企画書

文字数 6,113文字

【アーティスト名】
パンチラ・イン・ガールズ

【アーティスト概要】
 現役女子高生のORCO(MC)とSARA(DJ)からなる2組ガールズヒップホップユニット。SARAが同級生のORCOを誘う形でユニットが結成され、ユニット名もSARAが名付けた。さらにSARAはユニットのマネージャーも務める。

【メンバー】
・ORCO(オルコ)
本名:弥藤吾 薫子(やとうご かおるこ)
身長:169cm 誕生日:2月4日 出身:埼玉県
 パンチラ・イン・ガールズのMCを務める天才ラッパー。高校2年生。
 抜群の歌唱スキル、マイクなしでも会場の端まで届く声量の凄さ、普通に話していても聴き入ってしまう透き通った声質などはどれも天性のものがあるが、真骨頂は感情が爆発した時に発せられるバイブス(熱量)にある。
 MCバトルにも多数出場し連戦連勝中。「ひとつ言えば、恒河沙(ごうがしゃ)言い返される」と恐れられる圧倒的な力で、何人ものラッパーをマイクはおろか箸も握ることができない廃人にしてしまっている。
 実は、いつもはオドオドとしか話せない非常に内気で大人しい性格で、音楽の知識も皆無。
 ラッパーとしての才能が発揮されるのは、本人の感情が揺らいだ時に「天から何かが降りてくる感じがする」という、正に天賦の才によるもの。いわゆる『憑依型』のアーティストである。
 ちなみに本人はラップをかました後で冷静になり、「なんであんなことをしてしまったんだろう」「なんてことを口走ってしまったんだろう……」と後悔することが非常に多い。
 スレンダーな体型で、髪形はロングヘアー(いつも自分で切っているため勝手にアシンメトリーになるが周囲からは素敵だと思われている)、モデルに間違えられるくらいの美少女である。

・SARA
本名:皿屋敷 美弥(さらやしき みや)
身長:159cm 誕生日:1月8日 出身:大阪府(関西弁は出ない。現在は東京在住)
 パンチラ・イン・ガールズのDJ兼マネージャー。高校2年生。
 DJとしてのスキルはそこそこ。音楽の知識はかなりある。
 大人相手にも一歩も引かない強気の姿勢でユニットの活動を支え、周囲からはDJとしてよりもマネージャーとしての才覚を認められている。
 ユニットの活動・売り出し方もSARAが主導権を持って決めており、ORCOのルックスの良さと自分達の若さをウリにしているのもSARAの方針。「パンチラ・イン・ガールズ」という女子が名乗るには危ういユニット名だったり、SARA本人は三つ編みにセーラー服という出で立ちでステージに上がる(ちなみにORCOはSARAの見立てでファッショナブルな服装である)など、あざといやり方が目立つ。
 ステージの下での性格は、はっきり言ってかなり傲慢。ORCOに対しても自分の言うことを守るようにキツめに言いまくる。一方で、ORCOの凄さを誰よりも認めており、彼女のことを一番上手に扱えるのは自分だと信じて止まない。

【代表曲】
・『おっさんドモ!』
 デビュー曲。世の中のおじさん達に対し、ORCOがアップテンポなビートに乗せて女子高生目線の強烈なディスをかまし続ける危険な曲。ラジオで最初にこの曲が流れた時、耳にしてしまったおじさん達の心が大量に折られ、当日~翌日の日本経済が傾く、インフラがめちゃくちゃになる事件が起きた。そして、その事件が話題になった後日に勇気ある放送局が(視聴率目当てで)パンチラ・イン・ガールズを自局の音楽番組に呼びこの曲を生放送で歌わせることになる。歌唱前におじさん向けに警告のテロップとアナウンサーによる注意の呼びかけが行われる異様な事態となり、歌い始めると司会の大物タレントは心をへし折られ、画面の向こうも大惨事に。
 だが、この放送で初めて公になった曲の後半の歌詞が、「でも、そんなおっさん達でも毎日頑張ってるし、リスペクト&感謝」的な内容であることが明らかになる。なんとこれにより司会の大物タレントも含めおじさん達は一気に救われた気分になり、翌日からのおじさん達の奮闘により、ほとんどの上場企業の株価が年初来高値を更新することになった。

・『MisL』
 幻の未発表曲。正式タイトルは『Music is Legal(音楽は合法)』
 元々はエナジードリンクのCMのタイアップ曲として制作された。「エナジードリンクをイメージして、聞けば気分が最高に上がる曲にして欲しい」という飲料メーカーの依頼を受け、SARAによるエナジードリンクの成分をイメージした激しく中毒性のあるビート、ORCOによる耳ざわり最高の韻を踏んだ至高の曲が出来上がった。だが、一般発表前に完成した曲を聞いた飲料メーカーの重役達に、「恍惚の表情を浮かべたまま精神がアッチの世界に飛び、戻って来なくなる」「今の生活をやめてハワイでサーファーになると決める」「曲を聞き終わった途端に服を全部脱ぎ街へ飛び出す」などの深刻な影響が見られ、あまりにも危険ということで封印されてしまった。当然、CMのタイアップは流れた。

・『見ザル・言わザル・持たザル』
 デビュー曲より後の発表だが、実はユニット結成初期に制作された曲である。このユニットの楽曲は、リリックは全て「天から何かが降りてきた」状態のORCOによって書かれるが、この曲だけは素の状態の「弥藤吾薫子」が書いたもの。テーマは『本当は大したことがない私達』というもの。スローなビートに乗せ、パンチラ・イン・ガールズの2人の本心が自問自答するかのように歌われている。

【STORY&HISTORY】
 皿屋敷美弥は昔から、「きっと自分には他の誰にもない、すごい何かがある」と信じていた。
 しかし、その何かが何もわからないまま、どこにでもある特徴が無い平凡な私立高校に入学し、極めて平凡な高校生活を始め1か月が経っていた。これまでの15年間の人生で、特に大きなことを成したこともなく、頭もそこまで良くなければ運動神経が良いわけでもないこともわかってきた。

 もしかして、自分は、平凡な人間なのか? 普通なのか?

 そんな考えが美弥の頭の中で膨らみつつあったある日の昼、校内放送が彼女の――そして、もう一人の運命を変えたのだった。

「検定の申し込みは、今週末までです。みなさん、是非参加をしましょう」
 それは、放送委員会所属の生徒が原稿を読み上げる、英語の検定試験の受験を促す放送だった。原稿の執筆者は、英語教師の吉崎。校内でも中堅に位置する男性教師で、美弥と原稿を読んでいる生徒の担任でもあった。
 吉崎は毎回検定の時期が近付くと受験を生徒に必死に勧めており、検定合格者を出すことで自分の評価を上げることを目的としているのは誰の目から見ても明らかだった。彼が受け持ったクラスの生徒達もおよそ1か月で吉崎が「そういう人間」であることを察し、当然美弥も例外でなく――
「でもその検定、誰のためなんだろうね、先生」
 平凡を自覚しつつある10代である自分の周りには、やはりつまらない人間が溢れているものなのかと人生に絶望をしかけていた彼女の耳に、突然『検定(e ei)』と『先生(e ei)』で韻を踏んだ軽妙な声が聞こえた。
 それは、間違いなく先程まで原稿を読んでいた放送委員の生徒――弥藤吾薫子の声だった。
 だが、その声に込められている感情が、熱量が、違った。
 まるで別の人格に切り替わったような感じ――
 美弥はもちろん、放送を聞いていた校内の全員が驚いている間に、弥藤吾薫子の放送は続く。
 バックに音楽はかかっていないはずだったが、彼女のリズミカルな語り口は聞く者に「これは音楽だ」と思わせた。
 その聞き心地の良い声が作り出すのは、英語教師・吉崎への苛烈かつ的確、そして時にコミカルな非難の連打だった。
 そう、強烈にディスっていた。

「ネイティブ気取った珍妙な滑舌、まるで長州力。
 今度行っちまうぞ確実に、強襲しに」
 突如始まったお昼の校内ラップ放送は、『長州力(ou uu ii)』と『強襲しに(ou ou ii)』という固い韻が踏まれ、終わる。
 生徒達は大喝采。職員室は大騒ぎとなり、すぐに教師達が放送室へ駆け込んだ。
「おいっ! お前、いったい何を――」
「――え、私……あっ、もしかして……きゃああ! ごめんなさあああい!」
「いいからマイクを切って職員室まで来なさい!」
 放送室内のパニックの様子が校内放送で流れる中、生徒達は「今のは何だったんだ」「とにかくめっちゃヤバかった」と口々に叫んだ。
 呆然と聞いていた美弥の頭の中にも周囲の生徒達と同じ感想が過ぎっていたが、次の瞬間に全く別の文字列が浮かび上がった。
「こ れ だ」

 校内放送を使い担任教師への中傷を行い休職にまで追い込んだ弥藤吾薫子は、問題の放送の2日後に2週間の停学を言い渡された。
 そして停学が明け、「絶対ヤバいヤツ」と全校生徒の間で有名になっていた薫子に話しかける者など誰もいなかった。
 クラスメイトのただ一人を除いては。

「ワタシと、ユニットを組みましょう。
 アンタがMCで、ワタシがDJ」

 放課後、うつむきがちに校門へと向かう薫子に、そう語りかけたのは皿屋敷美弥。
 そして続ける。

「同じ中学の子から聞いたよ。アンタ、昔っからスイッチ入ってやっちゃうんでしょ、ラップを」
 いきなり何なんだこの人はと思ったが、薫子は確かにその通りだと心の中で返事をした。
 そして、直接口に出して言った。
「ふ、普通じゃないでしょ。そ、それで毎回ろくなことにならないし、イヤなの」
 そうだ。初めて「天から何かが降りてくる感じ」がしたのは、小学校1年の時。クラスのガキ大将ポジションの男子に、女子なのに背が高いことをからかわれ泣きそうになった時――
 漏れ出たのは、目からの涙ではなく、口からのラップだった。
 ガキ大将はその後、学校にまた来られるようになるまで半年かかるほどの心的外傷を負い、薫子は保護者を学校に呼び出され怒られた。
 そしてこれまでの間、幾度となく自分でも制御できない言葉の数々が口から飛び出して、周囲をめちゃくちゃにし自身を不幸にしていった。
 現に今回も、高校生活1か月で停学処分という事態を起こしてしまった。
 だから、本当に自分の中の制御不可能な「異能」のようなものが疎ましかった。

「いやいや、その普通じゃないのを、求めてんの。
 ワタシも、そして、音楽も」

 それなのに、目の前に現れたクラスメイト・皿屋敷美弥はそんなことをあっけらかんと言った。

「ワタシね。アンタと音楽やるために、1週間かけて親を説得したの。
 高校生の間にもらう3年分のお小遣い前借りして、給料前借りできるように親戚の店でバイトも始めた。DJやるための機材とか、本とか、色々買ったんだよ。
 技術も知識も全くゼロだけど、バイトしながら必死にソッチの勉強中でさ」
「え?」
 呆気に取られる薫子を他所に、美弥は「だからさ」とまくし立てた。
「アタシが普通じゃないことを証明するためには、普通じゃないアンタが必要なの!
 アンタとアタシで組んで、普通じゃないことをするの! だってアタシは普通じゃな――」
 美弥は一瞬言葉に詰まる。だが、意を決した様子でまた口を開いた。
「――アタシは、普通で、つまんないヤツなのかもしれない。でもね、どう考えても普通じゃないアンタを、弥藤吾薫子ってとんでもないヤツを使いこなすことで――特別な何かになりたい」
 薫子は沈黙した。何を勝手なことを言っているんだ、私を使うって何様のつまりだ、私はあなたの何なのだ、そんな色々なことが頭の中で渦巻く。そして行きつく感情は怒り――そう思いかけた時、胸の中で何かが弾けた。
「あ、あなたも全然普通じゃないと思うけど?」
 そんな捨て台詞と共に、薫子は爆笑した。
「え? いや、一瞬あのラップをアタシも喰らうことになるのかと身構えたんだけど……そ、そう?」
 
 翌日、2人のユニットの名前が決まる。
『パンチラ・イン・ガールズ』だった。
 美弥が自信満々に出したその名前に薫子は顔をしかめたが、他の候補はもっと酷く卑猥な名前だったため、それに決めるしかなかった。
 そんなユニット名と、「ORCO」という新たな自分の名前を掲げ、音楽の世界に飛び込むことになったのだ。

 そこは、普通じゃない私の力を使って、賞賛を浴びることができる世界だった。

 気が付けば、さあこれからラップを口にしよう、音楽的な活動をしようと思うことで「降りてくる感じ」をコントロールできるようになっていた。

 もしかしたら、音楽によって私は救われるのかもしれない。

 めちゃくちゃな理由とやり方で私をこの道に誘った皿屋敷美弥――今はSARAと名乗っている彼女に、ORCOは恨みと小さな感謝を込め、ステージに今日も向かっていく。


【グッズ】
『パンチラ・イン・ガールズ オフィシャルステッカー』
「あ、よくわからないけど何かヒップホップっぽいな」と思わせる、いかにもな字体でユニット名をあしらったステッカー。平常時のORCOが完成品を目にし、開口一番「読めない」と漏らしたのは関係者の間では有名な話である。

『チェキ(3枚セット)』
 アイドルのそれと同じサイン入りのチェキで、ORCO単独・SARA単独・ORCOとSARAのツーショットの3枚セットで販売されている。ORCOのルックスを簡単かつ効果的に活用しようというSARAの発案で生まれたグッズで、本来の性格が内気なORCOは当初チェキなんて絶対に嫌だと引かなかったが、「ファンとのツーショットはしない」「SARAもやること」などの条件を出しつつ最終的に折れた。
 SARAはORCOのチェキを売るためなら自分のも販売されることなど全く気にしないし、そもそも自分はORCOにルックスで敵うわけないんだからどうでもいいとさえ考えていた。だが、チェキを買ったファンの男達の「SARAのは別にいらねえから安くしてくれねえかな」「いや、SARAだって悪くねえと思うけど? ……マニア向けっぽいけど」という会話をたまたま聞き、その日の夜SARAは枕を涙で濡らした。

『暴韻暴色バンダナ』
「桃太郎(oo aou)は どこだろう(oo aou)」
「歌舞伎町(aui ou)の カスミソウ(aui ou)」
「桜並木(aua aii)に 枕配備(aua aii)」
「タルトタタン(auo aa)は 惡の華(auo aa)」
など、よくわからない韻を踏んだ短文がサイケデリックな色使いでビッシリと書かれたバンダナで、中心にはオフィシャルステッカーと同じデザインのユニット名が大きく配置されている。ファンの間では「ライブの時にはこれを身に着けてこそファンである」とされている。
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