第5話 おまけ②「再会後」

文字数 3,425文字


インヴィズィブル・ファング伍
おまけ②「再会後」


 おまけ②【再会後】



























 無事に帰ってきたジキル、ハイド、ストラシス、モルダン、ハンヌたち。

 それぞれが想いの丈をぶつけるように、御主人のもとへと向かっていた。





 ―ミシェルの場合

 「モルダン!!!ハンヌ!!!本当に心配したんだからね!!大丈夫だった?!ちゃんとご飯は食べてたの!?モルダンってば、ちょっと痩せたんじゃない?ハンヌも羽根の艶が無くなった気がするわ!!やっぱり、私が面倒みなきゃダメなのね!!モルダンもハンヌも、一緒にお風呂入りましょ!綺麗綺麗しなきゃダメね!安心して!ちゃーんとぬるま湯で洗ってあげるからね!でも、もともと可愛いのに、もっと可愛くなっちゃったら、そこらへんの変な野郎どもに狙われないとも限らないわ・・・。いえ!そんなことは絶対にさせないわ!!!モルダンもハンヌも、私のものなんだからね!!!何があろうとも、私が守ってみせるんだから!!!モルダン!ハンヌ!いいわね!知らない人には着いて行っちゃダメよ!それから、シャルルにも着いて行っちゃダメよ!!さ!お風呂に入りましょ!」

 お風呂が嫌いなモルダンをがっちり抱っこすると、そのまま風呂場へと向かう。

 ハンヌはその後を大人しくついていくと、分かってはいたが、シャワー室で大暴れするモルダンと、そのモルダンを押さえるミシェルとの格闘を眺めていた。

 いつもモルダンが嫌がるのは分かってるんだから、シャルルにでも連れてきてもらえばすぐに洗えるのに、と思ったが、そんなことを言ってしまえば、ミシェルはまたすぐに拗ねてしまうだろう。

 泡でガシガシと洗われているモルダンを可哀そうに思いながらも、ハンヌは自分の番が来るまで、大人しくそこで待つしかなかった。

 シャワー室からモルダンが逃げないようにと鍵をかけて、また鍵を変えられないように、外でしっかりと見張るのもハンヌの役目。

 中からは、まるで断末魔の叫びのようなモルダンの雄叫びが聞こえてくるが、だからといってここで逃がしてしまうと、身体が濡れたままシャルルのところへ行くだろうから、シャルルも不機嫌になってしまう。

 その連鎖を止めるためにも、ハンヌはそこで待ち続ける。

 意気消沈でシャワー室から出てきたモルダンを見たときには、あまりに悲惨で何も声をかけられなかったが。

 「あ!モルダン何処に行くの!ちゃんと拭かないと風邪ひいちゃうでしょ!」

 「にゃあ!!!」

 「もー!!!」







 ―ヴェアルの場合

 「ストラシス、心配かけたな。けど、俺はお前のことを信じてたぞ。きっと何処で俺のことを待ってるってな。ミシェルんとこのモルダンとは違うんだ。勝手に何処かへ行くなんて思ってなかったぞ。それに、俺だってストラシスを待ってたんだ。お前は可愛いからな。何処かの野郎に連れて行かれたとしても、俺は絶対に助けに行くし、ストラシスなら自分でなんとか出来るって思ってたしな。あれ?ストラシス、ここ怪我してるぞ。まったくしょうがない奴だな。俺がいないと自分で治療もすることが出来ないのか。ほらこっちにこい。大人しくしてるんだぞ。ちょっと消毒して包帯巻くからな。ほら終わった。お前はホントに良い子だな。何処かの誰かさんの猫とは大違いだ。よく見ると羽根が少し汚れてるな。綺麗に拭いておくか。なに?嫌なのか?確かに、お前は夜行性だからあんまり綺麗にしておくのもな・・・。よし分かった。お前の好きなようにすればいいさ。もし綺麗にしたくなったら俺に言えよ?その時は綺麗にしてやるからな。餌もまだだったな。上等な餌を俺が捕まえてきてやるから・・・え?自分で捕まえるって?ストラシス、お前は疲れてるんだからちょっと休んだ方が良い。待ってろよ」

 ストラシスは自分は平気だと言っているのに、ヴェアルはルンルン気分で獲物を捕まえに行く。

 猛禽類のストラシスは、夜になれば何匹でも捕まえられるというのに、ヴェアルは今すぐストラシスにご飯を食べてもらいたいようで、出かけてしまった。

 やれやれと呆れていると、ストラシスの部屋に毛が濡れたままのモルダンが入ってきた。

 あたりをキョロキョロと見て、床の臭いを嗅いだかと思うと、そのまま部屋から出て行ってしまった。

 そういえば、此処はシャルルがしょっちゅう本を読んでいる場所だ。

 きっとシャルルを探しに来たのだろが、残念なことに、ここにはストラシスの御主人であるヴェアルの臭いしかないだろう。

 そのヴェアルは今出かけてしまっているし、ストラシスは片目だけを閉じて寝た。

 「ストラシス!捕まえてきたぞ!見ろこのウサギを!!!!良い感じに肉もついてて美味しそうだろう!?」

 ゆっくり寝ようとしたストラシスの前に、さすがというべきなのだろうか、ヴェアルが獲物のウサギを捕まえて戻ってきた。

 早いなと思っていると、その手にあるウサギを見てなんとなく申し訳なく思ってしまった。

 怯えるような目でこちらを見ており、どうにも食べることが出来ない。

 だからといって、ヴェアルが一生懸命捕まえてきたそのウサギを、いらないと突き返すことも出来ないでいた。

 そのとき、グッドタイミングというべきか、モルダンを探しに来たミシェルが入ってきた。

 「ねえ!モルダン来なかった!?ちょっとヴェアル!!!何でウサギ持ってんのよ!」

 「ストラシスのために捕まえてきたに決まってるだろ。それよりミシェル、モルダンに逃げられるなんて、相変わらずだな。モルダンはシャルルに任せた方が良いんじゃないのか?」

 「げっ。それ食べるの?超可哀そうなんだけど。ヴェアルって残酷だったのね。シャルルに言い付けてやるわ」

 「生きるためには弱肉強食だろ。シャルルだって肉は食べるだろ」

 「そんなことより、モルダン知らない?こっちの方に来たと思うんだけど」

 ストラシスは、ミシェルの後ろからやってきたハンヌを見ると、ハンヌはここにモルダンが来たことが分かった。

 しかし、それをミシェルに伝えることはせず、ヴェアルの部屋から去って行く。







 ―シャルルの場合

 「やれやれ。まったく、静かに出来んのか、あいつらは。なあ、ジキル、ハイド」

 シャルルの両肩に止まっているジキルとハイドは、その言葉に同意するかのように、羽根をバサバサと動かした。

 ミシェルのように甘やかすわけでもなく、ヴェアルのように愛でるわけでもなく、シャルルはただただ静かに同じ時を過ごす。

 その空間が心地良いのか、ジキルとハイドは夢心地だ。

 シャルルも目を瞑ると、まどろみの中に片足を突っ込んだがその時。

 「モルダン見なかった!?」

 「五月蠅い奴だ。見れば分かるだろう。此処にはいない」

 「そんなわけないわ!!!モルダンがシャルルのところ以外に行くなんて、有り得ないもの!!!」

 「お前、それ自分で言ってて悲しくないのか」

 ミシェルは自分で言っておきながら、シャルルにそう言われるとガクン、と項垂れてしまった。

 しかし、シャルルの言うとおり、ここにはモルダンはいないようだ。

 ミシェルは諦めてそこから離れ、階段を上って行く。

 「・・・・・・おい、マントが濡れるだろう」

 「にゃあ」

 シャルルのマントの影には、ミシェルが探していたモルダン。

 「まったく。マントで身体を拭くのは止めてほしいものだ」

 「にゃあ」

 シャルルに甘えるようにして、モルダンは生乾きのその身体のまま、シャルルの膝の上に乗った。

 じんわりと冷たく感じる膝に、シャルルは眉間にシワを寄せるが、モルダンはいつものようにそこで身体を丸めてしまったため、シャルルはため息を吐く。

 「あーーーーーー!!!やっぱりいた!!!!」

 「騒がしい」

 「シャルル隠してたのね!モルダンを返してもらうわよ!」

 「隠れてたのはこいつだ。返すもなにもさっさと連れて行け」

 「モルダン、ほら、身体拭き拭きしましょうねー」

 「しゃあ!!!」

 ミシェルから逃げるようにして、モルダンはシャルルンの膝から下りて逃げた。

 それからしばらく、ジキルとハイドとのゆったりした時間を過ごす予定だったシャルルの周りを、ミシェルとモルダンが走りまわり、それに気付いたヴェアルたちもやってきた。

 「追いかっけっこか。ストラシス!俺達もやるか!」

 「モルダン!良い子だからおいで!」

 「・・・・・・」

 ため息をつきながら、シャルルはゆっくりと目を閉じた。





 「静かに出来んのか」


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