天使のお誘い
文字数 1,456文字
今日、ここのレストランに来てくれないか・・・
もはや連絡も取らなくなった友人から来たメール。そんな彼の誘いに乗って、僕は指定された場所に出かけた。意外とすぐ近くで、駅から歩いて5分くらいのところだった。学校にいた時からかなりの人気者で、大学を出た後もいい思いをしているであろう彼が、今更僕に何の用があったのだろう?不思議なものだけど、どうせならいろいろ話を聞いてみたくなった。
レストランに着くと、友人がテラス席からさわやかな表情で手を振っていた。結構見た目も豪華そうな建物で、予約を取るのも大変そうな上、値段も高そうだ。しかも全部おごりとくると、やはり相当な金持ちになったのだろう。
「おお、久しぶり。そのまま座っていいよ。」
友人に言われるままに、僕は木でできた上品な椅子に座った。
「健太久しぶり。なんか前にもましてオーラがあるね」
「そうか?」
「うん。金持ちそうな顔してる」
彼に対して、僕は率直な感想を告げた。同級生もたいていはお金ない、質素な人生を送っているのに、健太はとても裕福そうな感じだ。起業でもして成功したのだろう。実際、彼のお父さんは大手企業の社長だし、交友関係の広さと頭の良さを考えれば、たいして驚くこともない。格好もおしゃれで、いい感じのヘアスタイル、整った顔立ちもうらやましい。
「ところで、今日はどうしたの?急に呼び出してきたけど」
「ああ、実はな・・・お前にちょっと、うまい話をくれてやろうと思って」
「うまい話?」
「そうだ。お前の人生を一転させられるような、超絶やばい話をな」
そう言って彼は、これまた高価そうなカバンから健康食品や化粧品など、僕としてはあまり興味のない代物を取り出した。メーカーは同じ会社らしく、それらしい印が商品に刻まれている。ただ、どこからどう見てもこれらのものが健太のいう、うまい話につながるとは全く思えなかった。少なくとも、僕にはそう見える。
さっきまで緩やかに吹いていた風が、一気に不穏な流れに変わり始めた。別のテラス席に座っている女性の白い帽子がその風によってこちらまで飛ばされる。僕は女性の帽子をできるだけ汚さないように、そばまで言って渡した。
健太の席に戻ると、彼は「やっぱり、やさしいな」と言って、また話を戻した。
「俺、いろんな業界を見てきたけど、やっぱし、お前みたいないいやつって、なかなかいねえよ。何よりも他人を思いやってる、ほんと、すげえよ。でも、そういうやつほど報われない」
「え?」
「お前、中学高校と、いじめられてきたんだろ?大学生の時も、俺がサークルに誘わなかったら、多分やばかったじゃん」
「ああ、まあ」
「この社会、たいてい報われるのは悪いやつらばっかり。実際、この世の成功者の大半はそんな奴らで埋め尽くされてる。俺も結構苦労した。お前はどう?」
考えてみると、就職したはいいものの、確かにきついことばっかりかもしれない。小さいころ嫌な思いをしてきた人間はいつかはいい思いができる、そんな言葉も聞いたけど、いつなんだよって感じ。それどころか、僕をいじめてたやつは今は成功して若者に人気なんだとかどうとか。
楽しい人生かと問われたら、そうじゃないかもしれない。
「うん、僕もそんな感じ」
「やっぱり・・・。狂ってんな、お前みたいな善人がいつまでもそんな思いしなきゃいけないなんて。俺はお前を救ってやりたい」
そう言って、健太は力強く僕の手を両手で握ってきた。
そして、こうささやいた。
「マルチ商法、やってみないか?」
もはや連絡も取らなくなった友人から来たメール。そんな彼の誘いに乗って、僕は指定された場所に出かけた。意外とすぐ近くで、駅から歩いて5分くらいのところだった。学校にいた時からかなりの人気者で、大学を出た後もいい思いをしているであろう彼が、今更僕に何の用があったのだろう?不思議なものだけど、どうせならいろいろ話を聞いてみたくなった。
レストランに着くと、友人がテラス席からさわやかな表情で手を振っていた。結構見た目も豪華そうな建物で、予約を取るのも大変そうな上、値段も高そうだ。しかも全部おごりとくると、やはり相当な金持ちになったのだろう。
「おお、久しぶり。そのまま座っていいよ。」
友人に言われるままに、僕は木でできた上品な椅子に座った。
「健太久しぶり。なんか前にもましてオーラがあるね」
「そうか?」
「うん。金持ちそうな顔してる」
彼に対して、僕は率直な感想を告げた。同級生もたいていはお金ない、質素な人生を送っているのに、健太はとても裕福そうな感じだ。起業でもして成功したのだろう。実際、彼のお父さんは大手企業の社長だし、交友関係の広さと頭の良さを考えれば、たいして驚くこともない。格好もおしゃれで、いい感じのヘアスタイル、整った顔立ちもうらやましい。
「ところで、今日はどうしたの?急に呼び出してきたけど」
「ああ、実はな・・・お前にちょっと、うまい話をくれてやろうと思って」
「うまい話?」
「そうだ。お前の人生を一転させられるような、超絶やばい話をな」
そう言って彼は、これまた高価そうなカバンから健康食品や化粧品など、僕としてはあまり興味のない代物を取り出した。メーカーは同じ会社らしく、それらしい印が商品に刻まれている。ただ、どこからどう見てもこれらのものが健太のいう、うまい話につながるとは全く思えなかった。少なくとも、僕にはそう見える。
さっきまで緩やかに吹いていた風が、一気に不穏な流れに変わり始めた。別のテラス席に座っている女性の白い帽子がその風によってこちらまで飛ばされる。僕は女性の帽子をできるだけ汚さないように、そばまで言って渡した。
健太の席に戻ると、彼は「やっぱり、やさしいな」と言って、また話を戻した。
「俺、いろんな業界を見てきたけど、やっぱし、お前みたいないいやつって、なかなかいねえよ。何よりも他人を思いやってる、ほんと、すげえよ。でも、そういうやつほど報われない」
「え?」
「お前、中学高校と、いじめられてきたんだろ?大学生の時も、俺がサークルに誘わなかったら、多分やばかったじゃん」
「ああ、まあ」
「この社会、たいてい報われるのは悪いやつらばっかり。実際、この世の成功者の大半はそんな奴らで埋め尽くされてる。俺も結構苦労した。お前はどう?」
考えてみると、就職したはいいものの、確かにきついことばっかりかもしれない。小さいころ嫌な思いをしてきた人間はいつかはいい思いができる、そんな言葉も聞いたけど、いつなんだよって感じ。それどころか、僕をいじめてたやつは今は成功して若者に人気なんだとかどうとか。
楽しい人生かと問われたら、そうじゃないかもしれない。
「うん、僕もそんな感じ」
「やっぱり・・・。狂ってんな、お前みたいな善人がいつまでもそんな思いしなきゃいけないなんて。俺はお前を救ってやりたい」
そう言って、健太は力強く僕の手を両手で握ってきた。
そして、こうささやいた。
「マルチ商法、やってみないか?」