第1話 貴方よ、溶けないで。

文字数 487文字


 私は嫌いだ。




 夜の帳に雪が降る。

 「これくらいじゃ積もらないね」と楽しそうに寄り添いながら会話をするふたり。その姿を横目で見ながら通り過ぎていく。

 赤く冷たくなった指先を暖めようとした白い吐息は、触れる事無く空へと霞んでいく。

『見て、雪だよ! 積もるかな?』
『好きだよ。君と寄り添って歩ける、寒い日が好き』




 寒い日が、私は嫌いだ。




 白い景色に浮かんでは消えていく、貴方の後ろ姿。追いかけても追いかけても、伸ばしたこの手は届かない。
 傍に貴方がいない事は分かっている。貴方と私の足跡が重ならない事も分かっている。

 分かっているけれど、瞼の裏には貴方がいる。この景色の中に、ずっとそこに貴方がいる。




 雪降る夜が、私は嫌いだ。




 どんなに降っても、どんなに積もっていても、必ず最後は溶けてしまう。子どものようにはしゃぐ貴方が、楽しそうに笑う貴方の横顔が、雪とともに消えてしまう。


 春が来れば、私はまた貴方を失ってしまうから。




 寒い日が嫌いな、雪が嫌いな私を……好きな貴方が好きだった。

 ああ、貴方よ……溶けないで。


 零れた涙がつららにならないように。


 ああ、貴方よ……溶けないで。
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