第1話

文字数 1,377文字

 地元の花火大会の帰りだった。
 もう夏も終わり近く、バイトが忙しくって今年は海やプールにも行かず、何の思い出もないから、せめて夏の終わりに花火でも見ようと結愛は女友達を誘って出かけたのだ。
 花火はもちろん綺麗だった。
 行って良かった。
 でも見てしまったのだ。
 昔好きだった同級生の彼。
 イケメンで勉強ができて、スポーツもできた。
 その彼をひさしぶりに見たのだ。
 花火大会で。
 でも横にはかわいい彼女らしき人がいた。
 おそろいの浴衣なんか着て。
 ショックだった。
 そりゃあれほどのイケメンなんだから彼女もいるだろう。
 でも見たくはなかった。
 それが目について花火どころではなくなった。
 花火大会は終わり、その二人はこちらに目をくれることなく楽しげに消えていった。
 意気消沈せざるをえなかった。
 友達とは花火を見たあと、ファーストフード店でダラダラとお互いの愚痴を言い合って別れ、家まで帰るには小さな公園を突っ切るのが近かった。
 街灯がポツンと一つしかない暗い公園の隅の地面付近にそこだけ明るいところがあった。
「わーっ、きれいだーっ」
「うわっ、あついよーっ」
「気をつけないと。火の粉がかからないようにしないとね」
 とか、声をあげている。どうやら男の子と女の子、それとその両親の家族らしき四人が手持ち花火を興じているらしい。
 遠目にも色とりどりの花火が見てとれた。
 女はベンチに腰掛けた。
 なんだか無邪気にも花火を遊ぶ家族がうらやましかった。
 でも、そういえば自分にもそういう子供時代もあったと思い出した。
 しばらく眺めて、うらやましがってばかりいないで帰ろうと腰をあげ、家族の近くを通り過ぎ、家に帰るべく公園を出ていった。

「よかったーっ。行ってくれて」
 母親は若い女の後ろ姿を見送って声をあげた。
「どうして?」
「あんた見なかったの。この公園、花火夜十時までって看板でてたじゃん」
「そうなのか」
「通報でもされたらどうしようかと」
「ふんっ」
 子供は無邪気に花火をつづけている。
「これからどうすんのよ」
 女は不機嫌そうに子供の父親に訊いた。
「さあ、どうするかだな」
「どこ行くの?」
「さあな。せめてこの花火が終わるまで待ってくれよ」
「花火って、こんなのすぐ終わるじゃん」
「なんだったら、もっと大きな花火セットをとるんだったな」
 この花火セットは家族で商店街のおもちゃ屋に入り、店員と防犯カメラに家族で目隠しブロックさせて、この男はカバンに入れてとってきたものだった。
「よく、こんな状態で花火しようという気になるね」
「夏の思い出だろ。子供にとったらなおさらだ」
 男はたばこをくゆらさせながらつぶやいた。
 女はなんでこんな男と結婚したんだろうと思った。
 ギャンブル好きは結婚前からわかっていた。
 でも、節度を守ってやっていた。
 結婚後、二人の子供ができた。
 ギャンブルはきっぱりやめてくれるはずだった。
 ところがかくれてやって、借金していた。
 あげくの果てには借金とりに追いかけられ、たえきれず夜逃げとなった。
 行くあてなどなかった。
 商店街で少ない所持金で食事してから歩き、いつしかこの小さな公園にたどりついたのだ。
 この男と別れたとて、二人の幼い子をかかえて生きていく自信はなかった。
 今、燃えつきようとする線香花火を見つめながら、ため息をつくしかなかったのだった。
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