月夜

文字数 1,927文字

「さてと、荷物を降ろさなきゃな」
 その声にはっと目が覚めた。
 びくりと体が浮き上がる。
「なんだ?寝てたのか?」
 リィーグルが驚いたように聞く。
 どうやら起きていると思っていたらしい。
「え・・・あ。はい」
「目を開けながら寝るなんて器用だな」
 笑いながら、車の後ろへ行くリィーグル。
 そして、トランクを開け荷物を降ろす。
「手伝います」
 私も車を降り、荷物を家の中へ運ぶ。
「たくさん買い物したのですね」
「ああ、おまえの分も考えて買ったしな」
 いつの間に?
「でも、必要なかったみたいだな」
「あ・・・。すみません。わざわざ買ってくださったのに」
 荷物を運びながら、買ってくれた物を見る。
 カップに食器・・・それから、服。
「え・・・あの。いつの間にこれ?」
 私は服を手に持ち広げてみた。
 淡い若草色のワンピース。
「なにも着る物がないんじゃ不便だろ?」
 それはそうだけど・・・。
 私はいままでリィーグルの服を着ていた。
 ぶかぶかの服の裾を折り曲げて、かなり不格好だった。
「それ持っていくか?」
 ワンピースを手に持ったまま見つめているとリィーグルが聞いてきた。
「いいんですか?」
「お前のために買った物だし、俺が着るわけに行かないだろ」
 私はクスリと笑った。
「確かにそうですね。ありがとうございます」

 荷物を片付けて一段落。
 すでに日が陰って森の影が一層濃くなってゆく。
「さてと、夕食の準備でも・・・」
「あの。私が作ります!」
 私はとっさに立ちあがった。
「それって、俺の料理を食べたくないと?」
 リィーグルがちらりと睨むように見る。
「あ、え。あのあの。そんなつもりじゃなくて・・・」
 慌てて首を振り、手を顔の前でバタバタさせる。
「分かってるって。んじゃ頼む」
 ニッと笑ってリィーグルは私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「はい!!」
 私はうきうきとキッチンの方へと行った。
 リィーグルに今までのお礼を込めて。
 と思ったのは良かったが・・・。
 あれ?れ?
「おい。何か焦げてないか?」
 不意に後ろから声がする。
「え?ああぁぁ。焦げてます!!」
 私は慌てて火を消しに走ろうとする。
「きゃっ。つっ」
「うわっ。ばか!何やってんだ!」
 慌てたため包丁を落っことして指をかする。
「ああ。火を消さなくちゃ」
 パニクッた頭で必死に考え火を消す。
「大丈夫か?手伝うけど?」
 あきれ顔で見ていたリィーグルが見かねて尋ねた。
 額に手を当てて見ていられないと言う様子。
「だ、大丈夫です」
 私はピースで答えた。

 なんとか出来上がったそれはひどい有様だった。
 焦げて黒い炭になってる物体。
 なんだか分からない変な色のスープ。
 大きく膨れている何か・・・。
 あえてまともなのがサラダ。
 見てすぐに分かる。
 ・・・・・・。
 朝食とたいして変わらない気がする。
 むしろこっちの方がひどいかもしれない。
 そう思いながらリィーグルを見ると黙々と食べている。
 それにしても、おかしいな。
 作り方だけは覚えてるのに作った記憶がない。
 私も黙々と食べながら考える。
 と言っても食べれるのはサラダだけだけど。
 こんなはずじゃなかったのに。
 もっとおいしくて・・・とは言わない。
 せめて食べられるものが作りたかったな。
 何となく申し訳なくて、無言のまま食べているリィーグルに声をかけられない。
 もっとも、おいしい?なんて聞けない。
 ―――。
 無言のままリィーグルは食べ尽くした。
「えっと、片付けますね」
 私は気まずい雰囲気に耐えられず立ち上がった。
「ごちそうさま」
 リィーグルはそう言って皿を持って立った。
「次に会うときまでに料理ぐらい上達しろよ」
 そしてそのままキッチンへ。
 私もそれに続いて自分の皿を持ってゆく。
「あの。まずかった?ですよね」
 おいしいと聞けないので遠まわしに聞いた。
「大丈夫。何とか食える」
 皿を洗いながらリィーグルは答えた。
 それって・・・
 まずいって言ってるんですね。
「喜んでもらおうと思ったのですけど」
 はあ。とため息が出る。
「気にするな。初めて作ったんだろ?」
 え?
 初めてなのかな。
 料理の手順だけは頭に入ってるのに?
 まるで本で読んだ知識のように。
 カチャン
 最後の一枚が洗い終わる。
「さてと、どうする?」
 リィーグルが手を拭きながら言う。
「え?」
「だから、このまま寝るなら機能の部屋を使ってもいいし
 それとも、他に何かしたいことでもあるか?」
 したいこと?
 ああ、最後だから何か思い出を作ろうと?
 もう日は落ちて辺りが暗いのに。
 !!
「星空が見たいです!!」
 私はとっさに叫んでいた。
「じゃ。そこら辺を散歩でもしてくるか?」
 微笑んで手を差し出すリィーグル。
「はい!!」
 私はその手を握った。
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