第1話
文字数 1,050文字
楽しい晩餐。
とは言えないことくらい初めから分かっていた。
「テスト、どうだった」
父のその一言に、僕は思わず視線を下に落としてしまった。
一気に、口の中の好物は味がしなくなる。
「学年で二番だったらしいわよ、すごいわよねー」
そんな反応を知ってか知らずか、母はおっとりと僕を褒めてくれる。しかし父は何も言わずじっと僕を見るだけだ。あくまで僕からの反応を待っているのが分かる。
「……ケアレスミスで、何点か落として……それで」
じわっと、汗が滲む。
父は「そうか」と一言呟いた。
「ごめん、約束守れなくて」
約束だった。
テストで学年一位をとる。
そういう条件で、僕はいろいろと父に融通をきいてもらったのだ。父からすれば、詐欺に遭ったようなものだ。
「一位の子の、爪を煎じて飲まないとな」
ぼそりと、父が呟く。
「……お父さん、爪の垢じゃなくて?」
「爪の垢を煎じて飲まないとな」
母の指摘に何もなかったかのように言い直した。
いや、少し耳が赤い。気にしている。
「お父さん、爪だと剥がして煎じることになるからとっても大変よ?」
追い打ちする母。
たぶん悪気はない。
あと爪を剥がすのは大変だが、爪の垢をもらうのも大変だと思う。主に精神的に。
どこの世界に「煎じて飲みたいから爪垢ちょうだい」に快く頷いてくれるのか。変態である。
「で、次はどうなんだ」
父は全てスルーした。
心なしか食べるスピードが速くなっている気がする。
今日、全テストの結果が発表されたところで、次の話をされても正直何と答えて良いのか難しいというのが本音ではある。
だが、父が求めているのはそんな現実的な話ではないことくらい分かっている。
「ちゃんと学年一位とってくる」
父は再び「そうか」と呟き、満足気に笑った。
この答えで間違っていなかったらしい。
そんな親子のやり取りを、母も微笑ましい目で見てくる。
「いいわねぇ、男の約束って感じで」
ほのぼの笑う母に緊張がほぐれる。
次は勝つ。
失敗を振り返るのも大事だけど、ちゃんと前を向くことも大事だ。
「対策は?」
「とっくに始めてるよ」
父はもう何も言わなかった。
僕も決意新たにテーブルを見渡す。
「母さんのおかげで、次はきっと一位になれるよ」
爪の垢どころじゃない。
彼の全てを食べているのだ。賢くならないわけがない。
それに一位は空席になったのだ。次負ける道理もない。
「応援してるわね」
ニコニコと母が笑う。
父は何も言わずに黙々と食事を進める。
僕は次の糧にするために、しっかりと彼を頬張った。
とは言えないことくらい初めから分かっていた。
「テスト、どうだった」
父のその一言に、僕は思わず視線を下に落としてしまった。
一気に、口の中の好物は味がしなくなる。
「学年で二番だったらしいわよ、すごいわよねー」
そんな反応を知ってか知らずか、母はおっとりと僕を褒めてくれる。しかし父は何も言わずじっと僕を見るだけだ。あくまで僕からの反応を待っているのが分かる。
「……ケアレスミスで、何点か落として……それで」
じわっと、汗が滲む。
父は「そうか」と一言呟いた。
「ごめん、約束守れなくて」
約束だった。
テストで学年一位をとる。
そういう条件で、僕はいろいろと父に融通をきいてもらったのだ。父からすれば、詐欺に遭ったようなものだ。
「一位の子の、爪を煎じて飲まないとな」
ぼそりと、父が呟く。
「……お父さん、爪の垢じゃなくて?」
「爪の垢を煎じて飲まないとな」
母の指摘に何もなかったかのように言い直した。
いや、少し耳が赤い。気にしている。
「お父さん、爪だと剥がして煎じることになるからとっても大変よ?」
追い打ちする母。
たぶん悪気はない。
あと爪を剥がすのは大変だが、爪の垢をもらうのも大変だと思う。主に精神的に。
どこの世界に「煎じて飲みたいから爪垢ちょうだい」に快く頷いてくれるのか。変態である。
「で、次はどうなんだ」
父は全てスルーした。
心なしか食べるスピードが速くなっている気がする。
今日、全テストの結果が発表されたところで、次の話をされても正直何と答えて良いのか難しいというのが本音ではある。
だが、父が求めているのはそんな現実的な話ではないことくらい分かっている。
「ちゃんと学年一位とってくる」
父は再び「そうか」と呟き、満足気に笑った。
この答えで間違っていなかったらしい。
そんな親子のやり取りを、母も微笑ましい目で見てくる。
「いいわねぇ、男の約束って感じで」
ほのぼの笑う母に緊張がほぐれる。
次は勝つ。
失敗を振り返るのも大事だけど、ちゃんと前を向くことも大事だ。
「対策は?」
「とっくに始めてるよ」
父はもう何も言わなかった。
僕も決意新たにテーブルを見渡す。
「母さんのおかげで、次はきっと一位になれるよ」
爪の垢どころじゃない。
彼の全てを食べているのだ。賢くならないわけがない。
それに一位は空席になったのだ。次負ける道理もない。
「応援してるわね」
ニコニコと母が笑う。
父は何も言わずに黙々と食事を進める。
僕は次の糧にするために、しっかりと彼を頬張った。