第1話 タクシーを拾う女

文字数 1,408文字

○神奈川県KM市内、関東の小京都

お盆のシーズン 9:00pm

東京のメガバンク本店に勤務していた総合職のA子は、管理職として神奈川県KM市内の支店に赴任してきたハイミスである。
はーいらいらするわ。人はいないし、お金は合わないし最悪だわ。
冷蔵庫から冷えた麦茶をグイッと一口飲むA子。
それにしても関東の小京都と言われるKM市内で、瀟洒な一軒家が月二万円だなんて、なんておトク。ラッキーだったわ。
ミーンミンミン(蝉時雨)
はー、それにしても蒸し蒸しする熱帯夜だわ。

こういう夜は、クーラーをキンキンに効かして稲山順蔵の怪奇サイトでも聴いて寝るに限るわ。

携帯で、稲山順蔵の怪奇サイトにアクセスするA子。
...まだ昭和のバブル期の話ですよ。東京の青山墓地ってのは、六本木から近くてね。クラブ、当時はディスコで散々遊んで終電を逃した客がここからタクシーを拾って帰った...

まあ、青山墓地の通りってのは、うまいラーメン屋が並んでるから、夜勤のタクシーが休憩してがてら集まってくる...

...それでもって、MMKタクシーの運転手さんが休憩中に後ろをバックミラー越しに見ると、いつのまにかワンレンボディコンの若い女が座ってる...
...女が神奈川県KM市まで行ってくれというもんだから、こりゃロングの客だと運転手もいやとは言えない。ええっいとばかりに女の指定した住所に車を走らせた...
...車は、KM市内の大きなお寺の裏にある一軒家の前に着いた。運転手がメーターを下げて、五万八千円になりますって、うしろを振り返るとシートがジトッと濡れてて誰もいない..,
...あれっ、おかしいな。運転手さんは、一軒家の呼び鈴を鳴らす。中から旦那さんが出て来た。東京から若い娘さんを乗せて来たんですけどね、指定された家の前に来たら消えちゃってと運転手が言ったら...
...またですか。娘は数年前に亡くなりました。ええっ、六本木のディスコで不良外人に不法薬物を酒と一緒に飲まされまして...急逝でした。

...ムスメの魂は、まだ六本木辺りを彷徨っているのでしょう。毎年、お盆になると青山墓地からタクシーを拾って、こうして帰省するのです...ですので料金は、こちらで全額弁済させていただき...

携帯を切るA子。
ううっ、さぶ。

シャワー浴びて早く寝よう。

背筋がゾォっと寒くなってきたA子。
コンコン!コンコン!
誰かしら?こんな夜更けに。
玄関に応対に出るA子。
夜分遅くにすみません。MMKタクシーの者ですが東京から乗られましたお客さんを指定された住所のここにお連れしたんですが、もう後部座席にはおられなかったものですから...
そ、それってもしかして...
ええ、青山墓地からお乗りいただいた若い女の方で、今時ワンレンボディコンのバブル期のような格好をされてて、ひどく泥酔したご様子で...
あの貝汁不動産めっ、どうりでバカに安いと思ったら、幽霊付きだったなんて。お盆があけたら、猛烈なクレームだわ。権利金敷金なしで、新築マンションに引っ越してやる。
新築マンションの4階に引っ越してから丁度一年後、お盆。22:00
はーっ、やっぱり新築はいいわ。
アイスコーヒーを口に含むA子。
ピンポーン!ピンポーン!
誰かしら、こんな夜更けに...
インターホン越しに話すA子。
はーい、どなた?なんの御用かしら?
夜分遅くにすみません。MMKタクシーの者ですが、階下に女性のお客様をお連れして...
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色