我、魔王也。勇者に倒されるが故に文を残す所存。

文字数 2,687文字

 我は魔王である。この世において、われの他に敵なしと謳い生きてきたが、勇者に討たれることと相成った。とどめを刺されると思うた瞬間に「何も残さず死ねるか」と呻ったところ、勇者に短文の遺書を残すことを許され今に至る。なお、今も我の首筋には勇者が剣を突き付けてるが故に、反撃することは叶わぬ。許せ。

さて、もう書くことが無くなった。

いや、本来遺書といえば、人間なら自らの子に対して、遺産などの配分やその他もろもろの相続についてしたためるものであろう。しかし、この文は勇者が見るやもしれぬ。その場合何が起きるか。もちろん一族郎党皆殺しという無惨な結末である。大変まずい。ものすごくまずい。よって、もし、仮に、万が一、我の息子や娘がいたとするなら、そして、この手紙を読んだとするなら、謝っておこう。

すまぬ。まじすまぬ。なお遺産は多分人間どもに荒らされる。超すまぬ。

というかほんとうにヤバい。具体的に言うとだんだん文体が取り繕えなくなってきたぐらいにはヤバい。え、だって遺書書いてる間はまだ延命されるんだよ?だったらできるだけながーく書きたいじゃん?なのに書くことがしょっぱなから無くなるなんてどういうこと?誤字脱字してないかめっちゃ気になるんですけど。最初のほうもなんか文末統一できてないし。推敲したい。許してくれそうにないなあ。背後すごい殺気なんですけど。そのくせ書いてるの見ようとしてくるから今必死に体で隠しながら書いてます。多分、正面から見たらなんかの踊りみたいに見えるはず。

うー、ていうか、勇者に今日倒されるなんて夢にも思わなかったから、最後の晩餐まともなもの食べてないんですが。たしか、そうビスケット!昨日徹夜でクルータスとチャカロックやってたからさあ。あ、チャカロックってあれね、人間でいうところのチェスね。はー、こうやってわざわざ遺書にまで説明を書いてあげるほど慈悲深いのに何で滅ぼそうとか考えるわけ?もっとこうさああるでしょ?まず最初は対話から、とか。んでその次は朝貢。そして、併合。段階を踏んでほしいわけよね。いきなり貴様は悪だ!滅ぼしてくれる!とかそっちの都合じゃん?ほんとないわ=。まあ、最初から対話する気もなかったけどさ=。でも、こうさ、我の考えてることは人間にはわかんないじゃん?伝えてないからさ。それなのに勝手に我の気持ちを考えずに、きめつけるとか、よくない。よくないよそういうの。いつかそういうのが自分の身を滅ぼすと思うよ我。

何の話してたっけ?そう晩餐だよ!ビスケットはあんまりじゃない?チャカロックが面白すぎたからいけないんだけどさー。最近クルータスが新戦法が見つけて、ってまた話がずれそうになってた。まあ、どうせ人間とかはチャカロックとかやんないだろうしいいでしょ。書かなくて。ん?書いた方が字数は稼げるのか?えー、どうしよう。まあいいか。自分で調べてね。クルータスやられたっぽいけど。

んでビスケットだよビスケット。何回ビスケットって書いてるの我。魔界には珍味妙味いっぱいあるのにさー。ん?なんか今勇者が「魔界にそんなものがあるとは信じられない」とか言ってきたんですけど。おまえまた覗いてたな!さっきもう覗かないって言ったじゃん!弱者の最期の叫びを踏みにじる行為をするとか許せん!これだから人間は支離滅裂すぎるんだよー。強者も弱者も関係なく滅ぼす、と決めたなら滅ぼす。弱者は助けると決めたなら、たとえ少し前まで強者だったとしても助ける。そういう首尾一貫した行いをしてないから魔王をのさばらせたんじゃないの?これから大丈夫?今度は人間同士で対立したら目も当てられないんだけど。

まーた話がそれた。えっと魔界にはグルメがないって?

甘い

あ、いや人間の味が甘いってわけじゃなくて、態度が甘いってことね。え、何?人間って探求心の塊じゃないの?昔葬った自称(笑)勇者がそう言ってったんだけど。もしかして魔界には珍しい食べ物とかないって思ってるの?だとしたらいけませんね。魔界にもいっぱいあるからね。食べ物。魔界を悪く言われたら我黙ってはいられない。特別に珍味を紹介してやろう。ありがたく思え。人間ども。フハハハハハハハハ!あ、妙味ではなく珍味なのはいやがらせね。

えーと、何にするかな。あれだ!グールだよ!グール!魔界珍味ランキング1位(魔王調べ)だよこれは!

うーーっわ、勇者がめっちゃ嫌な顔してるんですけど。ダメだねー。食べたことがないからそんなことが言えるんだよ。あのね、たしかに99%のグールは腐ってる。食べれたもんじゃない。それは認める。でもね、ごくごくまれにいい感じに発酵したやつがあんの。これが絶品なのさ。ほとんどが魔力体である我の魔力が活性化するんだから間違いない。あれは人間も食べてみるべき。見つけるのは難しいんだけどね。サテアス魔将軍が非常にうまかった。奴の持ってくるのは大抵絶品の奴だったからなー。元気してるだろうか、サテアス。

あ、倒されたらしいわ。サテアス。今勇者から聞いた。

まじでー。ウソやん。サテアスー(涙)。はー。つら。てことはあいつが持ってた技術知識がみんな無くなったってことでしょー。やばー。いや、我らホラ千年二千年生きるから、技術とか継承しようとか思わなくなるんだよねー。んで、倒されたりなんかして消滅するとそいつが持ってた技術が全部消えてしまう。我は「魔界技術継承問題」って名付けてたんだけど。うわー。もっと真剣に取り組めばよかったー。なんてことだ。グールに関して言えば、15年くらい前に持ってきたやつが一番絶品でさー。やる気がみなぎりすぎて、近くの人間の国をちょちょいと滅ぼせるぐらいだったんだよー。ん?

勇者ってその国の王子だったらしいわ。

あー。そういえば見覚えあるあるー!あのときめっちゃ泣き叫んで逃げてたヤツじゃん!えあんとき10歳くらい?うわー時の流れを実感するわー。ってやめてやめて剣がめっちゃ震えてる。切らないでね?まだ書き終わってないよ?はー、いや、10年20年とか魔界の感覚で言ったら一瞬にも満たないからさー。そっかー。あの時憎しみの目で我を見ていた子がもうこんなにも大きくなるのかー。って、これ我の自業自得じゃね?

勇者で思い出した。ぷぷっ。いやさっきの戦いで我にちっとも効かなかった剣技のなかでめっちゃダサいやつがあったからさー。書いとくね?勇者今めっちゃ足元見て震えてるし。このすきに。

「くらえ!タラッシュ直伝!スプラッシュクッラシュスラッ
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