赤羽翼と氏名が書かれている。
翼は自分だった。
らいあは訳が解らず、翼の背後を見た。みなとみらいが一望できるはずだったが、林立した高層ビルはどれも倒壊していた。横浜市は壊滅していたのだった。
らいあがふと振り返ると、コンクリート製の壁には常盤坂女子少年院と銅製のプレートがはめ込まれている。らいあが着ている服は三つ揃えの瀟洒な制服などではなく、粗末なジャージの上下だった。
らいあが中学二年生の夏に、クラスメートとの長電話を再三再四、父親にとがめられ、中華街で食事をしたい、と家族を連れ出し、長女を認めてくれない両親と妹を殺したのは、らいあ自身だった。
そもそもらいあは統合失調症で、小学生の高学年から脳内に交替人格を何人かつくり出していた。
一香も、双葉も、実華も、翼も、五月もそうした交替人格だった。交替人格ならばこそ、主人格の都合に合わせてやって来たり、去っていく。
他者と会話をしていると思っていたのは、らいあだけで、実は女子少年院の中で友人の一人も出来ない生活を送っていた。
その理由として、量刑の軽重によって少年院の中では一目置かれる慣習があり、家族皆殺しの不良少女ならば、文句なしの札付きで、おまけに統合失調症の持病持ちとくれば、誰も近寄らないからだった。らいあは、
「きゃああああああー」
絶叫すると、全ての記憶を失った。
「常盤坂女子少年院の施設長の山科 貴 でございます。
はい、大庭らいあはその後、高度な治療が可能な医療機関に移送となりました。
専門医五名の所見によりますと、大庭らいあは全健忘と呼ばれる記憶を全て失ってしまう症状を発症し、三百九十万都市の横浜市を一瞬にして壊滅させた大庭英敏の監督不行き届きや国の管理責任など、口にしようはずもありません。
まあ、今後、絶対にあり得ないか?
と、問われれば、私も自信はありませんが。
そもそも、横浜が壊滅したときに長女が修学旅行で横浜を離れていたことを見逃していたのは、我々の痛恨のミスですからね。
今後、大庭らいあの記憶が戻ることがありましたら、再び、脳の病を悪化したことにして手の込んだ作り話を覚え込ませるか、あるいは今度こそ、口を完全に封じるか……
そのときに判断すればよろしいかと思いますよ。
わたしとしては、無益な殺生はご免ですが。
では、今日のところはこれで」
山科は、スマホの通話を終えた。(完)
カウンセラーの
五月はロングヘアを輪ゴムで束ね、高級スーツに身を包んではいるが、年齢不詳で、学生からは、大学出たての新人女教師とも、適齢期をとっくに過ぎた
高校二年生でボブのショートヘアにしたらいあは、また始まった、とリクライニングシートに浅く座り、内心舌打ちをしながら、
「わたしには、家族が亡くなった以前の記憶がありません。家族は存在していた、それだけが心のよりどころなんです。
最近の先生はその唯一のよりどころから目をそらせて、わたし自身の将来を考え始めろ、という……わたしの頭の中は、そんなに広くて便利じゃありません」
どこかの夜の繁華街の人混みの中で、何者かに次々と鋭利な刃物で刺され、倒れた両親と妹、大きな血だまり、人々の叫び声、その凄惨でかけらのような思い出だけにらいあはすがって生きていた。
「いえ、思い出は大切にしていていいのだけれど、らいあさんはもう十六歳、将来にも目を向け始めないと……」
らいあは黙り込んだ。もう、こんなカウンセリングは終わりにしたい……そう考えたとき、
「では、今日はここまでにしましょう、何かいいきっかけに恵まれるといいのだけれど」
五月はカウンセリングを打ち切った。
らいあは丸窓を多用された真新しい校舎から校庭に出ると、赤レンガ貼りや重厚な神殿のように円柱がそびえ立つ西洋建築がずらり建ち並ぶ校舎は、横浜の山手に中学・高校の六年間一貫教育の私立校として広いキャンパスをもつ常盤坂女子学園として、開港時代からの歴史をもつ名門校だと感じた。こんなお嬢さま学校に収まっていられるということは、父はよほどのものを遺してくれたのだろう……
渡り廊下を歩いていると、ふと、同じ学校に学ぶ生徒二人が、らいあとすれ違いざま会釈をしていった。グレーの三つ揃いの制服は、近隣は勿論、横浜市内のPTAからも評判がいい。不意に、
「どうだった? 五月先生のカウンセリング?」
同じクラスの
「亡くなった家族のことを考え続けていてもいいけれど、そろそろ進路とか将来のことを考え始めろ、ってさ。まあ、高等部の心理カウンセラーなんだからそう言うよね」
「家族が全滅させられたらいあにそれ言うの、かなり
双葉がらいあの心中を
「大庭先輩、記憶が少ないのなら、ちょっとだけ増やしてみたらどうですか?」
中等部二年生の
「ちょっとだけ増やすって?」
らいあが思わず聞き返すと、
「ご家族が亡くなったときの状況を調べるんです。何か、新発見があるかも知れないですよ」
このとき、
「ちょっと、橋本さん、いい加減なことを言わないで。この学校は全寮制。変な情報に振り回されずに、良妻賢母を育成することを第一義としているからよ。そのために、携帯電話の使用禁止、インターネットの接続制限、情報処理の授業だって監視だらけ。こうした隔離された中で、三年も前のしかも殺人事件なんてどうやって調べるつもり?」
最上級生らしく窘めた。らいあはさすがに押し黙った。そうしたらいあに一香は、
「大庭さん、橋本さんのアイデアはなかなかだけれど、すぐにその年齢・身分不詳のカウンセラーに邪魔されちゃう。万端、わたしに任せておきなさい」
自信満々に言ったとき、五月が離れた場所から、
「あなたたち、何の話をしているの?」
学生たちの思惑を探り始めた。一香は不敵に笑うと、
「ほら、監視されているのよ、わたしたち」
教員たちの監視さえもくぐり抜けられる、と言わんばかりに挑むような目つきでカウンセラーを見た。
二時間目と三時間目の間のわずかな休憩時間、らいあと双葉が廊下で他愛もない話をしていると、不意に一香が不自然にらいあにぶつかってきた。
「何ですか、引田先輩!」
双葉が声を荒げたが 一香は謝りもせずに去っていった。
らいあはベストのポケットにメモを押し込まれていることに気づき、一香の走り書きにに目を遣ると、
放課後 図書室
と、あった。もう、教員たちに気づかれることなく、この閉鎖された校内でらいあの家族が亡くなったいきさつを調べられたのだろうか――らいあは去っていく一香の背を見つめた。
放課後、書架が天井まで届く図書室に訪れると、らいあは一香の姿を探した。一香はテーブルの上に本を二冊広げ、らいあと一瞬、目を見交わし、立ち去った。
らいあがテーブルの上に開かれた本を見ると、横浜市の史跡をまとめた資料で、横浜市の目抜き通りである本町通りに面した臨港天主堂について記されたページだった。
臨港天主堂は中華街に近く、日本が開港して初めて建てられた教会堂だった。この天主堂は火災に遭った後、山手に引っ越し、現在は高層マンションになっている。
もう一冊は、学園物の小説で、男主人公が登校しようとしたときに、玄関先で母親に、「
と呼び止められている。
らいあは臨港天主堂の住所と英敏という名を覚えると、インターネットに接続されたパソコンに向かった。
幸い、辺りに教員の目はなく、臨港天主堂の住所と
中華街大通りで一家死傷
見出しとともに、日曜日の夕食時間帯でごった返した繁華な中華街で、らいあの両親と妹が鋭利な刃物で刺され、死亡した記事にいき当たった。
しかし、犯人の名は報道されていない。
犯人が未成年だった場合、少年法で報道されない。SNSなら少年法の治外法権で、誰かがぶちまけている可能性がある。
らいあは慎重に画面をスクロールしていくと、
「俺、見ちまったよ、厨房がワンピ、真っ赤にさせてよ、中華街で一家皆殺しだぜ」
「うわっ、リアルホラー。サスペンスかも」
「厨房、
らいあの家族を殺したのは、赤羽翼という、当時中学生だったらしい。らいあが茫然としていると、五月が乱暴にパソコンの電源を切りながら、
「大庭さん、インターネットの閲覧には許可が必要です、基本的な校則ですよ、知っていますよね?」
「自分の家族が殺された事件を調べるのに、誰の許可が必要なんですか!」
らいあが五月を怒鳴りつけると、椅子から立ち上がった。五月は、
「どこへ行くの?」
「中華街です、家族の死亡現場を見るのにも許可が必要なんですか!」
「ここから出たら、あなたはおしまいよ!」
五月は、らいあの停学処分をほのめかしたが、らいあは、
「好きにすれば?」
振り返りもせずに、昂然として図書室を出た。
らいあは、横浜市街が一望できるはずの常盤坂女子学院の正門を出ようとしたとき、ワンピースを返り血で真っ赤に染めた女子中学生とおぼしき者が立っていた。
赤羽翼? らいあが直感したとき、翼は、
「ねえ、まだ解らないの?」
怪訝そうにらいあに言った。
らいあは自分の右手を見た。創作したネタを書き溜めしたノートを持っている。ペンネームとして赤羽翼と氏名が書かれている。
翼は自分だった。
らいあは訳が解らず、翼の背後を見た。みなとみらいが一望できるはずだったが、林立した高層ビルはどれも倒壊していた。横浜市は壊滅していたのだった。
らいあがふと振り返ると、コンクリート製の壁には常盤坂女子少年院と銅製のプレートがはめ込まれている。らいあが着ている服は三つ揃えの瀟洒な制服などではなく、粗末なジャージの上下だった。
らいあが中学二年生の夏に、クラスメートとの長電話を再三再四、父親にとがめられ、中華街で食事をしたい、と家族を連れ出し、長女を認めてくれない両親と妹を殺したのは、らいあ自身だった。
そもそもらいあは統合失調症で、小学生の高学年から脳内に交替人格を何人かつくり出していた。
一香も、双葉も、実華も、翼も、五月もそうした交替人格だった。交替人格ならばこそ、主人格の都合に合わせてやって来たり、去っていく。
他者と会話をしていると思っていたのは、らいあだけで、実は女子少年院の中で友人の一人も出来ない生活を送っていた。
その理由として、量刑の軽重によって少年院の中では一目置かれる慣習があり、家族皆殺しの不良少女ならば、文句なしの札付きで、おまけに統合失調症の持病持ちとくれば、誰も近寄らないからだった。らいあは、
「きゃああああああー」
絶叫すると、全ての記憶を失った。
「常盤坂女子少年院の施設長の
はい、大庭らいあはその後、高度な治療が可能な医療機関に移送となりました。
専門医五名の所見によりますと、大庭らいあは全健忘と呼ばれる記憶を全て失ってしまう症状を発症し、三百九十万都市の横浜市を一瞬にして壊滅させた大庭英敏の監督不行き届きや国の管理責任など、口にしようはずもありません。
まあ、今後、絶対にあり得ないか?
と、問われれば、私も自信はありませんが。
そもそも、横浜が壊滅したときに長女が修学旅行で横浜を離れていたことを見逃していたのは、我々の痛恨のミスですからね。
今後、大庭らいあの記憶が戻ることがありましたら、再び、脳の病を悪化したことにして手の込んだ作り話を覚え込ませるか、あるいは今度こそ、口を完全に封じるか……
そのときに判断すればよろしいかと思いますよ。
わたしとしては、無益な殺生はご免ですが。
では、今日のところはこれで」
山科は、スマホの通話を終えた。(完)